【お題:誇らしさ 20240816】
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(´-ι_-`)
難しい( ˘•ω•˘ )
誇らしげなら何とかなるか…?
取り敢えず、書けたらup
【お題:夜の海 20240815】
「つちのうち?」
「ううん、つ、き、の、み、ち」
「つきのみち?」
「そう、月の道」
これを私に教えてくれたのは母方の祖父だ。
海軍兵として軍艦に乗っていた祖父が、戦時中の事で唯一話してくれたのが、この『月の道』だった。
普段は無口で、子や孫たちが集まる場でも滅多に笑うことは無かった人。
ただ一度だけ、昼寝をし過ぎて、お祭りに置いていかれた私が泣きじゃくってどうしようも無かった時に、家の縁側で二人並んで座って、祖父が隠し持っていたチョコレートをこっそり食べながら聞いたのだ。
太平洋の真ん中に、ぽつんと浮いている船。
聞こえるのは船体を叩く波の音くらいのもので、下手すればこの世界に自分一人なのではないかと錯覚する程の静けさ。
艦には200を超える人間がいるはずなのに、その息遣いひとつすら感じられない。
夜の海は恐ろしいほどに静謐で、そして美しい。
日が沈み、空に地上で見るのとは桁違いの星が瞬き、夜番を除いた者たちが寝静まった頃、それは静かに顔を出した。
太陽ではない、けれど夜の海の上では眩しいほどの輝きを放ちながら、水平線の向こうから昇ってくる満ちた月。
その光は海面を照らし、真っ直ぐに音もなく月の道を築く。
あの道を辿れば月へ行けるのだろうか。
日々、死と隣り合わせの戦場、とはいえ、毎日敵兵とドンパチしている訳では無い。
ただ、明日も生きている保証はどこにもない。
『無事、彼女の元へ帰るぞ』
親の決めた相手、燃えるような恋も情熱もなく夫婦となった。
それでも互いを尊重し、支え合って生きていくと誓った。
だから、こんな所では死ねない。
必ず、生きて帰る、そう、誓った。
「おばあちゃん?」
「ゴメンゴメン。あぁ、ほら、もう少しで見えてくるよ」
波の静かな晴れた夜。
水平線の向こうから、太陽とは違う光が昇ってくる。
少しずつ少しずつ、その姿を現しながら己に続く道を延ばしながらゆっくりと、ゆっくりと。
「わぁ、凄い。本当に道ができてる」
「そうだね、綺麗だね」
「うん、凄い綺麗」
あの時とは違って、今はチョコミントのアイスを頬張りつつ、あの時の私よりもお姉さんな孫娘と一緒に見る月の道。
「元気に生まれるといいな、赤ちゃん」
「そうだね、元気で生まれてくるといいね」
あの戦争で、大怪我をしたにも関わらず祖父は祖母の元へと帰ってきた。
戦後の混乱した世の中で、田舎に戻りこの場所に家を建てた。
太平洋を望む丘の上、街外れで若干不便な場所だけれど、この景色が見られる、ただそれだけで十分な価値がある。
祖父母亡き後、この家と土地をどうするか親族で話し合った際、私が譲り受けることにした。
お腹にいた、この子の父親と共に。
家の大部分はリフォームによって以前の面影はほとんど見られないけれど、この縁側だけは残した。
いつか、ここから月の道を誰かが見ることはなくなるのかもしれない。
それでも、私が生きているうちはこの縁側は残しておこうと思っている。
「あ、パパからだ!」
素早くスマホを操作して、キラキラと目を輝かせて電話に出る孫娘を見る。
飛んで跳ねて喜んでいるところを見ると、無事生まれたのだろう。
孫が差し出したスマホを受け取り、相手の声を聞く。
「生まれたよ、男の子。凄く元気だ」
「そう、良かった。暫くはそっちにいるの?」
「あぁ、でも今週末には一度そっちに行くから」
「わかったわ、気をつけてね。それから、香織さんに伝えてちょうだい、『お疲れ様』って」
「うん、じゃぁね、母さん」
祖父が懸命に繋げた命のリレー。
祖父から母へ、母から私に、私から息子に、そして息子から孫娘と孫息子に。
いつまで続くかは分からない。
けれど、繋いでいくことが祖父や祖母、それ以前の『御先祖』と呼ばれる方々への恩返し。
「おばあちゃんは、何がいいと思う?」
「うん?」
「赤ちゃんの名前だよ。良いのがあったら教えてってパパが言ってたの」
「あら、そうなのね。そうねぇ、何が良いかなぁ」
「あのね、今日は海とお月様が綺麗だったから、海、月って書いて、みつきくん。可愛いでしょう?」
