弥梓

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『夏』

ジリジリとした日差しが肌を突き刺す。
それに加えてサウナのように蒸しあがった空気が、僕からやる気と気力を奪っていく。
ああ、夏は嫌いだ。
暑いし、虫は増えるし、電気代も高いし、良いことなんて何もない。
そう思っていた。
「今日も暑いねぇ」
隣を歩く君が微笑む。
真っ白なワンピースが雲ひとつない青空によく映える。麦わら帽子についた小さなヒマワリの飾りも愛らしい。
それだけで、夏もまぁ悪くないかもしれない、なんて思ってしまう。
「ねえ、アイス食べて帰ろう?」
「また?」
「だってこんなに暑いんだもん。ほら、早く行こう!」
少し汗ばんだ小さな手がぎゅうっと僕の手を握った。それだけのことで愛おしさに胸が温かくなる。
僕はしゃがんで小さな娘と視線を合わせる。
「ママには内緒だよ」
「ええー!?それじゃあママかわいそうだから、ママの分はおみやげにしよ」
「なるほど、ママも共犯にしてしまうとは、君も考えたものだ」
「きょーはん?」
「ええっと、皆で一緒に食べた方がおいしいから、僕たちの分も持ち帰りにしよう、ってことだよ」
「うーん……すぐ食べたいけど、ママも一人で食べるの寂しいよね。うん。分かった!そうする」
相変わらず夏は好きにはなれない。
けれど、昔よりは嫌いではなくなった。

7/14/2025, 3:00:59 PM