ええ〜!すっごくきれいな色だね
これだとすぐに見つけられるよ〜
朝のHR前に教室ドアの方でみんなが騒いでいた。色とりどりな人達の発光色と混じって、隙間から黄色の光が漏れ出ている。
おはよと群がる人をかき分けてこちらへやってきた。黄金色に包まれた幼なじみは私を見てうっすら笑みを浮かべている。
私今朝、やっと発光した
おめでとう 皆より遅れて柄にもなく不安がってたしね
柄にもなくって言うな
彼女は不満げながらも少し嬉しそうだ。
彼女の色は原色の中でも珍しく、鮮やかでさっぱりとしている。かくいう私は暗色だ。喜ぶ彼女と裏腹に、私は嬉しくなかった。むしろ私は、前から彼女を明るい色にしないでと願っていた。
どうした?色がいつもより濃いよ
まゆ根を寄せて覗き込んでくる。
私は彼女と並べない。どうしても彼女の光が私の色を誇張する。私の感情と比例して深くなるこの色も好きじゃない。
あんたまだ自分の色好きじゃないの?自信持ちって
彼女はいつも私を励ましてくれる。でも今は無理だ。嫉妬に駆られて余計なことを言い出しそう。
...あんたは嫌いでもさ、私は好きよこの色
いいじゃん、 紺碧 宇宙の色だ
私の色に自分の色を重ねて言った。
私と目が合うと全部を包む色だよと言う。
満面の笑顔で、私の色を讃えながら。
.太陽のような
ピッピッピッピッ
おめでとうございます!おめでとうございます!
おめでとうございます!おめでとうございます!
煌びやかな衣装を纏った人々が中央を通る行列に注目している。行列は華やかで荘厳としていた。
中でも、最後列の輿は感嘆の声を漏らすほど怪しげな、何かと超越した雰囲気を醸し出している。
見て!あの楕円のフォルム!なんて完璧なのかしら
どこの鍛冶屋でもあのお方を再現することは不可能にちがいないわ!
ああ、ありゃーこの上なく理想の形よ
バンザーイ!バンザーイ!
みんな思い思いに輿に乗ったお方へ感情の籠った目線を送っている。
間もなく、輿の行列は王宮へとたどり着いた。
ご足労おかけさせましたこと、誠に感謝いたします
本日は我ら再生の儀式にてお方様のお力をお借しいただけることをこの上なく存じます
1番目の王子と2番目の姫があのお方と謁見した。
ねえねえ再生の儀式ってなにをするの?
さあなあ でも絶対に素晴らしいことは間違いない
お方様が席に着かれた。王子と姫は跪き、人々は期待を込めた目線で見上げている。
瞬間、お方様の楕円が渦を巻いた。王子と姫が巻き込まれる。人々は訳が分からず立ち尽くす。
大きな楕円はドグロを巻いて全てを渦中へと──
ピーーーーーーーーーーーーーーーーー
.0から
屁理屈なパンケーキは言いました。
人に寄り添うとか言う奴ほど信用できない
他人の不幸を見て安心しているんだ
彼は私に言い聞かせました。どうして?助けてくれるならいい人なのに。この人はいつもツンツンしています。
不幸を比べることはいい事じゃないよね
でも、全員がそうではないじゃないか
無重力のハリネズミが言いました。無重力のハリネズミはいつもニコニコしていて優しいです。
全員とは言っていない ただ胡散臭いだけさ
純粋な奴ほど損をする だったらそいつにも防御を備えるべきだと思ったんだ
私にはよく分かりません。でも、人を悪く言う屁理屈なパンケーキは良くないと思います。
私がそう言うと、屁理屈なパンケーキはフンッと鼻を鳴らして、無重力のハリネズミは困った顔で笑いました。
寄り添い方にはいろいろあるよね
同情というのもその方法のひとつなんだ
そこにどんなニュアンスを持たせるかは人それぞれ
だから屁理屈なパンケーキが言うのもあながち間違いではいないんだと無重力のハリネズミは言います
彼が言うならそんな気がしてきたけど、私はいまだモヤッとしていました。
とりあえず、屁理屈なパンケーキは嫌いです。
私がそう言うと、屁理屈なパンケーキはそっぽを向いて、無重力のハリネズミは苦笑いして彼に蜂蜜をかけてあげていました。
.同情
あなたって得だよね
彼は私の急な言葉にきょとんとしている。
だって、あなたは枯れても落ち葉って言われて押し花にされたりするじゃない?私は枯れると見向きもされなくなるんだよ
まくし立てるように言うと、彼は驚いた顔をして、それから肩を震わせて笑いだした。なんなのと眉をひそめる。少し顔が熱い。
いや 君がそんなことを考えていたとは
僕からすると、君も得してると思うけどね
彼はおもむろに私と視線を合わせた。
君は生命を芽吹かせる
その一瞬だけでみんなを感動させられるんだ
だから寒い冬の中、みんな君が来るのを待っていられるんだよ
彼の真剣な眼差しに顔が蒸気する。僕は最初から最後まで変わらない景色だから飽きられているかもねと彼は言った。私はカッとなって
そんなことない!
気づくと身を乗り出していた。ぱちくりした彼の目が目の前にあって、さっきよりも顔が沸騰した。
すると彼は声をあげて笑った。
羞恥心でどうにかなりそうだったけど、彼につられて私も笑ってしまった。
私は彼をちらっと見た。
本当は最初、あなたは枯れても綺麗ねって言いたかったんだ。
.枯葉
目覚めると、いつもちがう顔に挨拶する。
鏡に映る私は、黒い肌に縮り毛の坊主、大きな二重目に、分厚い唇の青年だった。
昨日はヨーロッパ系の金髪美女だったなと思い返して、この日がスタートする。
体を起こして、これでもかと顔周りを整えたあと、ダークスーツに身を包み始めた。
なんとなく体に染み付いた憂鬱な気分を感じ取って、ため息をこぼしたくなった。
体に従うまま、車に乗って行き着いた先は結婚式場だった。少し遠くから、花嫁と新郎が晴れた空の下、花道を通って祝福されるのを見ていた。
幸せいっぱいに満たされた空間の傍ら、私はなんとも言えない複雑な気持ちになった。
親友ー!とこちらに気づいて向かってくる新郎に、即刻この場から逃げたくなる体の衝動を抑えた。
もう来ないかと思ってたぜ
新郎は心底嬉しそうに私の肩を叩く。この人の笑顔を見て心が浮き立つが、すぐに闇へ落とされる心地がした。喜ばしいことなのに、青年だけがこの場で浮いていた。
私はできる限りの笑顔でおめでとう、幸せになれよと絞り出すように言った。
これがこの青年にとって最適解なような気がした。
新郎はありがとなとはにかんで、そのまま花嫁の所へと戻って行った。
家に帰ると、脱力するようにベッドへ倒れ込んだ。
そのまま堕ちるように眠りにつく。
もう、この人に目覚めることは無いだろう。
.今日にさよなら