「あ、え、うん、そうね、可愛いね」
「うん、海月くんに決めた!パパに送ろうっと!」
スマホを操作し始めた孫娘に目を細めながら、短くなった月の道を見る。
明日は雨だと言うから、また暫く月の道は見られなくなる。
「流石に気付くわよね、あの子⋯⋯」
後日、『弥月(みつき)』と名付けられた孫息子に、ほっとした私とは反対に孫娘は不満そうだったけれど、これもまたいつか良い思い出になるのだろう。
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(´-ι_-`) 月の道、見てみたいなぁ
【お題:自転車に乗って 20240814】
頬を撫ぜる風が気持ちいい。
カラリと晴れあがった空は、夏の茹だる様な暑さも、じめっとしたまとわりつく様な空気もどこかへ押しやって、半袖で居るのが心地よい、そんな季節を連れてきた。
天辺を幾分か過ぎた太陽が、静かに上下する海面に乱反射する。
キラキラとした光が、顳かみから流れる汗に反射し一瞬、時間が止まったように感じた。
「ねぇ、普通、逆、じゃない?」
「ん〜?」
「私が後ろ、あんたが、前で、自転車、漕ぐのが、普通、じゃない、のっ!」
立ち漕ぎで、一回一回体重を乗せながら漕いでいる少女の後ろで、少年は雑誌を広げて読んでいる。
道は緩い上り坂、右手にどこまでも続く青い海、左手に各々こだわって建てられた家々と、それを取り囲む石垣が並ぶ。
行き先は小高い岬を回った先にあるオシャレなカフェ、来た道の先には二人が通う高校がある。
自転車で10分程の距離、坂道なので若干時間はかかるけれど信号も車通りも少なく、快適な道。
「公平にジャンケンで決めたろ」
「公平、って、コレ、あん、たの、自転車、じゃ、ない」
「だから、お前が自転車で行きたいって言うから、ジャンケンにしたんだし」
「そう、じゃ、なく、て⋯⋯、もう、いいっ」
少女はチョット憧れていた。
好きな人が漕ぐ自転車に乗って、二人で海岸線をデートするのを。
何故なら少し年の離れた姉が、今は旦那さんとなった人と時折そんなデートをしているのを見ていたから。
子供ながらに二人とも楽しそうに、幸せそうに笑っていたから、羨ましくて。
姉とは違い、男勝りな自分が少女漫画や映画やドラマのようなシチュエーションのデートなど土台無理な話なのだ。
今だって、こいつと付き合っているのは夢じゃないかと思ってる程だ。
姉の旦那さんの母親違いの弟で、高校でも、上級生、同級生、下級生と全方位からモテている男。
高校入学当初から、数え切れないほどの告白をされている男。
見た目だけではなく、性格も頭も良く、非の打ち所がない、と言うのが周りの評価だけど、少女は性格は微妙なところだと思っている。
現に今、それを実感しているところだ。
「アトチョットダ、ガンバレー」
「ちょっ、棒、読み!」
姉に旦那さんの家族を紹介された時が初対面で、あの時はお互い13歳。
同い年なんだから、という、訳の分からない理由で一緒に行動させられ、気がつけば少女の部屋で寛ぐ姿が普通になった。
いつも漫画ばかり読んでいるのに成績は良いらしく、受験の時などは家庭教師のような事もしてもらった。
もっと良い高校にも通えたのに、少女と同じ高校にしたのは、海が近いからという本当かどうか分からない理由。
今は義兄と姉が営むカフェで少年は暮らしている。
両親の元で暮らさないのは、あちらに小さな兄弟がいるから、とか何とか。
高校に入って、少年が告白ラッシュに疲れていた頃、少女は冗談で言ってみた。
『私と付き合ってる事にしたら?』
彼女がいると分かれば、少しは告白する人も減るのでは、という考えから発した言葉。
ほんのちょっとだけ、自分の本当の気持ちも混ぜていたけれど。
少年は暫し考え込んで、首を振った。
ツキリと痛んだ胸に手を当てて、悟られないように笑おうとした瞬間、少年は言った。
『それなら 本気で付き合う方がいい、嘘はいずれバレるから』
その言葉にキョトンとしていると、返事を促された。
『よろしく、お願いします?』
『こちらこそ』
つまりは、普通に付き合うという事で、恋人同士になったという事で。
でもあれから一年、進展はなし。
いつも通り、少年は少女の部屋でマンガを読むかゲームをするかで、いい時間になれば家に帰る。
