カラフル
思い出せる一番古い記憶は、今もまだ残されている鏡台の前で母親が口紅を塗っている姿だと思う。
「メイクの本質はモテでも愛されでもないから、メイクが女らしさのためとか今やそれこそ偏見じゃん?」
目の前の新しい友達は長い指先のスクエアに整えた爪を夜空色に染めていて、眉は凛々しく、唇にはブラウンレッドのマットリップを纏ってる。友達は生物学的には男、私は生物学的には女だ。
「…でも身体が残念ながら女の私がやったら、それは女っぽくならない?」
「おばかさん、メイクでどれだけかっこよくなれるか知らないな?」
友人は朗らかに笑って黒いリュックからポーチを取り出した。
「ほら、そのキレーなツラ貸しな。てか、おばかさんって言い方めっちゃヒロインを励ますオネエすぎた、」
「ふ、自虐やめな、」
これが、女でも男でもない、私らしくあるためのメイクデビューだった。
5/2/2024, 10:57:06 AM