真岡 入雲

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9/22/2024, 5:54:20 AM

【お題:秋恋 20240921】

「女心と秋の空ってやつなのかぁ」

『いや、ただ単に先輩がうざくなっただけなんじゃないかな?』

なんて事は、口が裂けても言えない。
そんな悲しいサラリーマンな俺は、三連休の初日の夜、会社の先輩に呼び出された居酒屋でだし巻き玉子をつついている。
うん、この大根おろしがあるのと無いのでは味が全然違うよな。

「おい、宝条、聞いてるのか?」
「聞いてますよ、横溝先輩。俺は彼女さんと会ったことがないので分かりませんが、先輩にはもっとお似合いの人がいますよ」
「そうか、本当にそう思うか?」
「はい。だって先輩はできる男じゃないですか。先輩くらい仕事が出来る男の人を放っておく女性なんていませんって!」
「いやぁ、まぁ、そうだよな」
「はい、ですから今日はもっと飲みましょう!」

そして早く潰れてほしい。

「あ、すみません。この日本酒とこの焼酎、それと軟骨の唐揚げにホッケをお願いします。あ、ホッケに大根おろしは付いてます?無ければつけてもらうことは⋯あ、はい、お願いします。あとおでん皿も」

えーと、確か付き合い始めたのはゴールデンウィーク前で、今が9月だから5ヶ月位か。
今回も半年持たなかったか。
まぁ、そうだよな、正直俺でも嫌だもんな。
朝起きたらおはよう連絡、昼は何食べたとか、夜は夜で寝る直前まで通話だっけ?
んで週末はお泊まりで休みはデート三昧、時には旅行。
まぁ、デートも旅行も費用は先輩持ちだけどさ、それこそ付き合い始めはいいんだろうけど、そのうちうざくなってくるよな、自分の時間が取れないってのもあるし。
3ヶ月もすればお腹いっぱいになって、この先ずっとこのままなのかって考えたら、そりゃ逃げたくもなるって。
悪い人じゃないんだけど、寧ろ良い人なんだけど、何でか恋愛関係だけは重すぎるんだよな、先輩って。
あー、もしかしたら相手は日本人じゃない方がいいのかもしれないなぁ。

「宝条ぉ、俺の何がダメなんだァ」

う、何て言ったらいいんだ⋯⋯。
あ、そうだ!

「先輩、秋に始まる恋ってのは長続きするらしいですよ。秋恋ってやつです」
「ん?何で秋恋は長続きするんだ?」
「秋って肌寒くなって人肌が恋しくなるじゃないですか。それに、クリスマスにお正月、バレンタインデーにホワイトデーとイベントが盛りだくさんですし。秋は食欲、読書、芸術、スポーツと色々とできます。それに紅葉を見に温泉旅行なんてのも最高です!」
「⋯⋯温泉か、良いな温泉⋯⋯⋯」

そう呟いてスマホを弄り始めた先輩を他所に、俺は運ばれてきたおでんの大根を頬張る。
この味の染みた大根が、最高に美味い。

「なぁ、宝条。お前、おすすめの宿とかある?」
「おすすめ?⋯⋯先輩、俺、彼女いない歴=年齢ですけど?」
「いや、ほら。友達ととか家族旅行でとかあるだろ」
「三連休の初日に先輩から誘われてすぐ居酒屋に来れるくらい友達いない暇人ですし、うち、俺が5歳の時に両親離婚して貧乏だったので、家族旅行とか行ったことないんです。先輩の方が色々な所知ってるんじゃないんですか?」
「俺、兄弟6人の大家族でさ、家族旅行は大抵キャンプだったんだよ。まぁ、キャンプは楽しいから良かったんだけど、ホテルとか旅館とか、家族旅行で使ったことなくて」
「え、でも今までの彼女さんと行った所とか」
「また別れそうで嫌じゃん」
「あ、あー、デスネ」

どこかって言われてもなぁ⋯⋯うーん。
あ、ホッケ美味い。
一人暮らしだと魚とかあんまり焼かないからな、こういう時に食べるに限る。
あー、そうだ、あれならいいんじゃないか?

