『秋恋』
※BL
いつまで続くのかとうんざりしていた夏が、気がつけば終わっていた。
木々の葉は鮮やかな赤や黄色に染まり、肌を撫でる風が冷気をはらみ始めた。
「そろそろいいかな」
隣を歩くお前が突然立ち止まって言った。
またおかしなことを思いついたのかと呆れて振り返ると、予想外に真剣な眼差しがオレを待っていた。
「どうしたんだ?」
「夏が終わって、もう秋になっただろう?」
「ああ」
「だから、そろそろいいかなって思って」
「何の話だ?」
「もちろん、君と恋を始めることだよ」
「はあ?」
「知ってると思うけど、僕は君が好きだ。君も、僕のこと好きだろ?だから、付き合おう」
夏に出会ったオレたちは、出会ったその日にベッドインした。酒の勢いというヤツだ。
ただ、体の相性が抜群に良かったこともあり、その後も何度も寝ている。
付き合おうと明確に口にはしていないが、口に出さずとも、互いに惹かれあっていたのは分かっていたし、男同士でいちいち告白など不要だとも思っていた。
と言うか、オレはもうこいつと付き合っている気でいた。
だからむしろ、今までこいつは付き合ってもいない相手と、散々あんなエロいことをしてきたのかと、怒りが湧いてきた。
「へえ、それじゃあお前は今までオレのことセフレとでも思ってたのかよ」
「うーん、そうじゃないけど……でも、付き合ってないからそうなるのかなぁ」
「お前……」
オレの本気の怒りを察して、オレの『セフレ』が慌てて首を横に振った。
「君のことは好きだし、実質付き合ってるようなものだったとも思ってるよ!ただ、正式期付き合うのは今日からってことにしたいんだ」
「なんでそんな今日にこだわるんだ」
「秋だから」
意味のわからない答えを言う目の前の男は恐ろしいほどに真剣だった。
仕方がないから黙って話の続きを聞いてやる。
「一夏の恋とか言うじゃないか。君とはその、始まりも始まりだったし、夏に付き合い始めて一夏の恋で終わる、なんてしたくなかったんだ。一生君と一緒にいたいから」
予想を大きく外れたくだらない理由だった。
けれど、黒い瞳はどこまでも切実で、オレと一生を過ごしたい気持ちが本気なのだと、いやでも伝わってきてしまう。
「……わーったよ。お前のプロポーズ受けてやる」
「へ……?プ、プロボーズ!?」
「一生一緒にいたい、ってのはそういうことだろ」
「それは、そうだけど、でも、そこまで考えてたわけじゃ……」
「へえ、結婚までは考えない程度の軽い真剣さってわけか」
「軽いわけないだろ!そこまで言うなら、君こそ僕と結婚する覚悟はあるんだろうな?」
「ああ」
「……え、本当にいいのか……?僕は嬉しいけど」
「嬉しいならいいじゃねえか」
「い、いいのかな、こんな勢いで」
「オレたちらしくていいんじゃねえか?」
いまだ戸惑いを隠せない男の左手を恭しくとって、指輪の代わりに薬指の付け根にキスを落とす。
それだけで、男の顔は色付いた木々に負けないくらい真っ赤に染まった。
10/9/2025, 5:39:51 PM