時折、勉強を教えて貰ったり、家の夕食を食べて行ったりもするけれど、ソレだけ。
あぁ、告白する人は若干減ったらしいけど。
一度、意味がなかったかと少女が聞いたら、彼女がいるから、の一言で断れるから意味はある、とか言っていた。
「つ、着いたぁ」
「お疲れ」
頭をぽんぽんと叩かれ、自転車のハンドルを引き取られる。
そのまま店の裏手に回るのかと、後ろ姿を見送っていたら、少年がいきなり振り返った。
「⋯⋯何?忘れ物?」
「お前⋯⋯、後ろに乗りたいならシャツか何か腰に巻け」
「えっ?何で?」
「⋯⋯⋯⋯見えるから」
「見える?何が?」
「⋯⋯くま」
「⋯⋯⋯⋯!!!」
バッとスカートの後ろを隠す。
今更、遅すぎではあるが。
そう言えば、記憶の中の姉も腰にカーディガンを巻いていた気がする。
ん?でも。
「ちょっと待って、ジャンケンは?」
ジャンケンで少女が勝っていれば、後ろに乗れていたはずだが。
「内緒」
手をヒラヒラと振って少年は店の裏側に回っていく。
少女は自分の右手を見て、グーパー、グーパーを繰り返している。
そんな少女は気付いていない。
ジャンケンの時いつも一番初めにチョキを出す癖があることを。
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(´-ι_-`) 二人乗りは違反デス。
【お題:心の健康 20240813】
「えー、佐々木くんですが、二週間ほどお休みとなります。彼の担当分は後ほど振り分けますので、各自確認、対応をお願いします。では、本日もよろしくお願いします」
朝のミーティングで、誰かの意味深な休みを聞くのは今年度に入って五人目。
四月にひとり、五月末にひとり、六月に二人で、今日ひとり。
二週間がひと月になって、ひと月がふた月になって、半年になって、戻ってきたのは一人だけ。
でも、その彼もだいぶ辛そう。
時折壁に向かってブツブツ呟いてるし、目に光がない。
今でも、残業しまくってどうにか仕事を捌いているのに、更に追加とか無理だ。
先月二人応援が来たけど 、その応援者が休んだのだから目も当てられない。
とりあえず、目の前の仕事を片付けることに集中しないと、だ。
手と頭を動かさなければ、仕事は進まない。
事の始まりは一昨年の年末。
『会社の若返りを図る』とか最もらしい理由を掲げて、それまで会社を支えてきた所謂『ロスジェネ世代』に早期退職を求めた。
予定人数の倍近い人達が、会社に⋯⋯、いや、経営陣に見切りをつけて退職して行った。
噂では再就職も厳しい状況だと聞いたけど、幾人かはこれを機に起業したとも聞く。
問題は残された方で、仕事量は変わらない、むしろ増えているにも関わらず人手は減った。
上は最適化だの自動化だので対応しろと言うけれど、その検討をする時間すら取れない状況では対応できるはずもなく、日々ゾンビ化する社員が増えるだけ。
「⋯⋯はぁ」
送られてきた資料に目を通し、ため息を一つ。
佐々木くんの仕事の半分が降ってきた。
そりゃまぁ、彼に渡した仕事がそのまま返ってきただけですが、その前に追加された仕事はそのままでとか、無茶苦茶すぎる。
「井上さん、俺もう、無理です」
「加藤くん、頑張れとは言わない。優先順位を見直そう。優先順位の低いやつは、捨てよう」
「全部優先順位MAXですよ⋯⋯もう、捨てられるものがありません」
わかる、わかるよ、加藤くん。
けれど君の視野は狭くなっている。
「加藤くん、私達がいちばん優先すべきはなんだと思う?」
「今は⋯A社の案件ですか?」
「違うよ」
「えっ、じゃあ納期が近いH社の方ですか?」
「それでもない」
「えぇ、そうなると⋯⋯」
私は加藤くんの肩に手を載せる。
「一番に優先すべきなのは、心の健康よ」
「心の健康⋯⋯、ソレ、美味しいんですか?」
「さぁ?」
「井上さーん」
「ゴメンゴメン。A社の残りはどれくらい?」
「残り10%ってとこです。今日一日あればどうにか終われそうです」
「OK。じゃあ加藤くんは今日はA社の対応をお願い。残りは私に回して」
「えっ、でも」
「大丈夫。私、心は健康なのよ。加藤くんはA社の対応が終わったら、今日は帰っていいからね」
「あ、ありがとうございます」
画面に向き直り、手と頭を動かす。
日々目まぐるしく変わる世界の中で、私の心の健康を支えてくれているのは小さな生き物。