「先輩、グランピングとかどうです?紅葉見て、温泉入って、星空を見る。最高じゃないですか」
「グランピングか、いいな、ソレ」

ツイツイとまたスマホを弄り出した先輩は、どことなく楽しそうだ。
さっきまでの嘆きは何処へやら、だ。
ただ、何となくだけど先輩の愛の重い理由がわかってきた気がする。

「先輩って長男ですか?」
「あぁ、そうだぞ」
「ご兄弟と年は離れてたりします?」
「うん?なんでわかるんだ?えーとな、すぐ下がお前と同い年の5歳離れた妹、その一つ下に双子の弟、それから双子の3つ下に弟で、一番下が今度12離れた妹だ」
「なるほど。賑やかそうですね」
「まぁな。静かなのは寝ている時くらいで、それ以外はずーっと煩かったな。っと、良いグランピング施設見つけたぞ。来月に予約入れた」
「え、早っ、って、先輩一緒に行く相手は?」
「大丈夫、来週にはいるはずだ」
「⋯⋯ソウデスネ」

くっ、リア充め⋯⋯。
いや、充実しているようでしていないのか、この人。

「あー、横溝先輩」
「うん?」

頼んだ日本酒を飲みながら、先輩はホッケをつついでいる。
俺と同じく幸せそうな顔をしているところを見ると、先輩も焼き魚はしない方の人間なのだろう。

「犬、飼ってみたらいいんじゃないですか?」
「犬?」
「先輩のところのマンション、ペットOKでしたよね?」
「まぁ、そうだけど」
「夫婦仲をとり持つのが子供だって言うなら、恋人同士の仲をとり持つのはペットじゃないかと思いまして」
「⋯⋯なるほど」

先輩の愛の重さは寂しさから来てるんだと思ったんだ。
だから愛を向ける先を分散すればいいんじゃないかっていう、発想だったんだが、まさかあんなことになるとは、想像もしなかった。
とりあえずその日は、俺もだいぶ飲んで先輩の家に泊まることになった。
でっかいキングサイズのベッドに男二人で寝るとか、どんな罰ゲームだ!とか思ったけど、寝心地があまりにも良すぎてあっという間に夢の世界に引きずり込まれてしまった。
翌朝がっちり先輩にホールドされた状態で目覚めた時は、地獄かと思ったけれど。

尚、先輩は俺の助言通り犬を飼い始めた。
1匹から始まり2年経った頃には3匹に増えていて、ついには犬の為にと広い庭付きの一戸建てを購入してしまった。
因みにその間、彼女はできておらず、同じく彼女のいない俺が時折呼び出され犬たちと一緒に旅行に行く羽目になっていた。
うん、先輩の愛が重いのは寂しいからじゃなかった、元から愛が重いだけだった。
俺は最近、近所の神社でのお祈りが朝の日課になっている。

「早く彼女ができますように⋯⋯」

俺でも先輩でもどちらでもいいから。
じゃないと社内の女子の間に流れている、俺と先輩のただならぬ関係の噂が広がる一方だ。

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(´-ι_-`) 秋恋なんて初めて知ったよ⋯⋯。

9/21/2024, 1:46:48 AM

【お題:大事にしたい 20240920】

テーブルの上に置かれた、緑の紙とシンプルな指輪。
少しだけ広く感じる、君の荷物のない部屋。
取り残された俺は独り寂しくカップラーメンをすすっている。

出会ったのが5年前、友達の紹介だった。
付き合って半年でプロポーズして、1年後には結婚していた。
同僚からは早すぎる結婚だと言われ、友達からはもっと遊べばいいのにと言われた。
でも、家族に恵まれなかった俺は、安らげる場所が欲しかった。
そして、自分の理想の家庭を作る事に一生懸命だった。

俺はきっと自分の理想を君に押し付けていただけなのかもしれない。
もっと君と話し合うべきだったと、そう思った頃にはもう、君の心は離れていた。
どこで間違えたのだろうか。
どこまで戻れば、元に戻れるのだろうか。
そんなことを考えて眠れない夜を幾度も過ごして、また今日という朝が来る。

