【お題:私の日記帳 20240826】
「新しいノート買わないと」
手元のノートの残りが2ページとなった今日、日記を書き始めて20年が経った。
始まりは小学校一年生の時の、7歳の誕生日。
祖父から貰った1冊の洋書風ハードカバーのノートと万年筆。
7歳に贈るものじゃないわよね、と、母が呟いていたのを今でも覚えている。
けれどそれから毎年誕生日に、祖父が亡くなるまでの8年間、ノートと万年筆が送られてきた。
7歳の時に貰った手紙には、短く達筆で『毎日でなくてもいいから日記を書きなさい。いずれそれが貴女の宝物になるから』と書かれていた。
まぁ、当時の私が読めるはずもなく、母が教えてくれたのだけれども。
祖父は私の性格をよくわかっていたようで、日記を毎日書くことは、ズボラな私には難しいことだった。
けれど、ふと時間が空いた時や、気分がいい時、楽しい事があった時、辛いことがあった時、書く量を決めずにただ、日付を書いて、その日あったことや、思ったことなどを好きなだけ書く、そんな形式にすれば、日記を続けることが出来た。
本当に自由に書いていた。
一言だけの時もあれば、3ページに渡って読んだ本の感想を書いたり、下手な絵だけを描いたりもした。
祖父が亡くなってからは、ノートは自分で買うようになった。
その時書いているノートが残り少なくなったら、近所の雑貨屋や文具店に足を運び、気に入ったものがあれば購入する、と言った風に年に2回程度はノートを買っていた。
ここ数年はノートを買う頻度が上がった。
と言うのも、ほぼ毎日書いているし、書く量も増えたからだ。
「宝物かぁ⋯⋯」
インターネットの通販サイトを覗くと色々なノートがあって、本当に迷ってしまう。
けれど、不思議と初めて祖父に貰ったノートと似たようなものばかりに目がいってしまう。
普段は使うことの無い、少し立派な、勉強で使うのとは違う感じが良いのかも知れない。
「よし、これにしよう」
栞付きで、少しファンタジーチックな感じの、魔導書風とか書いてあるノート。
次のノートが届くのを心待ちにして、今日の日記に1行付け足す。
『次のノートをポチッた。早く届きますように』
ノートを閉じて、机の抽斗に仕舞う。
書き終えたノートは50冊を超え、段ボールに詰められて納戸で眠っている。
部屋を出て、リビングに向かうとそこでは旦那様が1人寂しく晩酌をしていた。
「お帰り。声かけてくれれば良かったのに」
「ただいま。仕事の邪魔しちゃ悪いかと思って」
「気を使ってくれてありがとう。私も貰って⋯⋯あ、やっぱいいや」
「ん?そう?」
「うん、お茶にしとく」
旦那が飲んでいるのは梅酒の炭酸割り。
さっぱりしてこの時期に飲むのには丁度良いのだけれど。
キッチンでグラスに氷を入れて、ペットボトルのお茶を注ぐ。
澄んだ高い音を立てながら、グラスの中で氷が崩れる。
「つまむもの、何か作ろうか?」
「いや、大丈夫。コレがある」
そう言って、旦那が見せたのはパックに詰められたチーズやジャーキー、ナッツなど。
「後輩がくれてさ。そいつ今燻製にハマってるらしくて」
「えっ、自分で作ったって事?」
「あぁ、桜チップとか言ってた。これがまぁ、美味いんだわ。食べてみな」
「⋯⋯⋯⋯わぁ、売ってるのよりも美味しいよ、これ」
「だろう?燻製やってみたくなっちゃうよな」
「うんうん。ちょっと調べてみようかな。あ、そうだ」
「うん?」
「今日、病院に行ってきたの」
「えっ?」
旦那様の動きがピタリと止まった。
心做しか、顔色も悪くなったような?
