【お題:時間よ止まれ 20240919】
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(´-ι_-`) 切実に今思ってるよ⋯、後日up
【お題:夜景 20240918】
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(´-ι_-`) デバイス切り替えのため、後日up
【お題:花畑 20240917】
「うわっ、真っ暗。まさかここって地獄?」
男は自分の両手を目の前にかざした、つもりだった。
だがそこに見えるはずの手は見えず、黒い闇が続くばかりだ。
顔を触ってみると、何となく感触はある、たぶん。
だがやっぱり手は見えない。
これほどの闇、やはり地獄だろうか?そう、思った時、どこからともなく"声"が響いた。
『五日市 雅人、享年38歳。父親は五日市 透、享年26歳、母親は五日市 美千代、旧姓保野田 美千代、享年24歳。兄弟なし。独身、過去及び死亡時にも恋人はなく、生涯童貞。死因は駅の階段での転落巻き込まれ事故による頚椎骨折。これで間違いないかな?』
「大体は。死因は今知りましたけど」
感覚としては、ついさっき、だけれども、どうなんだろう?
両親は俺が赤ん坊の時に交通事故に巻き込まて亡くなったと、施設の人に聞いた。
その時に名前も教えて貰ったが、母親の旧姓は今初めて知った。
小中高と目立たずにひっそりと学生生活を送り、奨学金とバイトで貯めたお金で大学に通った。
就職先は社員が100人程度の普通の会社で、真面目に働きながらコツコツと奨学金の返済のため節約生活に励んでいた。
景気のいい時代なんて知らずに生きてきて、楽しみと言えば休日前夜に飲む梅酒くらいなものだった。
ビールじゃないのかというツッコミが聞こえてきそうだが、男はビールは苦いだけで美味しいと感じたことがなかった。
梅酒は酒造会社によって味が違い、自分の好みのものを探しつつ、大手通販サイトでマイナーな梅酒を発掘するのもまた楽しい時間だった。
『運が悪かったよね。階段を踏み外した女子高生がぶつかった57歳の随分と肉付きの良いおばさんの下敷きになっちゃったからね。直接の死因は頚椎骨折だけど、他に肋2本、右腕、左大腿骨、左足首、腰骨⋯いっぱい折れてたね』
「は、はぁ。あの、その57歳の女性は無事ですか?」
『あー無事だよ。君がクッションになってかすり傷だけだ。ついでに女子高生も捻挫だけだ』
「あぁ、それは良かった」
それでこそ死んだかいがあるってものだ。
「それでここはどこなんでしょう?地獄でしょうか?」
『うん?あー、君たちの言う"あの世"だね』
「あの世⋯⋯。もしかして私には見えないけれど、三途の川とか花畑があったりしますか?それとも、ここは雲の上とか全てが真っ白な空間とか?」
『川も花畑もないし、雲の上でも真っ白な空間でもないよ。君たちは随分とあの世を勘違いしているねぇ』
「勘違い、ですか?」
『そうだよ。あの世と言うのは 物質に縛られない世界なんだ。だから、川も花も雲も空間も、何も無いのさ。あるのは"あの世"という概念だけさ。まっ、どうでもいいけどね。とりあえず、幾つか質問に答えてくれる?』
「え、あ、はい」
『まず、1つ目。もう一度生きたい。YesかNoか』
「えっと、Yesです。可能ならば、ですが」
『ふーん。じゃぁ、次。生きるなら地球上が良い』
「Noです。場所にこだわりはありません」
『オーケー。ひとりでいるのは苦痛じゃない』
「Yesです。1人の方が気楽です」
『ふむ。コツコツ頑張るのは性にあっている』
「Yesですね」
『少し時間が掛かっても確実な方を選ぶ』
うん?どういうことだろう?
でもまぁ、ギャンブルは苦手なので⋯⋯。
「Yesです」
『最後の質問。緑、白、黄色の3色のうち好きな色は?』
「えっ?⋯⋯黄色?」
『はい、お疲れ様でした。では、結果発表〜♪』
え、結果発表?ってなんの?
『五日市 雅人は地球の輪廻から外し黄炎の者とする。刑期終了後ユグドラシルの輪廻に組み込まれるものとする』
オウエンノモノ?
ケイキ?
ユグドラシル?
