『またいつか』
※BL 死別と自死
別れの言葉も何もなかった。
何も言わずにあいつはいなくなってしまった。
朝あいつが目を覚まして、目覚めの挨拶をして、俺が作った朝食を一緒に食べながら、来月のお前の誕生日は旅行に行こうと誘って、あいつは嬉しそうに絶対だよ、と笑って約束をしたんだ。
仕事で行けなくなったなんて許さないからな、そう言って無理矢理俺の手を引っ張って、指切りなんて古くさいことまでさせられた。
それなのに、一緒に出かけている最中、事故に巻き込まれてあいつだけが死んでしまった。
あの日からもう三年経ったが、俺の心は三年前に止まったままで、あいつのことを忘れることも思い出にすることもできないままだ。
時間が薬だと、悲しみは時が癒してくれると誰もがそう言うが、三年経っても俺の悲しみも喪失感も絶望も、何一つ癒えることはない。
生きていてもあいつに会うことはもうかなわない。この悲しみを抱えてあと何十年もの時間を一人で生きるのは俺には耐えられない。
またいつか、あいつに会える希望でもあれば良かったのに。
『Special day』
今日はあいつの誕生日だ。
365日、どの日だって数えきれないほどの人間が生まれている。
今日だってあいつ以外にも生まれた人間はいくらでもいる。
だけど、あいつが生まれたからこそ、オレにとって今日という日が大切な日となった。
『夏』
ジリジリとした日差しが肌を突き刺す。
それに加えてサウナのように蒸しあがった空気が、僕からやる気と気力を奪っていく。
ああ、夏は嫌いだ。
暑いし、虫は増えるし、電気代も高いし、良いことなんて何もない。
そう思っていた。
「今日も暑いねぇ」
隣を歩く君が微笑む。
真っ白なワンピースが雲ひとつない青空によく映える。麦わら帽子についた小さなヒマワリの飾りも愛らしい。
それだけで、夏もまぁ悪くないかもしれない、なんて思ってしまう。
「ねえ、アイス食べて帰ろう?」
「また?」
「だってこんなに暑いんだもん。ほら、早く行こう!」
少し汗ばんだ小さな手がぎゅうっと僕の手を握った。それだけのことで愛おしさに胸が温かくなる。
僕はしゃがんで小さな娘と視線を合わせる。
「ママには内緒だよ」
「ええー!?それじゃあママかわいそうだから、ママの分はおみやげにしよ」
「なるほど、ママも共犯にしてしまうとは、君も考えたものだ」
「きょーはん?」
「ええっと、皆で一緒に食べた方がおいしいから、僕たちの分も持ち帰りにしよう、ってことだよ」
「うーん……すぐ食べたいけど、ママも一人で食べるの寂しいよね。うん。分かった!そうする」
相変わらず夏は好きにはなれない。
けれど、昔よりは嫌いではなくなった。
『隠された真実』
※BL セリフのみ
俺×僕
「僕の秘密を教えてあげようか」
「いらねえ」
「つれないなぁ。せめてそこは、どんな秘密かくらいは聞いてくれよ」
「お前がそういう回りくどい言い方する時は、大抵くだらねえこと言い出すってのは、もう分かってんだよ」
「僕が君をどう思ってるか、って言っても興味ない?」
「それもとっくに知ってる」
「へえ? それは逆に聞いてみたいな」
「お前が俺を好きなのは、態度でバレバレだ」
「否定しないけど、そう恥ずかしげもなく言われるとこっちが恥ずかしくなる」
「ハ、聞くまでもなかっただろ?」
「でも、その答えはハズレじゃないけど、正解でもないんだ」
「はぁ? どういうことだよ」
「ほら、聞きたくなっただろ?」
「別に。ただ、お前がどうしても話したいみたいだから聞いてやる」
「相変わらず素直じゃないなぁ。まぁ、でも素直じゃない君の精一杯のおねだりだから教えてあげよう」
「もったいぶってないで、さっさと言え」
「じゃあ、耳を貸してくれ」
「この部屋には俺たちしかいないんだから、そんな必要…」
「こうした方が秘密を打ち明ける雰囲気が増すじゃないか。ほらほら、早く」
「ったく、面倒なヤツ」
「うん、素直でよろしい。それじゃあ言うね。君のこと、好きを通り越して愛してるんだ」
『夏の匂い』
BL
君と二人きり、夏の夜の公園で花火をした。
あの時の、火薬の燃えるどこか寂しげな香りが、ずっと脳裏に焼きついている。
あの時君に好きと言えてたら、今も君は僕の隣にいてくれたのかな。
花火を見る度に君を思い出して、今もまだ胸が締め付けられる。