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11/7/2022, 5:49:21 AM

雨ではないけれど、柔らかな水と聞いて思いつくのは「水溶き片栗粉」だ。
片方の手で乳白色の液体をつーっと少しずつフライパンに垂らし、もう一方に持った菜箸でぐるぐると大きくかき混ぜると、あっという間に煮汁が具材にとろりとまとわりつくようになる。水が一気に質感を得る、その変化が好き。

11/5/2022, 12:55:34 PM

朝起きたときから水底にいるような日があって、そんな日は窓から差し込む朝日も助けにならない。

そういう日は、爆弾を抱えながらそろそろと「極端な選択」をしないように避難場所を探さなくてはならない。家にいるとしんどいから、図書館に行く。900番台、文学の棚へ、逃げ場になるような小説を探して。

3,4時間で済むこともあれば、2日以上かかることもある。けれど今のところ、しばらく経てば私の中の爆弾は浮袋に変わって、水面の方に浮上できるようだ。今回もどうか、浮かび上がれますように。光の差し込む上の方へと。

11/4/2022, 10:39:08 AM

哀愁、と聞いて真っ先に脳裏に走るのは、ウズベキスタンの遊園地だ。

数年前に旅した時、私は「彼ら」に出会った。
目の異様に小さなミッキーマウスや瞳孔が細すぎるミニオン。瞳の周りがなぜか水色でふちどられたピカチュウ。著作権のルールを突き破った彼らは、みな一様にどぎつい原色で、同じ町にあるモスクの美しい青の階調なんか嘘みたいだ。ちょっとゆがんだ彼らの瞳をみていると、白昼夢のなかをさ迷っているような気持ちになる。

「いや、ここはれっきとしたウズベキスタンですよ」と教えてくれるのは、ミッキーたちの間にたたずむ、スイカを持って微笑むターバンを巻いた老人の像だ。

遊園地の主要顧客であるこどもたちへの猛烈なすりよりっぷりと、それでいてターバンの老人を排さない雑さ。シーズンオフだったのか、その顧客たちもまばらで全然盛況じゃない。これを哀愁ではなくなんというのか。
遊園地と言うよりはデスゲームの会場寄りだ。でも、この迎合っぷりの全力さと空回りっぷり、なんだか無視できない。むしろいじらしくってめちゃめちゃ好きだ。
不要不急の行きたい場所No.1。いつの日か、またあの哀愁の場所へと旅立ちたい。

11/3/2022, 1:14:28 PM

腹筋を割りたい。
休職して出勤が無くなり、顔に日焼け塗り以外塗らなくなると、鏡の中の顔にはほとんど構わなくなった。代わりにじろじろ見ているのは己の腹だ。

今日こそは綺麗にへそを通る縦筋ができていないか。精一杯腹をへこませて兆候を探す。もともと私の腹には横筋が3本通っているが、これはおそらく筋肉によるものではない。むしろ贅肉というか肌のたるみが顕現したものだと思う(思春期の頃は「なぜここに線が」と悩んでいたが、ヤマシタトモコの漫画で私と同じく腹に横線を持つ女性が登場し、私だけではないと知って安心してから原因を追究しないでいる)。

なぜそんなに筋肉を鍛えたいのかと言うと、休職中の日々でほとんど唯一続いている生産的なことが毎日75分ほどの運動だからだ。仕事をしていない無力感を補うために、せめて少しでも運動で成果を出したいのである。

毎日75分とはいえ、30分はただ単に近所を歩いているだけ。残りの45分で、YouTubeのトレーニング動画を観ながら有酸素運動と筋トレをしている。スポーツテストの成績万年最下位だった自分が、みずから再生した動画に合わせて体を動かしているなんて、中学生の頃の自分が見たら悪夢だと思うだろう。だが、体を動かしている間は仕事をしていない自分を忘れられるので好きだ。何をするかは画面の向こうのトレーナーにゆだねればいい。休職してから、運動を終え、全身ほかほかになりながら汗を流し、早くも痛み始めている太ももを伸ばしながら地面に倒れ込むよさを知った。

とはいえYouTubeを流し始めるまでは身体が動かない。しんどいしだるいし。だが運動後の気持ちよさは忘れがたい。葛藤の中で、私の脳みそが見いだした解決法が、鏡の中の自分に筋肉の兆候を見出し、モチベーションを高める方法だったのだと思う。

できるならば腹筋を6つに割りたい。少なくとも縦線まではいきたい。毎日祈るような気持ちで鏡を見つめている。