夜行性の彼らは、仕事が終わって家に帰った私をものすごい勢いで歓迎して出迎えてくれる。
決して夜中にあげるおやつが目当てでは無い⋯⋯はず。
猫や犬を飼うことも考えたけれど、犬は散歩が難しいし、猫は飼う直前でアレルギーであることが判明した。
落ち込む私に対して、ショップの店員さんがオススメしてくれたのが、小さくて大きなクリクリの目が可愛い、フクロモモンガ。
初めは二匹だったのが今では八匹にまで増えている。
でも、全然負担ではなくて、寧ろ癒されまくっている。
おかげで私の心は健康そのもの。
体はあちこちガタが来ているけれど。
そりゃまぁ人生半分も来れば、ガタつきもするので、コチラは何とか騙し騙しやっている。
「井上、K社の直しは」
「昨日終了して、今チェックに出してます。今日の午後には戻るのでエラーがあれば今日中に対応します」
「Y社は?」
「チェック終了で今まとめてます。十五分ください。後S社、W社、R社分も承認回します」
「お、おう。よろしく頼む」
仕事が楽しいかと言われると、昔ほどの楽しさはない。
あの頃は出来ないことを出来るようにするために、日々意見やアイデアを出し合って、皆で一つの仕事をやり遂げ、そこに達成感を見出していた。
今はと言うと、新しいことに挑戦するでもなく、ただただ与えられる仕事をこなす日々。
多少の改善や手順の変更はあれど、目新しいものはなく同じことの繰り返しのみ。
それは安全で安定していて良いことなのかもしれないけれど、少ない刺激ではやりがいが感じられず。
「はぁ、井上さん凄いっすね」
「う〜ん?単に経験値の違いよ。さぁ、やれることから終わらせようか」
「はい!」
「うん、いい返事」
心の健康を保てるかどうかは、人それぞれなのかもしれない。
取り敢えず今夜も私は、フクロモモンガ達に癒してもらいます。
それが、健康を保つ秘訣です。
体の方は⋯⋯うん、どうにかなってると思う⋯な。
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(´-ι_-`) 体と同じように心の健康診断も義務化すれば良いのにな⋯と思う。
【お題:君の奏でる音楽 20240812】
トクン、トクン、トクン
規則正しい鼓動
すぅ、すぅ、すぅ
静かな部屋に響く寝息
ふぴーっ、ふぴーっ、ふぴーっ
寝息とともに奏でられる高い鼻息
トクントクンすぅふぴーっ
トクンふぴーっすぅトクン
すぅふぴーっトクントクン
君の奏でる音楽が
僕を幸せにしてくれる
トクン、トクン、トクン
すぅ、すぅ、すぅ
ふぴーっ、ふぴーっ、ふぴーっ
君の奏でる音楽が
僕を誰よりも癒してくれる
「ねぇ、鼻の詰まり取ってあげてって言ったよね?」
「え、だって起こしたら可哀想じゃん。こんなに気持ちよさそうに寝てるのに」
「それはわかるけど」
「でしょう?もう、天使みたいに可愛い」
「はいはい、わかりましたわかりました」
「僕たちの娘は世界一可愛いんだ。絶対、嫁にはやらない」
「一生独身でいて欲しいの?」
「そ、そういう訳じゃ⋯⋯」
「孫も目に入れても痛くないくらいに可愛いって言うよ?」
「くっ⋯⋯」
「私は、この子が幸せになれるなら、応援するけどなぁ」
「い⋯⋯」
「い?」
「いじわる⋯⋯」
「ぷっ、ふふふっ、はははっ」
「な、何笑ってるんだよ!」
「あ、起きちゃった」
「えっ?」
ふあぁぁん、ふあぁぁん
「あー、ごめんごめん、大きな声出してゴメンね」
「娘ちゃんには優しいねぇ」
「えっ?」
「オムツだよ。あー、おしり拭き寝室だわ。取ってくるね」
「あ、ありがとう」
トントントントン
ぐつぐつぐつぐつ
カチャカチャカチャ
ジュージュージュージュー
いつも僕たちの食事を準備してくれる君
ぱたぱたぱた
コツコツコツ
きゅっきゅっきゅつ
ジャージャージャー
いつも僕たちの身の周りの世話をしてくれる君
君の奏でる音楽も僕を幸せにしてくれる
「ふぴーっ」
「ねえ、綿棒って何処だっけ?」
「テレビの横の棚、上から二段目にあるよ」
「ありがとう!⋯⋯もう1つ」
「なにー?」
「愛してるよー!」
「⋯⋯私もーっ!」
娘も君も、僕の大切な家族だよ。
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(´-ι_-`) 短めに。