弥梓

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『君が見たかった景色』

※BLファンタジー 二次創作

崩れかけた古い建物を草木が覆ってしまっている。
かつては栄華を誇った古代の王国の宗教施設だったものだ。
壊れた壁から中へ入ると、近くの村の物知りな爺さんに聞いた通り、そう大きくはない建物の中央には石の台座があった。
そして、そこには一振りの豪奢な剣が突き刺さっていた。
古代の神官が祈りを捧げた魔法の剣だが、抜くためには何やら面倒な試練だかがあるらしい。いまだその試練を乗り越えて、その剣を手にした者はいない。
だが、オレの目的はこの剣ではなく、建物に生い茂った草の葉だ。薬の原料になるらしいその葉の調達を仕事として請け負ったついでに、あいつが好きそうだと無駄に中まで入っただけだ。
一通り中を見てから外に出る。
古代の魔法の剣もこの朽ち果てた遺跡も、あいつだったら目を輝かせて、止める間もなく無茶な試練に挑んでいたのだろう。
お前と一緒だったら、きっとそんな無茶も楽しかったはずだ。
お前と見た景色はいつだって輝いていた。
お前が見たかった景色を一人で見ても、お前に見せてやりたかったと感傷ばかりが浮かんでしまう。
それでも、記憶には留めておく。
いつかあいつと再会した時のために。自分も見たかったとごねるあいつに、勝手にいなくなるからだと散々なじってやって、それからいつか、あいつと一緒にここに来るために。

8/14/2025, 5:54:15 PM