センチメタル

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1/24/2024, 10:47:38 AM

 お題:【逆光】


 まだ幼い頃、絶対に届かないと知りながら、子供心で太陽に手を伸ばしたことがある。

 その時の気持ちは、口では表せないだろう。

 憧れ、渇望、好奇、嫌悪、疑問、狂気。
 そのどれかかもしれないし、違うかもしれない。

 とにかく、私は太陽へと手を伸ばしたのだ。

 いつも当然のように空にあって、ただ煌々と輝き続けているそれ。

 無論、届く訳もなく、大きく開かれた右手は日を食らうだけに終わる。

 指の隙間から、隠しきれなかった分の光が溢れ、目を焦がすような熱と共に、目を突き抜けたかのように全身へと行き渡る。

 全身が注がれていく熱量は、無意識に震えてしまうほどに膨大な物だった。

 私は無知ながらに、その瞬間、太陽と言う絶対的な存在を明確に認識したのだ。

 世界には、人知の及ばない物が存在することを、私は知ってしまったのだ。

 だから……まあ、言いたいことは分かるよね?

 こんな老体の話を聞いてくれて感謝するよ。
 一切の益がない、面白くもない話をさ。


 そこまで語ると、両目を双眼鏡で隠した老人は一息ついて、紅茶の注がれたカップを口元に寄せる。

 不思議なことに、カップの縁までなみなみと注がれた液体を見る老人の目は、焼け落ちていた。

1/23/2024, 11:14:19 AM

 ・お題【こんな夢を見た】


 宵闇の霧、紫の閃光、ありもしない嬌声。
 蛍光色の輝きが映し出したネオン街は、玩具のような面を見せている。

 その中に私が居る。がらんどうの空き地で、不思議な自販機を前に立っている。

 不思議な自販機は、古典的な髭剃りやら、ミニチュア化された唐傘を売っていた。

 私は、その内の商品のひとつを購入すると、ゲームのアイテムを使うかの如く、使い方も分からない商品を一瞬で使ってみせた。


 ①場面が瞬間的に変化する


 ネオン街の一角、がらんどうの空き地には、二人の少女が転がっていた。

 その内の少女の一人、私は、頭の中で溢れ出す快楽物質に星型と化した目を回しながら、もう一人の少女に対して腑抜けた声で話しかけていた。

 少女は語る。曰く、私の使用した商品は、そういう目的の商品、なのだとか。

 腑抜けた私は、その商品への認識を深めることもせずに、ヘラヘラとした笑いで返す。

 楽しい。楽しいのだ。退屈なのに笑えてくる。
 蕩けるような快感。味わったこともない快楽。
 ドロドロと溶け落ちていく、固形物だった物。

 それに身を任せて、胎児のように体を丸くする。


 ②過程の消失:記憶だけの付与


 少女に手を引かれ、蕩けた頭のままでネオン街の隅々をのらりくらり。

 何処に行っても虹色と紫が続いて、不思議と笑いが大きくなる。

 少女のうんざりとした表情にも気づかずに、少女の腕にも見える木の枝を振り回しながら、私は意気揚々とその足を進めた。


 ③場面が瞬間的に変化する


 廃洋館の一室、大階段を超えた先。
 出迎えとして現れたパペットに連れられて、館の主を名乗る者の部屋の前へとやってきた三人。

 パペットを階段から突き落とすと、部屋の扉を蹴破り、人気のないその部屋を荒らしに荒らす。

 屑石と、宝石と、あと金色のコイン。
 好きな物を漁っては奪い、鞄に詰めこむ。


 ④記憶の混在:再現出来ない濁流


 馬鹿な一人に起こされ、人形の群れは流れを作り出した。

 川を流れていく魚のように、人形は三人を嘲笑うかのように部屋を埋め尽くす。

 馬鹿は潰れた。脱落だ。
 二人目を人形の方へと押し出して、三人目は階段を目指す。

 しかし、失敗した。
 階段の下には、先に突き落としたパペットが待ち受けているのだ。

 階段側の壁、僅かな出っ張りに両手の指を掛けて必死に人形が流れ去るのを待つ。

 待つ。

 待つ。

 耐える。

 待ち続ける。

 必死に堪える。

 まだ。

 まだ。

 終わらない。

 続く。

 耐える。

 堪える。

 ちぎれる。

 脱落だ。

 重力に身を任せて、階段へと落ちていく。

 三人目、つまり私は、階段。


 ⑤夢の終了:現実への回帰


 人形の濁流へと、見知った部屋で、底に、は。

1/22/2024, 3:31:09 PM

 ・お題【タイムマシーン】


 昔から、好きになったゲームは直ぐに終わってしまうのが当たり前だった。

 好きだから早く攻略した、好きなジャンルだから動かすのも得意だった、とか、そういうわけじゃない。

 大人の都合で、サービスが終わったりするんだ。

 仕方ないこと、とは分かってる。
 寧ろ、よく自分の目に止まるまで、終わってこなかったなと思うこともよくある。

 けど、そうだからって悲しさが無くなるはずがないんだ。

 終わりを感じる程、もっと遊びたいって思える。
 それが出来ないことに震えて、涙が出てくる。

 悔しくて、寂しくて、そんな感覚から逃げるようにちゃんとした終わりさえも、見ようともせずに離れてしまう。

 定期的に、本当に終わるんだろうか、なんて考えてしまって、公式サイトを開いたりもする。

 うんともすんとも言わない、或いは、サービス終了に合わせたイベント告知。
 どっちだったとしても、見ているだけで悲しい光景が晒されているだけなのに。

 もっと続けばいいのに。
 それか、お金を払った人にだけそのゲームのデータをくれたりしないかな、なんて考えたことも沢山ある。

 でも無理だった。
 どれだけ有名なゲームでも、どれだけ素晴らしいゲームでも、終わりを告知した時点で未来が無くなってしまった。

 昔に戻りたい、わけじゃない。
 未来が欲しい、その通りだ。

 でも無理だから。

 ならせめて、過去を保存させてはくれないか。

 ……きっと、無理なんだろう。

 それが出来たら、後悔なんてしてこなかった。