目覚めると、いつもちがう顔に挨拶する。
鏡に映る私は、黒い肌に縮り毛の坊主、大きな二重目に、分厚い唇の青年だった。
昨日はヨーロッパ系の金髪美女だったなと思い返して、この日がスタートする。
体を起こして、これでもかと顔周りを整えたあと、ダークスーツに身を包み始めた。
なんとなく体に染み付いた憂鬱な気分を感じ取って、ため息をこぼしたくなった。
体に従うまま、車に乗って行き着いた先は結婚式場だった。少し遠くから、花嫁と新郎が晴れた空の下、花道を通って祝福されるのを見ていた。
幸せいっぱいに満たされた空間の傍ら、私はなんとも言えない複雑な気持ちになった。
親友ー!とこちらに気づいて向かってくる新郎に、即刻この場から逃げたくなる体の衝動を抑えた。
もう来ないかと思ってたぜ
新郎は心底嬉しそうに私の肩を叩く。この人の笑顔を見て心が浮き立つが、すぐに闇へ落とされる心地がした。喜ばしいことなのに、青年だけがこの場で浮いていた。
私はできる限りの笑顔でおめでとう、幸せになれよと絞り出すように言った。
これがこの青年にとって最適解なような気がした。
新郎はありがとなとはにかんで、そのまま花嫁の所へと戻って行った。
家に帰ると、脱力するようにベッドへ倒れ込んだ。
そのまま堕ちるように眠りにつく。
もう、この人に目覚めることは無いだろう。
.今日にさよなら
2/19/2024, 6:01:13 AM