弥梓

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8/17/2025, 5:47:36 PM

『終わらない夏』

※BL

昼間はまだ暑い日が続くけど、夜になるとだいぶ過ごしやすくなって、鈴虫の鳴き声が聞こえてくるようになった。
もうすぐ秋が来る。君に出会って初めて迎える秋だ。
夏休みの間、一緒に色んな所に行ってたくさんの思い出を作った。
この夏の自分の思い出には、すべて君がいる。
この夏が永遠に続けば良いのに。
君と二人で肩を並べて海を見ながらそう呟いた僕の頭を撫でながら、
また来年も来れば良いだろ?
そう言って、君は僕の髪を優しく撫でた。

8/14/2025, 5:54:15 PM

『君が見たかった景色』

※BLファンタジー 二次創作

崩れかけた古い建物を草木が覆ってしまっている。
かつては栄華を誇った古代の王国の宗教施設だったものだ。
壊れた壁から中へ入ると、近くの村の物知りな爺さんに聞いた通り、そう大きくはない建物の中央には石の台座があった。
そして、そこには一振りの豪奢な剣が突き刺さっていた。
古代の神官が祈りを捧げた魔法の剣だが、抜くためには何やら面倒な試練だかがあるらしい。いまだその試練を乗り越えて、その剣を手にした者はいない。
だが、オレの目的はこの剣ではなく、建物に生い茂った草の葉だ。薬の原料になるらしいその葉の調達を仕事として請け負ったついでに、あいつが好きそうだと無駄に中まで入っただけだ。
一通り中を見てから外に出る。
古代の魔法の剣もこの朽ち果てた遺跡も、あいつだったら目を輝かせて、止める間もなく無茶な試練に挑んでいたのだろう。
お前と一緒だったら、きっとそんな無茶も楽しかったはずだ。
お前と見た景色はいつだって輝いていた。
お前が見たかった景色を一人で見ても、お前に見せてやりたかったと感傷ばかりが浮かんでしまう。
それでも、記憶には留めておく。
いつかあいつと再会した時のために。自分も見たかったとごねるあいつに、勝手にいなくなるからだと散々なじってやって、それからいつか、あいつと一緒にここに来るために。

8/13/2025, 2:06:08 AM

『こぼれたアイスクリーム』

※BL

「冷たさが染み渡る……」
「オッサンくせえ」
「しょうがないだろ、実際おじさんなんだし。君だってあと二年もすれば僕と同じ立派な三十のおじさんになるだろ」
拗ねたように唇を少し突き出す仕草は、元々の童顔と相まってとてもじゃないが三十路の男には全く見えはしない。
「そんなことより、君も食べる?一口ならあげてもいいよ」
「いらねえ。年や見た目じゃなくて言い方がおっさんくせえって言ってんだよ」
「そう言う君だって、ビール飲んだ後にぷはーだて言うやつ、おじさんくさいじゃないか」
「うるせえ」
「自分でもそう思ってるって顔だ」
ふふんと鼻を鳴らして笑う顔が小憎たらしく、ついその鼻をつまんでしまった。
「いった……!って冷たい!!」
突然鼻を摘まれて、驚きに肩をすくめたせいで斜めになった溶けかけのいちごのアイスが、襟ぐりから露出するこいつの鎖骨にぽたりと落ちた。
あまり甘いものは好まないが、それが美味そうに見えて、思わずそこに舌を這わせてしまう。
「うわ!いきなり何するんだよ……!」
「一口くれるんだろ?」
「それは……言ったけど……こんなところで」

8/6/2025, 5:04:02 PM

『またね』

※BL

またね、と笑ったお前の笑顔は今でも昨日のことのように思い出せる。
別れ際、名残惜しさを隠さずに俺の手を握った、俺よりも一回り小さな細い手のぬくもりも。
引き留めれば良かった。
もう少し一緒にいたいと、その手を握り返して抱きしめて、そのまま家に連れ帰ってしまわなかったことをずっと後悔し続けている。

8/3/2025, 11:47:14 AM

『ぬるい炭酸と無口な君』

※BL

ガラスのコップには水滴が浮かんで、紙製のコースターはその水分を吸いすぎてふにゃふにゃになってきている。
氷はとっくに溶けて、コップの中身は薄まって緩くなったコーラだったものに変わってしまったが、沈黙が気まずくて僕はそれをストローで一口吸った。
炭酸が抜けて甘ったるいのに香りも味も薄くて最悪な飲み物になっていたけど、他にすることのない僕はなんとかそれを飲み下す。
そしてまた、向かいの席に座る君を盗み見る。
相変わらず難しい顔をして書類と睨めっこしている。
もう三十分以上はこの状態だ。小さな文字がびっしり印刷された僕の渡したコピー用紙の束を一生懸命読んでいる。
作ってる時は心底真剣だったけど、少し冷静さを取り戻すとこの文字数は異常だったかもしれないと後悔が浮かぶ。
現実逃避にもう一口このまずい飲み物を飲むか、レジ横にあったお冷やをとってくるか悩みはじめたところで、君が顔をあげた。
「で、結局お前は何が言いたいんだ?」
「何って、だからそこに書いたじゃないか」
「お前と結婚を前提に付き合うメリットとやらはな」
「こ、声に出して言わないでくれ。恥ずかしいだろ」
「こんなもん作ることが恥ずかしいってくらいの常識は持ち合わせてたみたいで安心したぜ」
「今は自分でもちょっとバカなことしたと後悔してるからそれ以上言わないでくれ……!」
「分かったよ。それで、お前と付き合うメリットは理解したが、お前がなんでオレと付き合いたいのかは書いてなかったんだが?」
「そんなの言わなくても分かってる癖に」
「さあて、さっぱり見当がつかないな。さあ、聞かせてもらおうか」
「……好き、だから。君のことが、好きなんだ」
「こんなめんどくせえもの作んなくったって、それだけで十分だってのに」
「え……?」
間抜けな声を上げた僕の右手に君の手が触れた。
「オレもお前が好きだ」

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