「あ、どこか悪いとかそう言うのじゃないよ。心配しないで」
「え、じゃぁなんで⋯⋯⋯⋯えっ?えっ?」
「もう少しで3ヶ月だって」
「えっ?えぇっ!」
大変、日記にまた付け足さないとダメだね。
『妊娠の報告をしたら旦那様は「えっ」しか話せなくなりました』って。
私の日記帳には、色々な事が書かれている。
今日はすごく嬉しかった事と、面白かった事、そして美味しかった事も追加しておこう。
いつか読み返した時に、今日の出来事を昨日の事のように思い出すことができるように。
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(´-ι_-`) ワタシハ三日坊主派デス
【お題:向かい合わせ 20240825】
よくある『恋のお呪い』と言うやつで、満月の晩の午前零時丁度、合わせ鏡に映った蝋燭の火を同時に吹き消すと魔女の使い魔が現れる。
現れた使い魔にジンジャークッキーを3枚与えると、好きな人との未来を教えてくれると言う、そんな出処の不確かな話。
けれど、『呪い(まじない)』と言われるものは良くも悪くも人の口に上り、それが恋愛に絡むもので思春期の女子の耳に入れば試してみたくなるのも当然の流れ。
クラスの女子の半数近くが試している現状で、やらないでいるのは良い選択とは言えない。
そして実はちょっと興味もある。
恋とかお呪いとか、そういうのでは無く、『魔女の使い魔』こちらの方に。
学校の友達に言えていないが、小学校高学年の頃からハマっているものがある。
かれこれ5年以上になるのだが、俗に言う、異世界モノという漫画にどっぷりとハマってるのだ。
これは両親の影響が大きく、家の部屋ふたつまるまる漫画本が並んでいるどころか、廊下にも本棚があり、最近では客間にも本棚が設置されたほど、父親も母親も漫画や小説などが大好きなのだ。
最近の風潮に合わせデジタル化すれば家が本に占拠されることは無いのだが、そこは両親のこだわりで紙媒体が良いらしい。
ただ紙媒体で手に入らないものなどは、電子化されたものを買うこともある。
そんな漫画喫茶のような環境にいれば漫画を読むのは自然なことで、アイドルを好きになるのと同じように特定のキャラクターに思い入れることもあった。
でもそれも中学生位までの話で、高校に入ってからは周囲に合わせアイドルや俳優、アーティストなど一般と言われる程度の知識は身につけ、仲間はずれにされない為の努力に時間を費やしていた。
けれども漫画ほどに興味を唆られる人物を見つけることは難しく、周りに置いていかれないよう、外れることがないようにするだけの行為は少しずつ、心に疲労を蓄積させていた。
そんな所に囁かれ始めた『恋のお呪い』。
そこに『魔女の使い魔』というキーワードが含まれていたのだから、興味を持たないでいることが出来るはずはなく、この三ヶ月間ネット等でも情報を収集して準備してきた。
調べてみると噂で流れているものには幾つかパターンがある。
恐らく人から人へ伝わるうちに変わってしまったのだろうと推察できる。
ということは、逆を辿ればホンモノになるのではと考えてしまった。
そこで調べ考え、分からない所は直感で導き出した答えが、今、目の前にある。
「えーと、3面鏡をふたつ、ロウソクを6本、月の水で浄化した水晶の欠片を5個、それと魔法陣の描かれた紙とジンジャークッキーにシナモン抜きのアップルパイ⋯⋯と」
魔法陣と言うか、良くある図形の組み合わせが描かれた少し大きめの紙。
描かれているのは、二重の円に接するように六角形、更にその内側に接するようにもう一度六角形、というように全部で六角形が4つ描かれ、いちばん小さい六角形の内側に五芒星という形。
その紙を窓辺の床に広げ、外側の六角形の辺に沿うように三面鏡をふたつ、向かい合わせに置く。
次に100円ショップで購入した小さな陶器の器に、厚めの両面テープを貼ってロウソクを立てる。
魔法陣に直接立てる事も考えたが、ここは部屋の中、ロウソクが倒れて火事にでもなったら大変、家は燃えやすい本がいっぱいなので、安全策をとることにした。