一度も俺を批難することなく、君が静かに言った言葉。

『お互い、急ぎすぎたのよ』

何を?
理想を追い求めるのが。
どうして?
曖昧なものを形にするには、経験が足りていなかった。
どうすれば?
さぁ、まだ俺には分からない。

大事にしたい、ただそれだけではダメだった。
お互いの未来を背負えるだけの、努力も覚悟も足りていなかった。

この先の未来でいつか君に話せるように、俺はもう一度前に踏み出す。
今度こそは追い求める理想を現実にして、心安らげる場所で笑いながら生きていると。


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(´-ι_-`) 互いを憎まずに別れる道を選択するのも良い生き方だと思います。

9/20/2024, 7:55:39 AM

【お題:時間よ止まれ 20240919】






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(´-ι_-`) 切実に今思ってるよ⋯、後日up

9/19/2024, 7:14:03 AM

【お題:夜景 20240918】





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(´-ι_-`) デバイス切り替えのため、後日up

9/18/2024, 7:01:01 AM

【お題:花畑 20240917】

「うわっ、真っ暗。まさかここって地獄?」

男は自分の両手を目の前にかざした、つもりだった。
だがそこに見えるはずの手は見えず、黒い闇が続くばかりだ。
顔を触ってみると、何となく感触はある、たぶん。
だがやっぱり手は見えない。
これほどの闇、やはり地獄だろうか?そう、思った時、どこからともなく"声"が響いた。

『五日市 雅人、享年38歳。父親は五日市 透、享年26歳、母親は五日市 美千代、旧姓保野田 美千代、享年24歳。兄弟なし。独身、過去及び死亡時にも恋人はなく、生涯童貞。死因は駅の階段での転落巻き込まれ事故による頚椎骨折。これで間違いないかな?』

「大体は。死因は今知りましたけど」

感覚としては、ついさっき、だけれども、どうなんだろう?
両親は俺が赤ん坊の時に交通事故に巻き込まて亡くなったと、施設の人に聞いた。
その時に名前も教えて貰ったが、母親の旧姓は今初めて知った。
小中高と目立たずにひっそりと学生生活を送り、奨学金とバイトで貯めたお金で大学に通った。
就職先は社員が100人程度の普通の会社で、真面目に働きながらコツコツと奨学金の返済のため節約生活に励んでいた。
景気のいい時代なんて知らずに生きてきて、楽しみと言えば休日前夜に飲む梅酒くらいなものだった。
ビールじゃないのかというツッコミが聞こえてきそうだが、男はビールは苦いだけで美味しいと感じたことがなかった。
梅酒は酒造会社によって味が違い、自分の好みのものを探しつつ、大手通販サイトでマイナーな梅酒を発掘するのもまた楽しい時間だった。

『運が悪かったよね。階段を踏み外した女子高生がぶつかった57歳の随分と肉付きの良いおばさんの下敷きになっちゃったからね。直接の死因は頚椎骨折だけど、他に肋2本、右腕、左大腿骨、左足首、腰骨⋯いっぱい折れてたね』

「は、はぁ。あの、その57歳の女性は無事ですか?」

『あー無事だよ。君がクッションになってかすり傷だけだ。ついでに女子高生も捻挫だけだ』

「あぁ、それは良かった」

それでこそ死んだかいがあるってものだ。

「それでここはどこなんでしょう?地獄でしょうか?」

『うん?あー、君たちの言う"あの世"だね』

「あの世⋯⋯。もしかして私には見えないけれど、三途の川とか花畑があったりしますか?それとも、ここは雲の上とか全てが真っ白な空間とか?」

『川も花畑もないし、雲の上でも真っ白な空間でもないよ。君たちは随分とあの世を勘違いしているねぇ』

「勘違い、ですか?」

『そうだよ。あの世と言うのは 物質に縛られない世界なんだ。だから、川も花も雲も空間も、何も無いのさ。あるのは"あの世"という概念だけさ。まっ、どうでもいいけどね。とりあえず、幾つか質問に答えてくれる?』

