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8/19/2024, 2:14:37 PM

雷がゴロゴロ、雨がぴしゃぴしゃ降っていた日に私は生まれてきたそうだ。
だからその日のことにちなんで私は風雲と名付けられた。私は他の同じ歳の子に比べて発育が遅かったので喋るようになったのは3歳、歩けるようになったのは4歳になってからだった。
ぬぼーといつも日向ぼっこするのがお気に入りでよく周りから突然いなくなって日向ぼっこしたりしているので渾名は「亀」だった。 
中学生3年生になっても変わらずかろうじて偏差値60程のごく普通の高校へ通うことになった。
そして高校生も変わらぬ生活をし、またしてもギリギリで今度は偏差値58程のそこそこの大学へ行くことができた。
大学生3年生になると私こと風雲は相も変わらず日向ぼっこが大好きな「亀」だったが、周りはみんな就活やら資格取得やらなんやらでバタバタしていた。
自分もそれを見て少しはやらないとなと思ったが3日で辞めてしまった。
このままでは、ただの無職ニートになってしまう。
ちょっとした危機感に心を削られながら道中をのんびりと歩いていた。
昔からよく来ていた道だったので店の一つ一つを見るたびにその日の記憶が蘇ってくる。
しかしその中の一つだけ全く思い出せなかった店があった。
「雑貨屋晴れ空」
そう錆びついた看板が上に貼り付けてありいかにも怪しげな雰囲気を漂わせていた。
いつもならそそくさ退散するのだが今日は気まぐれで行こうと思った。
意を決してチリーンと鈴を鳴らしながらドアを開けると外の雰囲気とは打って変わってまるで太陽の下のような明るい柔らかな照明の下で、色とりどりの雑貨がずらりと並んでいた。
奥には、モナリザを想起させるような柔らかな笑みを浮かべた店主らしき年配の女性が座っていた。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは、あの聞きたいことがあるんですけど」
そういうと店主は笑みを浮かべたまま
「なんでしょう?」と聞いてきた。
「ここで働かせてもらえませんか」
この店に入った時から私はこの店に魅せられていた。
ここなら自分も自分らしく居心地良く働くことができると思ったのだ。
店主は最初は「うちの給金安いよ。」とか「お客さん来ないしつまらないよ。」とか諭してきたのだが、私が何を言っても去る気はないとわかるともう何も言わなくなった。
こうして私はここ雑貨屋晴れ空で働くようになった。
鈴の音が珍しく聞こえる。私は笑顔で店主と一緒に
「いらっしゃいませ」と出迎えた。
お題空模様
ここまで読んでいただきありがとうございます。
更新遅れてすみません。

8/11/2024, 12:50:48 AM

ガタンゴトンと音を立てながら電車が、決められた路線を走っている。
周りを見ると少し古びていて明治時代の蒸気機関車のようだった。
ただ違うのは、電車の窓の景色を眺めると、本のページや映写機など様々な記録媒体が宙を浮いている事だ。かなり不気味で何故、こんなところが世界の中にあるのか分からなかったし、こんなヘンテコな電車に何故、乗ったのかも分からなかった。
しばらく、ガランとした車内を見つめていると、車掌室に繋がるドアが開いた。
ドアから出てきたのは、車掌らしき人だった。
手には、切符回収のための道具を持っていて、ゆっくりと私に近づいてきた。
私は鞄の中から切符を取り出そうとして気づいた。
そういえば私が切符を買った記憶は無かった。
とりあえず車掌に謝ろうと口を開くと突然、
「はい、2人分」と誰かが私の隣で車掌に切符を渡した。切符を確認すると車掌は元いたところに去っていった。
そして私は隣の席に座っている人を見た。
服装は探検家のようなベージュ一色の服に身を包み頭にはライト付きのヘルメットを付けている。
目の色やヘルメットからはみ出る髪の色からして日本人のようだった。
そして口元には人懐っこい笑みを浮かべていた。
「さっきは危なかったね。なんで切符持ってなかったの?」
「そちらこそ何故切符を2枚待ってるんですか?」
「そりゃ、探検家たる者予備は常に用意しないと」
ああ、やっぱり探検家なのねと。推測から確信に変わった。
「なんの探検をされてるんですか?」
「もう、やってないよ。死んじゃったから。」
「死んだ?あなたは今ここで動いてるのに?」
「あれ?君もしかしてまだ死んでないの?迷い込んだ感じかー」
「迷い込むって?」
「この電車はね、終点列車というもので、本来人生の終点、つまり死んだ人しか乗れないんだ。
けれどたまに紛れ込む人もいる。
そういう時はこの終点列車の終点で降りるといい。
そこが君たちが住む生者の世界だから。
死者だと肉体がない魂だけだからただ、見て回るしかできないけど生きているなら元通りだ。」
「それは良かったです。」
「じゃっ僕の話を退屈凌ぎに聞いてくれるかな。」
「はい」
「僕はね、さっき言った通り、探検家でいろんな地方のいろんな場所を、見て回ってたんだ。
日本も面白いところはいっぱいあったんだけどやっぱり一番面白かったのは、アマゾンだね。
アマゾンは暑くて危険もいっぱいだけど、生物が豊富で生き物の宝庫って言われてるんだ。
そこで僕はアマゾンの先住民と話したり、
川でピラニアやピラルクなどを見たりしたんだ。
まぁでもその後に川にうっかり落ちちゃってピラルクに跳ね飛ばされて死んじゃったんだよね。
こうして僕の人生は終点ってわけ。」
そう語り終えると、電車の方も終点だった。
私が降りようとすると探検家が「自由に暮らしな。そうすれば、きっと自分の終点がいいものになるから。」
その言葉を覚えて私は現世に戻ってきた。
お題終点
ここまで読んでいただきありがとうございます。