強力な両面テープを使う事で、ロウソクが倒れる心配もないだろう。
ロウソクを立てた器を一番小さい六角形の頂点部分に置き、五芒星の頂点に水晶を配置する。
「で、クッキーを真ん中に置いて、完成〜♪」
なかなか儀式っぽい感じに出来上がった。
カーテンは全開、窓も全開、月は綺麗な満月。
時間は午後11時55分、予定時刻まで後ちょっと。
大切なのはここから。
午前零時丁度に、蝋燭の火を6本同時に吹き消さなければならない。
チャンスは一度、これに失敗したら次の満月まで待たなければならない。
スマホを取り出して、『117』に接続、スピーカーに切り替えると音声は11時57分を告げた。
6本の蝋燭に火を灯し、その瞬間を待つ。
このために、蝋燭6本を同時に消す練習を何度もしてきた。
「ふぅ、⋯⋯緊張する⋯⋯」
頭の片隅では、ただの噂だし、本気で使い魔が来るはずないし、とか考えているけれど、何事もやってみなくては分からない。
それに、このドキドキ感が堪らなく楽しいと思ってしまうのは何故なのか。
時報の音声が11時59分30秒を告げると同時に深呼吸をひとつ。
『ピ、ピ、ピ、ポーン。ピ、ピ⋯⋯』
蝋燭の灯りが消えた室内には、青白い月明かりが差し込んでいる。
床に敷かれた紙の上、綺麗に並べられた鏡と蝋燭、そして水晶の欠片、それから⋯⋯⋯⋯。
「昨日の夜、何してたの?」
「うん?」
「何か話し声が聞こえてたけど、友達と電話でもしてたの?」
わかめと豆腐、それから長ネギが入ったお味噌汁をコクリと飲み込む。
出汁の香りが鼻をぬけて、味に深みを感じさせる。
「あー、うん。ちょっと数学で分からない所があったから、教えて貰ってた。煩かった?」
「そんな事はないけど、珍しいと思って」
「ん、そう?」
「まぁ、勉強も程々にね」
「はーい。ご馳走様でした」
いつもよりも少し早い鼓動を誤魔化すように、努めて明るく返事を返して、洗面所へと向かう。
自分の歯ブラシに歯磨き粉をつけて、口に加える。
昨夜のことを思い出すと、キュッと眉間にシワが寄るのがわかる。
ほんのちょっとした興味本位、色々と調べて考察して組み立てたものを検証したい、とか思ったのはそういう性格だから。
「⋯⋯⋯⋯」
上を向いたり、下を向いたり、首を右に曲げて、左に曲げて、また上を向いたり下を向いたり。
その間、歯ブラシはビィィィと小さな音を立てて、細かい振動を繰り返している。
暫くして口の中のものを吐き出し、軽く水でゆすいで口元の水分をタオルで拭き取る。
「はぁぁ、どうしよう」
廊下に顔を出し、階段の上を覗き込む。
無論そこから見たいものが見える訳では無いのだが、何となく見てしまうのは気がかりだから。
ヘアーアイロンで前髪を真っ直ぐに伸ばしながら、ため息をもうひとつ。
こうなったら、腹を括るしかない。
うじうじ考えていてもどうしようもない、世の中なるようになるものだ。
前髪をバッチリと決めて、2階の自分の部屋を目指す。
深呼吸をひとつして、勢いよくドアを開ける。
「にゃーん」
ベッドの上で寛いでいた黒猫は、部屋の主を視界に収めると可愛らしく一声鳴いた。
「お、おはよう」
金と緑の瞳にじっと見つめられ、ヒュっと短く息を吸い込む。
「わ、私これから学校なんだ。行ってくるから大人しくしててね?」
「にゃっ」
わかったとでも言うように、猫は短く鳴き声をあげた。
鞄を持って、スマホも持って、忘れ物がないのを確認しもう一度ベッドに視線をやると、黒猫はくるりと丸くなって既に寝入っている。
そっと部屋から出て、ドアを閉めて、階段を降りてキッチンに入ってお弁当を持って玄関へ。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
母親の見送りの声を背中に貰って、玄関のドアを開ける。
今日もいい天気だ。
「皆に何て言おう⋯⋯」
何も起きなかった、そう言うのが一番波風立たないだろう。
それに、確証がある訳では無いのだし。
昨夜、蝋燭が消えた直後、部屋の中に黒猫がいた。
事実はこれ。
