お題:【逆光】
まだ幼い頃、絶対に届かないと知りながら、子供心で太陽に手を伸ばしたことがある。
その時の気持ちは、口では表せないだろう。
憧れ、渇望、好奇、嫌悪、疑問、狂気。
そのどれかかもしれないし、違うかもしれない。
とにかく、私は太陽へと手を伸ばしたのだ。
いつも当然のように空にあって、ただ煌々と輝き続けているそれ。
無論、届く訳もなく、大きく開かれた右手は日を食らうだけに終わる。
指の隙間から、隠しきれなかった分の光が溢れ、目を焦がすような熱と共に、目を突き抜けたかのように全身へと行き渡る。
全身が注がれていく熱量は、無意識に震えてしまうほどに膨大な物だった。
私は無知ながらに、その瞬間、太陽と言う絶対的な存在を明確に認識したのだ。
世界には、人知の及ばない物が存在することを、私は知ってしまったのだ。
だから……まあ、言いたいことは分かるよね?
こんな老体の話を聞いてくれて感謝するよ。
一切の益がない、面白くもない話をさ。
そこまで語ると、両目を双眼鏡で隠した老人は一息ついて、紅茶の注がれたカップを口元に寄せる。
不思議なことに、カップの縁までなみなみと注がれた液体を見る老人の目は、焼け落ちていた。
1/24/2024, 10:47:38 AM