とわ

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嵐が来ようとも


「大丈夫?怖くないよ、俺が守ってあげるから…!」
10歳だった僕の手を握ったのは12歳の君だった。
今思えば雷に興味を持って勉強していた分僕よりも自然の力を怖がっていたように思う。
雷の夜はゲームの電源を落として、一枚のタオルケットにふたり包まって本を読んだっけ。学校の音読はつまらなかったのに、君と交代で読む本は自分で読む何倍も面白かった。
だから、あの頃の僕は密かに嵐の夜を楽しみにしていた。

「ただいま…雨やばいよ、雷まで鳴って来てる…。」
「おかえり!すごいべちゃべちゃ、あはは。」
あれから10年が経った。変わらず一緒に過ごせることを嬉しく思いながら、嵐の夜には幼い記憶を辿ったりもする。
彼の濡れた髪をタオルで拭いて、互いに随分伸びた背を思って僕はつい少し笑った。
「うは、笑っちゃうくらいべちゃべちゃ?」
「ん、んん、ふふ、さっきまで雨音してなかったのにね。」
「電車降りた途端バケツひっくり返したみたいな雨で俺も笑っちゃった…。」
「…寝る前に、一緒に本読もうよ。昔みたいに。」
「ん、いいね。本選んどいて、俺シャワー浴びてくる。」
小さい頃は、身体が小さかったから一枚のタオルケットに収まっていた。でも今は、大きい身体を寄せ合うために一枚のタオルケットに包まれる。そんな風に君と身を寄せていれば、嵐の夜も怖くない。

7/29/2023, 2:32:26 PM