『黄炎の者っていうのは、ん〜、職種みたいな感じかな。刑期っていうのは便宜上そう呼んでるんだけど、君の場合は大体30年分位かな。一応、地球の輪廻を抜けるのはイケナイことなんで"刑期"としているんだ。たくさん善行を積んでいれば刑期無しで転生できたりするし、向こうの世界からの呼び出しであれば刑期関係なしなんだけど、ま、30年分ならあっという間だよ』
「え、あの、何の話かさっぱり分からないのですが。もう少しわかるようにご説明いただいても?」
『うん?あ、それは向こうで聞いてくれる?次の子が来たみたいだから。じゃぁ、頑張ってね』
「え、あのっ!⋯⋯へっ?」
次の瞬間、男は光る床の上に立っていた。
その容姿は男の20歳前後のそれだ。
明るさに慣れない目が細められ、やがてゆっくりと瞼が持ち上げられた。
男は自分の足元の光る床を確認し、次に周りを見た。
そこはおそらくドームのような空間で、数え切れないほどのロウソクがユラユラと緑の炎を揺らしている。
「ここは、一体⋯⋯」
男が呟くのと同時に、目の前に見慣れた端末が出現した。
男の目線の高さでふよふよと浮いているそれは、スマホ、つまりスマートフォンだ。
片手で持てるサイズのそれに男が手を伸ばすと、スマホのような物は自ら男の手の中に収まった。
画面にはひとつのメッセージが表示されている。
『ようこそ、異世界転生刑務所へ』
「異世界転生刑務所?」
メッセージをタップすると動画が再生された。
動画は5分程度の短いもので、この場所の説明とこれから男がすべき事を説明していた。
より詳しいことは、本の形のアイコンをタップすれば良いらしいのだが、取り敢えず叫びたい。
「何でスマホなんだよー!」
スマホが嫌いとかそういうわけではなくて、ただこの場にそぐわない気がして。
後で知った事だが、30年前までは紙と懐中時計、それから紙の地図を使っていたらしいから、これも科学の進歩というやつなのだろう。
微妙に地球上の文化とリンクしているのが何とも言えない。
今がスマホなのであれば、ずっと昔は石版とかだったのだろうか?などと考えてしまう。
とりあえず、やらなければならない事はわかった。
手順も記憶した。
まぁ、それ程難しいことでは無かったので大丈夫なはずだ。
「この火がなくなれば刑期終了って事か」
腰に下げられたランタンをコツンと叩いて男はぐるりと辺りを見回す。
長いもの、短いもの、勢いよく燃えているもの、小さく今にも消えそうなもの、様々な炎がある。
これが全て、誰かの命の炎だと言われると、少しばかり背筋が寒くなった気がした。
男の仕事はこの部屋でロウソクに火を灯すこと。
それは地球上に生まれる誰かの命の灯火。
その仕事を全てやりきった時、男は晴れて生まれ変わる。
地球上ではない、どこかの世界の誰かとして。
もう一度、自分らしく生きるために。
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(´-ι_-`) 9/14のお題『命が燃え尽きるまで』 のチョット前のお話。
因みに9/18 15:30時点で9/14の話は執筆中デス⋯⋯Orz
【お題:空が泣く 20240916】
「お母さん、お空がないてるよ」
昨日まで3日続いた嵐は過ぎ去り、今日はこれでもかと言うほどの素晴らしい秋晴れ。
3日間出来なかった洗濯を終えて、涼花は娘と2人で買い物に行こうと駐車場に停めてある、愛車に向かって歩いているところだった。
お気に入りのウサギのぬいぐるみリュックを抱えた娘が、ふと足を止め空を見上げて言った。
娘のその言葉に涼花は首を捻った。
空が泣く、とは?
よく歌詞などで、雨が降ることを『空が泣いている』と表現したりするが、相手は7月に3歳になった幼児だ。
そんな、詩的表現ができる歳ではないだろう。
ましてや今日は秋晴れ、雨など降っていないし、降りそうにもない。
「そっかぁ、泣いてるのか」
「うん、ないてるよ」
「そっかぁ、お母さんにはわからないなぁ」
涼花の娘、千伽は時折不思議なことを言う。
赤ん坊に頃から何もないところを見て笑っていたり、あうあう誰かと話しているようだったりした。
ただそれも、赤ん坊なら普通にあるかと思っていたのだが、言葉を話すようになるとそうも言っていられなかった。
道端でいきなりバイバイと手を振ってみたり、部屋でひとりで遊んでいると思ったら、見えない誰かと会話しているようだったり。
まぁ、子供には大人に見えない何かが見えるとも聞くので、それかな?と思い気にしないことにしていた。
が、今日のは少し気になる。
「誰が泣いてるのか千伽にはわかる?」
「うーんと⋯⋯大きい、お魚さん」
「ん?お魚さん?」
「うん」
魚が、泣く?
