あいまいな空
髪を初めて染めた。
君が好きな僕の赤毛みたいな茶髪を、きらきらの金髪に。
乾かされた金髪を見て晴れやかなような、憂鬱なような不思議な気持ちになった。
自分じゃないみたいだ。
美容室を出るとあいまいな曇り空が広がっている。
君はなんて言うかな。僕はなんて言って欲しいのかな。
あじさい
君はイエベなんとかとか言われてもほとほとくだらないと思ってきたけど
僕は咲き始めた紫陽花を見て、何故だか自然とあの人の澄んだ肌や柔く穏やかな黒髪を思い出したんだ
だから思う
あの人はきっとサマー 恵みの雨と輝く太陽のもとの人
二人だけのひみつ
ママたちにはないしょね、から二人だけのひみつだよ、に変わったのはいつだっただろう。
ベッドの中で頭までシーツを被ってゲームをしていた頃はまだママたちにはないしょね、だった気がする。
機内でヘッドホンをしてうたた寝をしていると、手を握られた。どきどきと心臓が高鳴るのを感じながら、とっさに気付かないふりをしてそのまま狸寝入りする。
短期留学に向かう。付き合い始めたことはまだ、二人だけのひみつだ。
カラフル
思い出せる一番古い記憶は、今もまだ残されている鏡台の前で母親が口紅を塗っている姿だと思う。
「メイクの本質はモテでも愛されでもないから、メイクが女らしさのためとか今やそれこそ偏見じゃん?」
目の前の新しい友達は長い指先のスクエアに整えた爪を夜空色に染めていて、眉は凛々しく、唇にはブラウンレッドのマットリップを纏ってる。友達は生物学的には男、私は生物学的には女だ。
「…でも身体が残念ながら女の私がやったら、それは女っぽくならない?」
「おばかさん、メイクでどれだけかっこよくなれるか知らないな?」
友人は朗らかに笑って黒いリュックからポーチを取り出した。
「ほら、そのキレーなツラ貸しな。てか、おばかさんって言い方めっちゃヒロインを励ますオネエすぎた、」
「ふ、自虐やめな、」
これが、女でも男でもない、私らしくあるためのメイクデビューだった。
届かない
二歳年上に片想いをするというのは、中学高校、同じところに行ったとしても一年しか重ならないし、相手は大抵受験という壁に立ち向かっているということだ。
僕はぼんやりそう思いながら、高校卒業を祝う一輪の花を持つ晶を眺めた。
「卒業おめでとう。早いね。」
「ありがとー、はぁ〜俺このブレザー超似合うし着れなくなるのやだな。」
「はは…確かに似合うけど。」
「怜は背また伸びた?」
「そう?かも。」
大学か。大学。どうしたらいいんだろう。高校でなら想いを届けられる自分になるのかなと、思ったんだけど。それも出来なかったのに、また同じ大学を選ぶのか。
「ま〜、引っ越しはするけどそんな遠くないし。すぐ帰ってくるよ。」
「…うん。」
晶の手で花がくるくる回る。赤い色が遠い。隣にいるのにぽつんと独りきりのような感覚は涙すら出ないほどだった。