問題はこの黒猫がどこから来たのか、なのだが、儀式のために窓を全開にしていたので普通に黒猫が部屋に迷いこんできたとも言えるわけで。
「リボンしてたしなぁ」
首には青いリボンが結ばれていたし、怖がることなく擦り寄ってきた。
「でもジンジャークッキーなくなってたし⋯⋯うーん」
取り敢えず、窓を少し開けてきたので、何処かの家の飼い猫だったら自分から出ていくだろう。
それに部屋には食べ物も飲み物もないから、お腹が空けばきっと出ていくはず。
「うん、うん、帰ったら居なくなってる確率高いよね。まだ居たらその時考えよう」
問題の先延ばしでしかないけれど、今はそれでいい事にしよう。
学生の本分は勉強だ、今は勉強に集中しないといけない。
駅に向かって走りながら、『そういえばアップルパイどうしたっけ?』と昨夜と今朝の記憶を探るが一向に思い出せず、少しだけモヤモヤした気分になったが、それも友達に会うまでの間だけだった。
「にゃ」
ペロリと舌で前足を舐め、くしくしと顔を洗ってソファの上で寛ぐ黒猫は、あの少女が帰ってきて己の姿を見つけた時にどんな顔をするのか想像して、少し楽しげに短く鳴いた。
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(´-ι_-`) 短く纏めるって難しい( ˘•ω•˘ )
【お題:やるせない気持ち 20240824】
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(´-ι_-`) 時間取れないので後日up
【お題:海へ 20240823】
「で、次の日曜なんだけど両親が⋯⋯、和音さん、おーい和音さん、聞こえてる?」
「⋯⋯⋯⋯ちょっと待って、今降りてきた」
「りょーかい」
パソコンの前に座り、キーボードを高速で打ち出した彼女から視線を外し、僕はゆっくりとソファから立ち上がった。
こうなった彼女は、キリのいい所まで周りの事に無頓着になる。
さて、今回はどれくらいの時間帰ってこないだろうか。
僕の出張や和音さんの締切と重なって、ひと月ぶりに会えたんだけどな。
仕方がない、掃除に洗濯、それから夕食の準備でもしますか。
和音さんとの出会いは、普通じゃなかった。
その日僕は、高校からの親友の結婚式に出席した帰りで、車を2時間運転し家の近くまで戻ってきた所だった。
家に帰る前に、コンビニで酒とつまみでも買おうかと駐車して店に入った。
缶ビールにローストナッツとレンジで温める砂肝を買い車に戻ると、そこにはあまり見ることの無い景色が広がっていた。
「えっ?」
僕の車のボンネットを机代わりにして、何やらノートに書き込んでいる女性がいる。
通りすがりの人達がジロジロと無遠慮にその人物を見ては、足早に去っていく。
うん、その気持ちは僕にもわかる。
出来れば関わりになりたくない感じ。
少し肌寒くなってきたこの季節に、露出度の高い真っ赤なパーティードレスという出で立ち。
書き込んでいるノートもペンも恐らくは、そこのコンビニで買ったものだと思われる。
「あのぅ」
恐る恐る声を掛けてみるが、反応はなく只管にペンを動かしている。
その後も何度か声をかけたり肩を叩いたりしたのだけれど、一向にこちらに意識を向けることなく一心不乱にノートに書き込んでいる。
僕は諦めて車の中で待つことにした。
運転席に座って女性を正面から見る。
真剣な表情でノートに書き込む姿は鬼気迫るものがあった。
その様子をしばらく眺めて、はたと気がついた。
女性がノーブラであることに。
流石にこのまま見ている訳にはいかないと、視線をずらした所で女性の後ろに酔っ払いが二人ニヤニヤしながら立っていることに気付いた。
僕は慌てて車から降りて、上着を彼女にかけるのと同時に、酔っ払いに睨みをきかせた。
こんな時は194cmという、無駄に大きい体が役に立つ。
酔っ払いがそそくさと居なくなるのを見送って、女性の方を見ると変わらずにノートと向き合っている。
時間にして30分ほどだったろうか、僕は女性のボディガードのように彼女の後ろに立っていた。
「とりあえず、これでいいか⋯⋯」