ますます分からなくなってしまった涼花は考える事を放棄した。
「うん、そっか。大きいお魚さんか。じゃあお魚さんにバイバイして、お買い物行こうか」
「うん!お魚さん、バイバイ!」
そう言って、涼花と繋いでいた手をブンブンと振る千伽の視線は、先程より若干西側に動いている。
魚、動いてるのか⋯⋯。
ぼんやりとそんなことを考えながら、涼花はニコニコと手を振っている娘を見下ろす。
これはちょっと、旦那に相談した方が良いかもなと思いつつ 、涼花は千伽をチャイルドシートに座らせた。
買い物をするスーパーまでは車で大体10分程度。
その間、千伽はご機嫌で足をパタパタさせながら何やら歌を歌っているようだ。
だが、なんの歌なのか涼花には分からなかった。
店頭に並び始めた新米と、ちょっとばかり価格が上がっている葉物野菜。それから定番のじゃがいも、にんじん、玉ねぎと若干スリムな大根。
その他にも鳥、豚、牛のお肉に、鮭の切り身と牛乳に卵に納豆などなど、たくさん買い物をして帰宅。
1度では部屋まで運びきれなくて、結局3往復もする羽目になり、涼花はソファに倒れ込んだ。
「お母さん、大丈夫?」
可愛らしく小首を傾げて心配してくる千伽の頭をぐりぐりと撫で回し、涼花はソファに座り直した。
「ちょっと疲れただけよ。今日は千伽とお父さんが大好きなハンバーグにするからね」
「ヤッター!ハンバーグ!」
両手を上げてぴょんぴょんと飛び跳ねる千伽はどこにでもいる、普通の3歳児にしか見えない。
しかし、多分千伽には普通の人には見えないものが見えていて、この先それによって苦労もするかもしれない。
今の所怖がる素振りを見せたことは無いが、この先千伽に害を及ぼさないとも言いきれない。
「お母さん、ハンバーグ好き?」
「うん、好きよー」
「赤ちゃん達も、ハンバーグ好き?」
ここで、赤ちゃんはまだハンバーグ食べられないと思う、などと大人の切り返しをしてはいけない。
何せ相手は3歳児だ。
「⋯⋯赤ちゃん達はどうかなぁ、わかんないなぁ」
「そっかー。ざんねんね」
「残念だね」
それよりも、『赤ちゃん達』とはどういうことだろうか。
「あのね、千伽ね、赤ちゃん達大好き」
「うん?」
「お母さんも、お父さんも、大好き」
「⋯⋯お母さんも千伽のこと、大好きよ」
「えへへー」
千伽はぽんっと涼花に抱きつき、ぎゅっと頭を腹部に押し付けた。
そんな千伽の頭を優しく撫でながら、涼花は考える。
『赤ちゃん達』とは?
ん?
あれ、そういえば⋯⋯。
え、でも。
確かアレ、買ってたはず。
「千伽、お母さんハンバーグ作るから。ひとりで遊べる?」
「⋯⋯テレビがいい」
「そうだね。じゃぁ、コレがいいかな」
テレビとは言いつつも、見せるのはYouTubeの自然を撮影した動画やライブ映像で、今日は海をチョイスしている。
再生時間は2時間と43分と長めだ。
大抵の場合、30分もしないうちに眠ってしまうので、涼花としては大助かりだったりする。
千伽はテレビの真正面に、人をダメにするクッションを引き摺って持ってきて、その上に寝そべった。
既に眠る気満々でいるのが可愛らしく、涼花は肌がけを千伽にかけてあげる。
画面には大海原が映し出され、カメラが水面ギリギリを滑るように進んでいた。
キッチンに向かう前に探し物をしていた涼花が目的のものを見つけたのと同時に、千伽が声をあげた。
「お母さん、アレ。大きいお魚さん!」
テレビの画面を見るとそこには、巨大なナガスクジラが悠々と海中を泳いでいるところが映っていた。
大きいお魚、なるほど。
「クジラさんだね」
「クジラさん?」
「そう、凄ーく大きいんだよ。でもねお魚さんじゃないんだよ」
「ふぅん。クジラさん、くおぉぉぉってないてた。楽しそうだったよ」
「そっかぁ、良かったね」
「うん!」
千伽は既に画面に視線を戻している。
その様子を確認して、涼花はリビングを後にした。
「それで、話って?」
「千伽のことなんだけど、色々と話せるようになってきて、やっぱり、って言うかなんて言うか⋯。あの子、視えてるの」
「あー、うん。やっぱそうだよな」
ビールを一口飲んで伸宏は天井を見上げた。
