とわ

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8/1/2023, 2:03:32 PM

明日、もし晴れたら


「明日晴れたらシーツ洗濯するかぁ。」
眼鏡を外した晶が言った。僕はなんともないみたいに、うん、と軽く返事をしてベッドに寝転んだ晶の隣に潜り込む。
シーツがベランダで風にはためくのを想像して、ふっと目元の力が抜けた。夜の静けさが僕達を包んでいる。
晶がした欠伸がふわりと空気を揺らし、彼はゆったりと息を吐き出して僕の隣で心地のいい場所を探すように身動ぎした。
僕の腕に身体をくっつけたまま、時間を要さずに晶は寝息を立て始める。
寝入る早さは本当に小学生の頃から変わらない。彼を起こさないようについ少し笑った。
「…おやすみ。晶。」
「……んん…。」
僕達は元々幼馴染だ。それが時を重ねて、パートナーになった。
過去のお泊まりの星屑を集めるようなときめきを抱えたまま、今は同じ家に住んでいる。
明日の天気が二人事である事実に口角を緩めて目を閉じた。
明日晴れたら公園行こうなんて言っていた幼い横顔を思い出しながら、昔と変わらず明日の晴れ空を願って眠りに就く。

7/31/2023, 12:03:43 PM

だから、一人でいたい。


君は、さながら僕の人生の光だ。
だけど僕と君はただの幼馴染。君には、異性の恋人が出来た。

僕は君の光を受けてちょっとは明るくなれたけど。
でもこれからはそれじゃ駄目みたい。
今までは天文学部員っていう立場を言い訳に、今日は満月だよなんて写真を送れたけど。
これからは違うね。
君の光から僕は自立しなくちゃいけない。

だから、今夜の満月は一人で見る。
でもつい少しだけ、月を見て思い出すのは僕からのLINEならいいななんて願ってしまうけど。
今は一人でいたい気分なだけ。そう自分に言い聞かせるよ。

7/31/2023, 6:27:11 AM

澄んだ瞳


貴女の瞳 世界を包む空の色
私はずっと見ていたい 
その瞳が夜明けの恵みを浮かべるのを
その瞳が煌めく星を瞬かせるのを
その瞳が雨を降らせる時は 私が一番近くに居たい
空から降った貴女は私に起こった奇跡
澄んだ瞳が真っ直ぐに私を見た日から 私の世界は輝き始めた


あなたの瞳 世界を癒す森の色
私はいつも救われる
その瞳が私を受け入れて木漏れ日の光を浮かべる時
その瞳が私を受け止めて太陽の光に輝く時
その瞳に雨が降る時は 私があなたを癒したい
優しさで私を包むあなたを 私は必ず守り抜く
澄んだ瞳が優しい光を浮かべた日から あなたは私を導く光


7/29/2023, 2:32:26 PM

嵐が来ようとも


「大丈夫?怖くないよ、俺が守ってあげるから…!」
10歳だった僕の手を握ったのは12歳の君だった。
今思えば雷に興味を持って勉強していた分僕よりも自然の力を怖がっていたように思う。
雷の夜はゲームの電源を落として、一枚のタオルケットにふたり包まって本を読んだっけ。学校の音読はつまらなかったのに、君と交代で読む本は自分で読む何倍も面白かった。
だから、あの頃の僕は密かに嵐の夜を楽しみにしていた。

「ただいま…雨やばいよ、雷まで鳴って来てる…。」
「おかえり!すごいべちゃべちゃ、あはは。」
あれから10年が経った。変わらず一緒に過ごせることを嬉しく思いながら、嵐の夜には幼い記憶を辿ったりもする。
彼の濡れた髪をタオルで拭いて、互いに随分伸びた背を思って僕はつい少し笑った。
「うは、笑っちゃうくらいべちゃべちゃ?」
「ん、んん、ふふ、さっきまで雨音してなかったのにね。」
「電車降りた途端バケツひっくり返したみたいな雨で俺も笑っちゃった…。」
「…寝る前に、一緒に本読もうよ。昔みたいに。」
「ん、いいね。本選んどいて、俺シャワー浴びてくる。」
小さい頃は、身体が小さかったから一枚のタオルケットに収まっていた。でも今は、大きい身体を寄せ合うために一枚のタオルケットに包まれる。そんな風に君と身を寄せていれば、嵐の夜も怖くない。

7/29/2023, 8:55:02 AM

お祭り


「あ、怜…ごめん、夏祭り…今年は彼女が一緒に行こうって言ってて…。」
「…あぁ。うん。わかった。」
そんなの、わざわざ言われなくたって、彼女が出来たって聞かれた時点で分かってたのに。
怜は晶の妙な誠実さに腹を立てて、目を伏せて彼の部屋を出た。
家が隣同士だし、誰より近いから大丈夫。晶が小学校を卒業した時、怜はそう思っていた。だけど現実は時間的距離が晶を遠ざけ、彼は怜が知りもしない中学校の女の子に告白されて付き合い始めた。
久しぶりに晶の部屋に泊まって布団の中で打ち明けられた夜、怜は冷水を浴びせられたような感覚を初めて味わったのだった。息の仕方も分からなくなりそうで居ても立っても居られなくなって、お腹かが痛いから帰るとベッドを出て自分の部屋に帰った夜。
結局晶のことがどうしても頭を離れず、寝付けないままカーテンの外が明るくなった。初めて見るに等しい朝焼けをぼんやりと眺めながら、怜は嫉妬を自覚した。そして、自分の欲望が恋なのだろうと理解した。
やけに喉が渇いて、一人きり、静かなキッチンでコップに水を満たした。キッチンの小窓から差し込む限られた光の中、怜は口に出来そうもない恋心を飲み下すように冷たい水を飲んだ。

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