「え、あ、はい」

『まず、1つ目。もう一度生きたい。YesかNoか』

「えっと、Yesです。可能ならば、ですが」

『ふーん。じゃぁ、次。生きるなら地球上が良い』

「Noです。場所にこだわりはありません」

『オーケー。ひとりでいるのは苦痛じゃない』

「Yesです。1人の方が気楽です」

『ふむ。コツコツ頑張るのは性にあっている』

「Yesですね」

『少し時間が掛かっても確実な方を選ぶ』

うん?どういうことだろう?
でもまぁ、ギャンブルは苦手なので⋯⋯。

「Yesです」

『最後の質問。緑、白、黄色の3色のうち好きな色は?』

「えっ?⋯⋯黄色?」

『はい、お疲れ様でした。では、結果発表〜♪』

え、結果発表?ってなんの?

『五日市 雅人は地球の輪廻から外し黄炎の者とする。刑期終了後ユグドラシルの輪廻に組み込まれるものとする』

オウエンノモノ?
ケイキ?
ユグドラシル?

『黄炎の者っていうのは、ん〜、職種みたいな感じかな。刑期っていうのは便宜上そう呼んでるんだけど、君の場合は大体30年分位かな。一応、地球の輪廻を抜けるのはイケナイことなんで"刑期"としているんだ。たくさん善行を積んでいれば刑期無しで転生できたりするし、向こうの世界からの呼び出しであれば刑期関係なしなんだけど、ま、30年分ならあっという間だよ』

「え、あの、何の話かさっぱり分からないのですが。もう少しわかるようにご説明いただいても?」

『うん?あ、それは向こうで聞いてくれる?次の子が来たみたいだから。じゃぁ、頑張ってね』

「え、あのっ!⋯⋯へっ?」

次の瞬間、男は光る床の上に立っていた。
その容姿は男の20歳前後のそれだ。
明るさに慣れない目が細められ、やがてゆっくりと瞼が持ち上げられた。
男は自分の足元の光る床を確認し、次に周りを見た。
そこはおそらくドームのような空間で、数え切れないほどのロウソクがユラユラと緑の炎を揺らしている。

「ここは、一体⋯⋯」

男が呟くのと同時に、目の前に見慣れた端末が出現した。
男の目線の高さでふよふよと浮いているそれは、スマホ、つまりスマートフォンだ。
片手で持てるサイズのそれに男が手を伸ばすと、スマホのような物は自ら男の手の中に収まった。
画面にはひとつのメッセージが表示されている。

『ようこそ、異世界転生刑務所へ』

「異世界転生刑務所?」

メッセージをタップすると動画が再生された。
動画は5分程度の短いもので、この場所の説明とこれから男がすべき事を説明していた。
より詳しいことは、本の形のアイコンをタップすれば良いらしいのだが、取り敢えず叫びたい。

「何でスマホなんだよー!」

スマホが嫌いとかそういうわけではなくて、ただこの場にそぐわない気がして。
後で知った事だが、30年前までは紙と懐中時計、それから紙の地図を使っていたらしいから、これも科学の進歩というやつなのだろう。
微妙に地球上の文化とリンクしているのが何とも言えない。
今がスマホなのであれば、ずっと昔は石版とかだったのだろうか?などと考えてしまう。
とりあえず、やらなければならない事はわかった。
手順も記憶した。
まぁ、それ程難しいことでは無かったので大丈夫なはずだ。

「この火がなくなれば刑期終了って事か」

腰に下げられたランタンをコツンと叩いて男はぐるりと辺りを見回す。
長いもの、短いもの、勢いよく燃えているもの、小さく今にも消えそうなもの、様々な炎がある。
これが全て、誰かの命の炎だと言われると、少しばかり背筋が寒くなった気がした。

男の仕事はこの部屋でロウソクに火を灯すこと。
それは地球上に生まれる誰かの命の灯火。
その仕事を全てやりきった時、男は晴れて生まれ変わる。
地球上ではない、どこかの世界の誰かとして。

もう一度、自分らしく生きるために。


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(´-ι_-`) 9/14のお題『命が燃え尽きるまで』 のチョット前のお話。
因みに9/18 15:30時点で9/14の話は執筆中デス⋯⋯Orz

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