『ぬるい炭酸と無口な君』
※BL
ガラスのコップには水滴が浮かんで、紙製のコースターはその水分を吸いすぎてふにゃふにゃになってきている。
氷はとっくに溶けて、コップの中身は薄まって緩くなったコーラだったものに変わってしまったが、沈黙が気まずくて僕はそれをストローで一口吸った。
炭酸が抜けて甘ったるいのに香りも味も薄くて最悪な飲み物になっていたけど、他にすることのない僕はなんとかそれを飲み下す。
そしてまた、向かいの席に座る君を盗み見る。
相変わらず難しい顔をして書類と睨めっこしている。
もう三十分以上はこの状態だ。小さな文字がびっしり印刷された僕の渡したコピー用紙の束を一生懸命読んでいる。
作ってる時は心底真剣だったけど、少し冷静さを取り戻すとこの文字数は異常だったかもしれないと後悔が浮かぶ。
現実逃避にもう一口このまずい飲み物を飲むか、レジ横にあったお冷やをとってくるか悩みはじめたところで、君が顔をあげた。
「で、結局お前は何が言いたいんだ?」
「何って、だからそこに書いたじゃないか」
「お前と結婚を前提に付き合うメリットとやらはな」
「こ、声に出して言わないでくれ。恥ずかしいだろ」
「こんなもん作ることが恥ずかしいってくらいの常識は持ち合わせてたみたいで安心したぜ」
「今は自分でもちょっとバカなことしたと後悔してるからそれ以上言わないでくれ……!」
「分かったよ。それで、お前と付き合うメリットは理解したが、お前がなんで俺と付き合いたいのかは書いてなかったんだが?」
「そんなの言わなくても分かってる癖に」
「さあて、さっぱり見当がつかないな。さあ、聞かせてもらおうか」
「……好き、だから。君のことが、好きなんだ」
「こんなめんどくせえもの作んなくったって、それだけで十分だってのに」
「え……?」
間抜けな声を上げた僕の右手に君の手が触れた。
「俺もお前が好きだ」
8/3/2025, 11:47:14 AM