真岡 入雲

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【お題:君からのLINE 20240915】

休日の午前中、いつもより遅く目覚めて、コーヒーを一杯。
通り過ぎた夏の後の空気は、湿気が少なく肌に心地よい。
掃除も洗濯も昨日のうちに済ませてしまった。
今日の夕食の準備も昨日のうちに終わらせている。
だから今は、君からのLINE待ち。
早く来ないかな、と、点けているテレビそっちのけで、ソワソワしている自分が可笑しくて笑ってしまう。
でも、仕方がないよね。
君に会えるのは久しぶりだから。
お互い仕事が忙しくて、少し前までは僕が出張で地方へ行っていて、入れ違いに今日までは君が出張でいなかった。
一緒に暮らしているはずなのに、ひと月近くも会えないとか、神様は随分と意地悪だ。

「⋯⋯⋯⋯」

用もなくスマホを手に取って、LINEを開いては閉じる。
昨夜、駅まで迎えに行こうかと聞いたら、タクシーを使うから来なくていいと言われ、僕が少しばかり寂しい思いをしたことを君は知らないだろう。
本当は1分でも1秒でも早く君に会いたかっただけなんだけどな。
まぁ、君は大体いつもそんな感じだから仕方がないよね。
そして僕は、そんな君が大好きなんだ。
人前でベタベタするのは嫌いだけど、自分が甘えたい時は少し恥ずかしがりながらも僕に擦り寄ってくる。

「ん〜、どうしよう。なんか作ろうかな」

君からの連絡を待つ間、何もしないのも勿体ないと思うのに、なにかしようとしても多分手につかないことが分かりきっている。
あぁ、早く君に会いたい。
会ったらどうしようか。
まずはぎゅぅっと抱きしめて、お疲れ様って言う。
それから、君の好きな紅茶を淹れよう。
昨日作ったクッキーも一緒に出して、ささやかなお茶会を開こう。
リラックスできるし、少しでも疲れを癒してあげないと⋯⋯そうだ!

僕は立ち上がってバスルームに向かう。
疲れている時は、やっぱりお風呂に浸かるのが1番だよね。
湯船に湯を張って、タオルを準備して、リラックスできるよう君の好きな入浴剤も準備しておく。

「ん、お風呂の準備完了」

お湯は勝手に張ってくれるから、これで十分だ。
後は、紅茶を入れる準備でもしておこうか。
茶葉は君の好きなウバで、カップは君が一目惚れして買ったこの、不思議の国のアリスをイメージして作られたやつ。
うん、これでいい。

「⋯⋯⋯⋯」

LINEを開いてメッセージの有無を確認し、君からの連絡が来ていないことに肩を落とす。
7時には空港に着く予定だったから、もう駅に着いているはずなんだけど。
まさか、事故に巻き込まれたとか?
いや、テレビでは何も言ってないし、大丈夫なはず。
あ、飛行機が遅れてるとか?
でもそれなら、連絡くれるはずだし⋯⋯。

「あぁ、もう。待つのは苦手だ!」
「⋯⋯⋯⋯何を待ってるの?」
「えっ?」

振り返るとそこには君の姿が。

「はい、これお土産。いいワイン見つけたの。今夜にでも飲もう?」
「へっ、あれ?いつの間に?あ、ありがとう」
「ただいまって言ったのに返事ないから。何?考え事でもしてた?」
「え、あ、うん。あ、風呂入れてるけど、入る?」
「うーん、後ででいいかな」

君はテキパキとスーツケースから取り出した衣服を洗濯機に放り込んでいる。
書類なんかも一つにまとめて、いつも使っているバッグにしまっている。

「紅茶飲む?クッキーも焼いたけど」
「ん〜、それも後ででいいや」
「⋯⋯そっか」
「よし、片付け完了。着替えて来るね」
「あ、うん、わかった」

風呂も紅茶もいらないって言われてしまった。
残るは夕食だけど、さすがに要らないとは言わない、よな?
僕の心はちょっと沈んでしまっている。
確かに僕は君のクールなところが好きだ。
けど、今回はちょっとばかり寂しい、な。

「で、何を待ってたの?」

しょんもりしてクッションを抱えソファに座っていた僕の隣に、部屋着に着替えた君が座る。
久しぶりに君に会えて、嬉しいはずなのに、僕の心は浮かない。
お帰りのハグも、リラックスティータイムもほんわかバスタイムもダメだった。

「うん、大丈夫。君が無事帰ってきてくれたから、もういいんだ」
「そう?⋯⋯⋯⋯じゃぁ」

君はそう言うとソファから降りて、僕の前に立った。
いつもは僕が君を見下ろしているから、このアングルで君を見るのはなんだか新鮮な感じがする。

「ね、手、広げて」
「ん?何?」
「いいから、早く」
「これでいい?」

手をぱーにして彼女に掌を見せるようにする。

「違う、横に拡げて」
「横?あ、こう?」
「そう、それ」

次の瞬間、君は満面の笑みを浮かべて僕の腕の中へダイブしてきた。
ぎゅうっと背中に回した手に力を入れて抱きついてくる。
首筋に君の吐息があたり、まるで思春期の少年のように僕はドキドキしてしまった。
僕に抱きつく君をそっと包んで、僕も君の首筋に顔を埋める。
ほのかに香る柑橘系の甘酸っぱい匂いが、僕の腕の中にいるのは確かに君だと教えてくれる。

「ただいま」
「おかえり」
「ずっと、会いたかったよ」
「僕も」

とくんとくんと、君の少し早い鼓動が聞こえてくる。

「あの、ね」
「うん?」
「外で会ったら泣いちゃぅかもって思って。だから、迎えは要らないって、言ったの」
「そっか」
「LINEも、連絡したら、もっと会いたくなるから⋯⋯我慢したの」

君の小さな声を僕は全身で受け止める。

「お風呂も、お茶も⋯嬉しいけど、早くこうしたかったから」
「⋯⋯⋯⋯うん、そうだね。僕ももっとこうしていたいな」

君の首元に、軽く唇を這わせて、リップ音を鳴らして吸い上げる。
そっと君の頬を両手で包んで、ゆっくりと唇を重ねる。
初めは短く啄むように、次にゆっくり、その唇を味わうように。
そして⋯⋯⋯⋯。

この先は皆さんの想像にお任せします。
あぁ、ただ、その日の夕食は少しばかり遅い時間にとることになったのと、お風呂は2人でゆっくり入った事だけはお教えておこうかな。

ついでにもうひとつ。
彼女の会社の人達は彼女を怖い御局様とか言っているみたいだけど、それは違うよ。
プライベートの僕の奥さんは、最高に可愛い人なんです!


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(´-ι_-`) ソワソワしながらメッセージを待つ、熊さんをイメージして。

9/16/2024, 6:19:02 AM