そんな感じはしていたし、否定できるほどその世界に疎い環境で育ってはいない。
むしろ家系としてはどっぷり浸かった家系だ。
ただ、その能力が男である伸宏とは無縁のものだった、と言うだけで。
「その、視えていることに関しては仕方がないと思うんだけど、周りは視えないのが普通でしょ?それを、どうしたら上手く伝えられるかなって。それと今のところは怖い思いはしていないみたいだけど、もしそうなった時どうすればいいか⋯⋯」
「うーん、母さんに相談してみるか」
伸宏の家は女性にそう言う能力が出る家系である。
強い弱いの差はあれど、奥渡家の血を引く女性陣は一般の人に見えないものが視える。
そして、それを生業として続いてきた家系でもある。
因みに今1番能力が強いのは、伸宏の妹である歩乃華だが、彼女は19歳で大学生の身。
よって、それ系の仕事は姉の双葉と母、それと従姉妹の三姉妹が主立って対応している。
ただ、彼女らで対応できない場合は、歩乃華か祖母である百合子が対応している。
千伽が生まれた時、母と祖母は大丈夫だと言っていたが。
「お願いね。それともうひとつ」
「うん?」
涼花が無言で差し出したソレが意味するのは⋯⋯。
「本当に?」
こくんと頷いた、涼花を今すぐにでも抱きしめたい衝動に駆られる。
が、ここは冷静に。
「明日、病院に行ってくるけど⋯⋯」
「けど?」
「千伽が『赤ちゃん達』って言ってたのが気になって」
「ん?どういうこと?」
涼花は伸宏に昼間のことを話した。
そして、千伽の言った『赤ちゃん達』が間違いではなかったことは、翌日行った病院で明らかになった。
それからはてんやわんやで、千伽のこともあり歩乃華が涼花の家に暫く居候することになり、妊婦となった涼花の手伝いで家事をしたり、千伽の世話をしつつ視える世界のことを少しずつ教えたり、伸宏の姉や母や祖母が入れ代わり立ち代わり様子を見に来たりと家は随分と賑やかになった。
そして今日、涼花の家族が2人増える。
男の子と女の子の兄妹が色々と騒動を巻き起こすのはもう少し先の話になるが、伸宏や千伽が嬉しそうに笑っているのを見て、涼花は幸せだな、と小さく呟いた。
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(´-ι_-`) くじらぐも、乗りたかったな
【お題:君からのLINE 20240915】
休日の午前中、いつもより遅く目覚めて、コーヒーを一杯。
通り過ぎた夏の後の空気は、湿気が少なく肌に心地よい。
掃除も洗濯も昨日のうちに済ませてしまった。
今日の夕食の準備も昨日のうちに終わらせている。
だから今は、君からのLINE待ち。
早く来ないかな、と、点けているテレビそっちのけで、ソワソワしている自分が可笑しくて笑ってしまう。
でも、仕方がないよね。
君に会えるのは久しぶりだから。
お互い仕事が忙しくて、少し前までは僕が出張で地方へ行っていて、入れ違いに今日までは君が出張でいなかった。
一緒に暮らしているはずなのに、ひと月近くも会えないとか、神様は随分と意地悪だ。
「⋯⋯⋯⋯」
用もなくスマホを手に取って、LINEを開いては閉じる。
昨夜、駅まで迎えに行こうかと聞いたら、タクシーを使うから来なくていいと言われ、僕が少しばかり寂しい思いをしたことを君は知らないだろう。
本当は1分でも1秒でも早く君に会いたかっただけなんだけどな。
まぁ、君は大体いつもそんな感じだから仕方がないよね。
そして僕は、そんな君が大好きなんだ。
人前でベタベタするのは嫌いだけど、自分が甘えたい時は少し恥ずかしがりながらも僕に擦り寄ってくる。
「ん〜、どうしよう。なんか作ろうかな」
君からの連絡を待つ間、何もしないのも勿体ないと思うのに、なにかしようとしても多分手につかないことが分かりきっている。
あぁ、早く君に会いたい。
会ったらどうしようか。
まずはぎゅぅっと抱きしめて、お疲れ様って言う。
それから、君の好きな紅茶を淹れよう。
昨日作ったクッキーも一緒に出して、ささやかなお茶会を開こう。
リラックスできるし、少しでも疲れを癒してあげないと⋯⋯そうだ!
