『星空の下で』
東の空に、赤い星が輝いている。周囲の星より少し明るいくらいで、誰もが知るような一番輝く星ではない。
だが、温かな光に目を引かれて何故か魅入ってしまう。そんなところがあいつに似ている、そう思っていた星だ。
昔、その星を中心に適当に星座を作ってあいつに贈った。本当にただの思い付きで、何の意味もない戯れだった。
けれど、オレの指さす夜空を見上げるあいつは、とても嬉しそうに黒い瞳をガキのようにきらきらと輝かせていた。それがとても綺麗で、あの輝きは三十年経った今でも色褪せることなく思い浮かぶ。
その星座のすぐそばに、あいつがオレのために作った星座も青白く光っている。
星の輝きはあの頃と何も変わらないが、夜空を見上げるオレの隣にお前はいない。オレはたった一人で静かに夜空を見上げている。あと幾度、一人で夜が明けるの繰り返せばお前に会えるのか。一人の夜がいつ終わるのか。
傭兵仲間のスカした野郎が、時間は薬だと、だいぶ前に言っていた。
お前がいなくなった後に、知り合ったり仲間になったヤツはたくさんいた。三十年も経つ内に、そいつらを何人も見送ってきた。お前に出会う前の大昔には、大切な家族も仲間もいた。
実際、あの野郎の言う通り、時が経てばそれらはみな思い出となって昇華されていった。
ただ一人、お前だけが色褪せない。
お前に会いたい気持ちはいっこうに変わらない。変わらないどころか、月日を重ねれば重ねるほどに、会いたい気持ちが積み重なって、オレは何度もそれに圧し潰されそうになっていた。
お前を失った悲しみは、傷口が癒えることなくいつまでも痛んで、いつしかじくじくと膿んでしまった。
それだけお前がオレにとっては特別な存在なのだと、この痛みもこの想いも、死ぬまで抱えて生きていくしかないのだと、とうに覚悟も決めてある。
それでも、こんな星の綺麗な夜は、お前のことを思い出して、どうしようもない会いたい衝動に傷口を深く抉られる。そんな痛みすら、お前がくれたものだと思うと愛おしい。
棺桶に片足突っ込んだジジイが何を言ってやがると、自身でも笑ってしまうが、三十年もお前への恋に囚われて、挙句の果てには死後の再会なんざ信じて生きてきたんだ。拗らせてしまうのも仕方がないと今では開き直っている。
こんなオレをお前が見たらなんと言うのか。きみは変わったなと驚くのか、きみらしいと優しく微笑むのか。
早く、お前に会いたい。
そう思いながら、オレはまた赤く光る星を見上げた。
『それでいい』
※BL
それでいい。
それが僕の幼馴染の口癖。
何を聞いても大体、それでいい、で返ってくる。
無責任というより、本当に興味がないからなんでもいいらしい。
食べるものも、出かける先も、一緒に遊ぶゲームも、進学先の高校も、僕の提案で彼が怒ったり不満を言ったりすることはなかった。
そんな彼が、唯一自分で選んだのが僕らしい。
「お前がいい。これからの長い人生を誰かと一緒に過ごすなら、他の誰でもなくお前がいい」
『1つだけ』
※BL
「もし、何か一つあの世に持っていけるとしたら、きみは何にする?」
「酒」
「きみらしい答えだ」
「そういうお前は」
「きみを連れていけたらいいのに」
「道連れにする気かよ」
「そうなっちゃうかな、やっぱり。うーん、さすがに一緒に死んでくれとは言えないから、別なものを考えよう」
「いいぜ」
「え?」
「一緒に死んでやる」
「……そっか、ありがとう」
そう嬉しそうに笑った癖に、あいつは一人で死んだ。オレに生きろと呪いの言葉だけを残して。
『大切なもの』
大切なものは何もなかった。
自分の人生に何の未練もなかった。
いつ終わってもいいとすら思っていた。
けれど、あなたと出会って初めて大切なものができた。
誰かと一緒にいることがこんなにも幸せで満たされることを初めて知った。
今まで自分が寂しかったことも、あなたに出会って初めて気がついた。
やっと生きたいと思えた。死にたくないと初めて思った。
それなのに、私に生きる意味を教えてくれたあなたはもういない。
一人で生きていけた私も、死を恐れなかった私ももういない。
死ぬのは怖い。生きたい。だけど、生きる意味はもうなくなってしまった。一人は寂しい。
あなたのところへ行きたいと心から願うのに、あなたの悲しい顔が思い浮かんで思いとどまってしまう。
絶望だけを抱えてあと何年私は生きるのだろう。
早く大切なあなたに会いたい。
『エイプリルフール』
※BL 両片思い 年下攻×年上受 ほぼセリフのみ
「きみのことが好きだ」
今日は四月一日。エイプリルフールだ。しかも時間は十一時五十九分。
「へえ、そうかよ」
「つまらないなぁ。少しくらいは焦るとか困ったふりするとかしてくれよ。友人から告白されたんだから」
「お前のこと友人だなんて思ったことないからな」
「うわ! ひどい! いくら嘘でも傷ついた!」
「嘘じゃねえよ」
ちょうど正午を知らせる鐘が鳴った。
「お前のことが好きだったからな、出会った時からずっと。こういう意味で」
「え……?」
腰を屈めてそっと唇を重ねる。
すぐに唇を離したが、友人とやらは口を開けたまま間抜けヅラを晒している。
「友人からいきなりキスされてんだから、焦るなり困るなりするのが作法なんじゃないのか?」
「だって、キス……って、なんで……」
「鐘は聴いたろ? オレのは嘘じゃないからな」
「それって」
「予防線張った意気地のねえことしてんじゃねえよ。ばーか」
「だって、僕は男だし、きみより年上だし……でももう、好きって言いたくて仕方なくて……」
「オレはお前が、そんなくだらねえこと気にする常識を持ち合わせていたことに驚いてるぜ」
「普通考えるだろ! す、好きな相手の幸せとかそういうことは!」
「お前の考えたオレの幸せってやつは? まさかその辺の女と結婚して家庭を持つだとかは言わねえよな?」
「……きみが女の子と結婚する姿は想像したけど無理だったし、家庭を持つなんて絶対無理だ。結婚した女の子が不幸になる」
「テメェ……」
「あはははは、つい本音が……じゃなかった」
「ったく。だったらなんで普通に告白してこねえんだよ」
「きみが家庭を持つのと同じくらい、僕がきみを幸せにする姿が想像できなくて……きみによく言われるように、その、僕はちょっと興味のあることに一直線で、あんまり常識とかない自覚もあるから」
言いながら、目の前の男はだんだんとしょぼくれて最後は俯いてしまった。
ったく、本当に仕方ねえ。いつもは無鉄砲を絵に描いたようなヤツなのに、オレのことになると途端に慎重を通り越して臆病になってしまう。
白い両頬に手を添えて優しく上を向かせる。そのままもう一度キスをしてから、引き寄せて抱きしめた。
「お前が隣にいる以上の幸せなんか、オレにはねえよ」
「……うん」
「で? さっきの言葉、エイプリルフールの嘘のままでいいのか?」
「きみが、きみのことが好きだ。ずっと、きみが好きだったんだ」