弥梓

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5/15/2026, 5:15:53 PM

『後悔』


何がいけなかったんだろう。
あの時あの人の言うことを聞いていたら、あの人は今でも私の隣にいてくれたのかな。
でも、私は耐えられなかった。あの人しかいない世界に。もっと広い世界を知りたかった。
いつからあの人は変わってしまったんだろう。
私が離れることに怯えて、私が他の誰といることを極端に恐れた。
私の一番はあなたしかいないのに。
別れた今もいまだにあなたが一番だ。
でも、二番目は家族、三番目は友達。
一番だけじゃなきゃあなたは納得しなかなっちゃった。

5/13/2026, 10:10:10 AM

『一年後』

※二次創作BL

もうすぐ街をあげてのデカい祭りがある。
隣にいる男はその日が待ちきれないと子供のようにはしゃいでいる。
オレより二つ年上のはずだが、童顔で背も低いから、年下のガキの面倒を見ているきぶんになることもある。
どんな屋台が出るのか、旅芸人は来るのか、矢継ぎ早に質問されて、そろそろ答えるのも面倒になってきた。
当日見りゃいいだろ、とおざなりに返事をすれば、君の目で見てきた祭りはどんな感じだったのか知りたいんじゃないか、と返された。
祭りのことも知りたいけれど、君のことも知りたいんだ。
そう言って微笑む顔を見ていられなくなり、オレは唇を重ねて誤魔化すことにした。
来年はこいつとこの街を出ているかもしれない。
そうしたら今年がこの街の祭りを見る最後になるかもしれない。
そんな考えが浮かんで、いつの間にか未来を考える自分に気がついた。
空虚な人生に絶望して、未来を夢見ることなどなかったのに。
ただ人生が終わるまで、時間を無益に消費していたこの自分が。
一年後、この街にいるか見知らぬどこかにいるか。それはわからないが、こいつが隣にいることだけは間違いない。

5/8/2026, 5:43:47 PM

『一年前』

※BL二次創作

「去年の麦は出来がいまいちだったけど、今年は質も良さそうだし、豊作になりそうで良かったわ」
「ああ、今年の収穫祭が楽しみだ」
通りすがりに、農家の夫婦の会話が聞こえた。
 大麦の畑はたしかに黄金に輝き、素人目で見ても順当な育ち具合だ。
「去年……か」
「どうした?」
 口に出すつもりはなかったのに、つい君が隣にいるせいで気が緩んで言ってしまった。
 案の定聞き逃さなかった君は怪訝そうに僕の方を見た。
「ああ、いや。去年の今頃はどこにいたかな、と思ってね」
 全部嘘ではない。君が前に言った通り、嘘に真実を混ぜてその言葉に信憑性を持たせる。君以外の誰かならきっと騙されてくれた。それくらい自然に嘘がつけた。
「下手な嘘ついてんじゃねえよ」
 けれど、僕の体のことを知っている君は簡単に僕の嘘を見破ってしまう。
「自分に去年はなかった、とでも考えてんだろ」
「分かってて聞くのは意地が悪いんじゃないか?」
「テメェがつまんねえ嘘つかなきゃいいだけの話だ」
「楽しい話でもないから、聞かされたって君も困るだろう」
「適当な嘘つかれる方がムカつくんだよ。それにテメェのつまんねぇ話聞かされたって別にオレは困らねえ。だから、オレには本音を言え」
「……僕の記憶にある『去年』は僕のものじゃないし、『来年』も僕にきっとない。だから、今日が『一年前』になることは絶対ないんだな、って考えただけだよ」
 倒れて熱を出してから、心臓が何度も痛む。そして気がついてしまった。自分が作られた偽物の人間であることに。偽物の体はそう長くはもたないことに。
 気がついた時も今みたいに、何かあるならさっさと話せと君に尋問された。正直、あの時君に話したことを少し後悔している。
「ほら、聞かされたって困るだろ?」
 おどけて笑ってみせたら、思いきり睨みつけられて、抱きしめられた。痛いほどの力で抱きしめられて息がつまる。涙が滲むのはそのせいだ。
 一人で抱えていたら最期まで耐えられた。でも、君に知られてしまった。君に甘えることを知ってしまった。
 人の優しさは、時にこんなにも人間を脆くすることを身をもって知った。
「……困らねえって言ってんだろ」
 絞り出して掠れたきみの声はあまりに悲痛で、それにつられて僕の目尻から涙が溢れた。
「ごめん……本当にごめん。僕は、君を残していく……ごめん」
 幼い頃に大切な人を失って、それでも悲しいと泣けなかった君が、最近やっと心から笑うようになったのに。僕はまた君の心に大きな傷を作ってしまう。
「それでも、きみが好きなんだ。許してくれとは言わない。でも忘れてくれとも言いたくない。君に幸せになって欲しいのに、僕のために泣いて欲しい。ずっと僕のことだけ思って生きて欲しい」
 想いを言葉にすると、その身勝手さに自分が恐ろしくなる。
 会って数ヶ月にしかならない君に、こんな呪いをかけて、その一生を縛ろうとするなんて。
「君のそばにいたい」
 僕を抱きしめる腕にさらに力がこもる。
 来年もその月の年も、その先もずっと、去年はこんなことがあったなと、君と思い出を積み重ねて生きたかった。
 そんなささやかな願いすら、僕の不完全な体では叶わない。
 死ぬことよりも、きみの隣にいられなくなることがたまらなくつらかった。

5/7/2026, 11:00:39 AM


『初恋の日』(藤村の初恋のりんごネタをお借りしてます)
※BL 二次創作

街を歩いていると、仕事中の君に偶然出会った。
ラフな普段の服装と違い、仕事着を着た君は凛々しくて目を奪われていると、君が僕に気がついた。
その手には真っ赤に熟れたリンゴが二つ。視線だけで僕の疑問に気がついた君は、見回りの最中に街の人がリンゴをくれたと教えてくれた。
「ほらよ」
君が投げた真っ赤なリンゴが、弧を描いて僕の手の中に収まった。

君に連れられるまま人気のない路地裏に入って、積まれた木箱の上に並んで腰を下ろす。
りんごにかぶりつく君に倣ってりんごを一口かじれば、甘酸っぱい果汁が口の中に爽やかに広がる。しゃりしゃりとした歯応えもあって、これは上物だ。
もう一口かぶりつくと、果実から溢れたりんごの果汁が、僕の右手を伝い落ちる。
このままだと袖についてしまう、と思い、りんごを左手に持ってどうしようかと一瞬悩んだ矢先、右手が急に持ち上がった。
そして、生暖かいざらざらとした感触が手首と手のひらをなぞった。
驚く僕を見た君は、ニヤリと笑った。
ああ、これは確信犯だ。

これが僕の初恋の日だ。

5/6/2026, 10:12:04 AM


『明日世界が終わるなら……』

※二次創作BL

明日世界が終わるなら、君と二人で終わりを迎えたい。
でも、間もなく終わりを迎えるのは僕の世界だけだ。
予感はあった。
僕に残された時間は長くはない。
明日か、明後日か。
もしかしたら、今日終わるかもしれない。
肉体がもう限界を訴えていた。
本当は君に看取られて、君と二人だけで自分の終わりを迎えたい。
けれどそんなことをしたら、顔に似合わず意外と優しい君は、一生僕のことを引きずってしまうだろう。
だから、別れの言葉も形見の品も何も残さず、僕の最後も君には見せない。
薄情なやつだと、さっさと僕のことは忘れて幸せに生きてほしい。
別れの時は間もなくだ。せめてそれまでは、君の一番隣で。

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