僕は立ち上がってバスルームに向かう。
疲れている時は、やっぱりお風呂に浸かるのが1番だよね。
湯船に湯を張って、タオルを準備して、リラックスできるよう君の好きな入浴剤も準備しておく。
「ん、お風呂の準備完了」
お湯は勝手に張ってくれるから、これで十分だ。
後は、紅茶を入れる準備でもしておこうか。
茶葉は君の好きなウバで、カップは君が一目惚れして買ったこの、不思議の国のアリスをイメージして作られたやつ。
うん、これでいい。
「⋯⋯⋯⋯」
LINEを開いてメッセージの有無を確認し、君からの連絡が来ていないことに肩を落とす。
7時には空港に着く予定だったから、もう駅に着いているはずなんだけど。
まさか、事故に巻き込まれたとか?
いや、テレビでは何も言ってないし、大丈夫なはず。
あ、飛行機が遅れてるとか?
でもそれなら、連絡くれるはずだし⋯⋯。
「あぁ、もう。待つのは苦手だ!」
「⋯⋯⋯⋯何を待ってるの?」
「えっ?」
振り返るとそこには君の姿が。
「はい、これお土産。いいワイン見つけたの。今夜にでも飲もう?」
「へっ、あれ?いつの間に?あ、ありがとう」
「ただいまって言ったのに返事ないから。何?考え事でもしてた?」
「え、あ、うん。あ、風呂入れてるけど、入る?」
「うーん、後ででいいかな」
君はテキパキとスーツケースから取り出した衣服を洗濯機に放り込んでいる。
書類なんかも一つにまとめて、いつも使っているバッグにしまっている。
「紅茶飲む?クッキーも焼いたけど」
「ん〜、それも後ででいいや」
「⋯⋯そっか」
「よし、片付け完了。着替えて来るね」
「あ、うん、わかった」
風呂も紅茶もいらないって言われてしまった。
残るは夕食だけど、さすがに要らないとは言わない、よな?
僕の心はちょっと沈んでしまっている。
確かに僕は君のクールなところが好きだ。
けど、今回はちょっとばかり寂しい、な。
「で、何を待ってたの?」
しょんもりしてクッションを抱えソファに座っていた僕の隣に、部屋着に着替えた君が座る。
久しぶりに君に会えて、嬉しいはずなのに、僕の心は浮かない。
お帰りのハグも、リラックスティータイムもほんわかバスタイムもダメだった。
「うん、大丈夫。君が無事帰ってきてくれたから、もういいんだ」
「そう?⋯⋯⋯⋯じゃぁ」
君はそう言うとソファから降りて、僕の前に立った。
いつもは僕が君を見下ろしているから、このアングルで君を見るのはなんだか新鮮な感じがする。
「ね、手、広げて」
「ん?何?」
「いいから、早く」
「これでいい?」
手をぱーにして彼女に掌を見せるようにする。
「違う、横に拡げて」
「横?あ、こう?」
「そう、それ」
次の瞬間、君は満面の笑みを浮かべて僕の腕の中へダイブしてきた。
ぎゅうっと背中に回した手に力を入れて抱きついてくる。
首筋に君の吐息があたり、まるで思春期の少年のように僕はドキドキしてしまった。
僕に抱きつく君をそっと包んで、僕も君の首筋に顔を埋める。
ほのかに香る柑橘系の甘酸っぱい匂いが、僕の腕の中にいるのは確かに君だと教えてくれる。
「ただいま」
「おかえり」
「ずっと、会いたかったよ」
「僕も」
とくんとくんと、君の少し早い鼓動が聞こえてくる。
「あの、ね」
「うん?」
「外で会ったら泣いちゃぅかもって思って。だから、迎えは要らないって、言ったの」
「そっか」
「LINEも、連絡したら、もっと会いたくなるから⋯⋯我慢したの」
君の小さな声を僕は全身で受け止める。
「お風呂も、お茶も⋯嬉しいけど、早くこうしたかったから」
「⋯⋯⋯⋯うん、そうだね。僕ももっとこうしていたいな」
君の首元に、軽く唇を這わせて、リップ音を鳴らして吸い上げる。
そっと君の頬を両手で包んで、ゆっくりと唇を重ねる。
初めは短く啄むように、次にゆっくり、その唇を味わうように。
そして⋯⋯⋯⋯。
この先は皆さんの想像にお任せします。
あぁ、ただ、その日の夕食は少しばかり遅い時間にとることになったのと、お風呂は2人でゆっくり入った事だけはお教えておこうかな。
ついでにもうひとつ。
彼女の会社の人達は彼女を怖い御局様とか言っているみたいだけど、それは違うよ。
プライベートの僕の奥さんは、最高に可愛い人なんです!
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(´-ι_-`) ソワソワしながらメッセージを待つ、熊さんをイメージして。