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腹筋を割りたい。
休職して出勤が無くなり、顔に日焼け塗り以外塗らなくなると、鏡の中の顔にはほとんど構わなくなった。代わりにじろじろ見ているのは己の腹だ。

今日こそは綺麗にへそを通る縦筋ができていないか。精一杯腹をへこませて兆候を探す。もともと私の腹には横筋が3本通っているが、これはおそらく筋肉によるものではない。むしろ贅肉というか肌のたるみが顕現したものだと思う(思春期の頃は「なぜここに線が」と悩んでいたが、ヤマシタトモコの漫画で私と同じく腹に横線を持つ女性が登場し、私だけではないと知って安心してから原因を追究しないでいる)。

なぜそんなに筋肉を鍛えたいのかと言うと、休職中の日々でほとんど唯一続いている生産的なことが毎日75分ほどの運動だからだ。仕事をしていない無力感を補うために、せめて少しでも運動で成果を出したいのである。

毎日75分とはいえ、30分はただ単に近所を歩いているだけ。残りの45分で、YouTubeのトレーニング動画を観ながら有酸素運動と筋トレをしている。スポーツテストの成績万年最下位だった自分が、みずから再生した動画に合わせて体を動かしているなんて、中学生の頃の自分が見たら悪夢だと思うだろう。だが、体を動かしている間は仕事をしていない自分を忘れられるので好きだ。何をするかは画面の向こうのトレーナーにゆだねればいい。休職してから、運動を終え、全身ほかほかになりながら汗を流し、早くも痛み始めている太ももを伸ばしながら地面に倒れ込むよさを知った。

とはいえYouTubeを流し始めるまでは身体が動かない。しんどいしだるいし。だが運動後の気持ちよさは忘れがたい。葛藤の中で、私の脳みそが見いだした解決法が、鏡の中の自分に筋肉の兆候を見出し、モチベーションを高める方法だったのだと思う。

できるならば腹筋を6つに割りたい。少なくとも縦線まではいきたい。毎日祈るような気持ちで鏡を見つめている。

11/3/2022, 1:14:28 PM