後ろからそんな呟きが聞こえ、振り返るとそこにはボンネットに突っ伏している女性の姿が。
慌てて声を掛けてみても反応はなく、代わりに規則正しい寝息が聞こえてきた。
しかも⋯⋯。
「うわっ、酒臭っ」
さっきまで気が付かなかったが、なかなかに酔っているようで、その後肩を揺すってみたり、頬を軽く叩いてみたりしたけれど一向に起きる気配はない。
どうしようかと考えているとコンビニの店員が出てきて、長時間の駐車は迷惑なのでどいてくれとか言われ、とりあえず、女性を後部座席に押し込んでノートとペンと小さなバッグを助手席に積んで車を走らせた。
「さて、どうしようか⋯⋯」
自宅マンションの駐車場に車を止め、ルームミラー越しに女性を見る。
幸せそうな寝顔に若干の腹立たしさを感じるも、その整った顔立ちに目を奪われる。
「あ、そうだ」
バッグの中に何かないかと探ってみるが入っていたのは、スマホと家の鍵と化粧品だけで身分証明になるようなものは何もなかった。
最近では様々な場所で電子マネーが使えるため、財布を持ち歩かないとは聞くがこういう時不便だなと思う。
色々なデータがスマホに保存されているのだろうが、それも本人の了承がなければ見ることもできない。
このまま放っておく訳にはいかないし、かと言って警察に行くのも面倒で、とりあえずは部屋に連れて行くことにした。
客室のベッドに女性を寝かせて布団を掛け、一息ついて、シャワーを浴びて自分もベッドに入った。
その日は特に夢は見なかった。
「ほんっ当に、申し訳ありませんでした」
翌朝、リビングの床に正座した女性は土下座の勢いで、額を床にぶつけた。
彼女は作家で昨日は作家仲間とのパーティーの帰りだったらしい。
自覚はなかったが随分と酔っていたらしく、あまり記憶がないとの事。
ただ、ことの成り行きを僕が説明すると、彼女は再度額を床にこすり付け謝り続けた。
聞けばどうも彼女は、創作活動時は周りが見えなくなるタイプで、自分の世界に入り込んでしまうのだとか。
それも突然世界に入り込んでしまうことが多く、その所為で今までも色々と失敗しているのだと嘆いていた。
そんなこんなで、とりあえずその日は車で家まで送って、後日お礼をさせて欲しいとの事で、連絡先を交換した。
あれから2年と5ヶ月。
家も近かった事もあり、何だかんだと食事に行ったり飲みに行ったりするようになって、気が付くと二人でいる事が多くなっていた。
僕は初めの頃から彼女が気になっていて、それが愛に変わるのはあっという間だった。
勇気をだして、想いを伝えてダメだったらこの関係も終わりかな、とか考えていたのに彼女は『えっ?あれ?付き合ってたんじゃないの、私達』とか、言う始末。
一気に力が抜けて、情けなくもその場で泣いてしまった。
2ヶ月前にプロポーズをして、和音さんからOKの返事を貰った。
『姐さん女房かぁ』とか、呟いていたけど、僕はそんなの気にしてない。
それに年上と言っても5年分だけだから、平均寿命で考えたら丁度いいくらいだ。
「よし、掃除終わり。あとは夕食⋯⋯」
ビール以外入っていない、空っぽの冷蔵庫の扉を閉めて車のキーを手に取った。
和音さんの仕事部屋のドア枠をノックして中の様子を伺う。
相変わらず、すごい集中力とタイピングの速さだ。
「和音さん、買い物行ってくるね」
当然の如く返事はなく、聞こえるのはキーボードを打つ音だけ。
僕は伝言用のホワイトボードに『買い物に行ってきます』とメッセージを書いて部屋を出る。
今日も和音さんは想像の海へダイブしている。
この世界の柵を捨ててどこよりも自由な世界へと。
僕は戻ってきた彼女に、とびきり美味しい夕食をご馳走するため、ひとり車を走らせた。
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(´-ι_-`) 『海へ』で一番最初に浮かんだのは『みおくる夏』でした⋯⋯。
【お題:裏返し 20240822】
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(´-ι_-`) 間に合わん⋯。書いたらup