8/7/2024, 10:21:31 PM

「はぁはぁ…」と私は息を切らせながら必死に後ろから走っている馬車から逃げる。
私は生まれて間もない頃、村の口減しとして奴隷商に売られた。まだ良識のある奴隷商だったら良かったが運悪く私が売られた先の奴隷商はいわゆる違法な奴隷商だった。当然、法律なんて気にされないので劣悪な環境での生活を強いられた。また、奴隷の価値を上げるために私たちはよく訓練をさせられる。
今のこの状況もその一環である。
監督者が馬車で後ろから奴隷たちを追い、奴隷たちがサボったら鞭で百回叩かれる。
ノルマの三キロダッシュが終わり、私たちはどっと倒れ込む.
しかしそんなのも気にせずに監督官は「ほら、帰るぞたて!」と容赦なく放ってくる。
もう耐えられなかった。
主従関係ではなく、これは一方的な隷属だ。
必ず本人の意思関係なく主人の命令を遂行しなくてはならない.
ーーーーーーーーソレガドウシタ?ーーーーーーーー
パキンッと何かが壊れた音がした。
親が一応餞別としてくれた錆びた鉄剣を取り出す。
監督官はその異様な視線に気がついたそうで、下卑た笑みを浮かべながらこちらは整備の行き届いた刃渡りの長い片手剣を取り出す。
武芸の差は歴然だった。
素人が経験者に勝てるわけがない。
そんな常識なんて関係ない。
今私ができる事をやるだけ。
監督官が剣を振り上げ上段に構えた。
私も剣を横に構え、そして相手の懐に飛び込んだ.
監督官は私に嘲笑の笑みを浮かべながら剣を振り下ろす。
私は剣でそれを少し逸らし致命傷を避ける。
ドバッと肩から血が大量に流れ出す。
だがそんな事を気にせず私は攻撃を続ける。
流石の監督官も今度は焦ったように後ろに飛び去り攻撃を交わす。
今度は私は剣を真ん中に構えながら突進し監督官を突いた。監督官は剣の腹で弾く。そのまま刃を返し私を斬りつける。
「ガフッ」と口が血が流れ出す。
そして私は倒れ込む。それを見ると監督官は安心したように、私から目を離す。
その瞬間、私は流れる血など気にせず一瞬で監督官の後ろに回り込み斬りつけた。
そのまま乱雑に斬りつけると監督官は動かなくなった。
その後私も後を追うように倒れる。
血を失いすぎて、私が死ぬのは一目瞭然だった。それでも恐怖ではなく清々しさが胸に残った。
少しは決められた運命に抗えたか。そう思えた。
こうして1人の少年の儚き命が世界から去った。
お題最初から決められていた
ここまで読んで頂きありがとうございます。

8/6/2024, 11:47:05 PM

昔から根暗な性分だった。
人と関わろうとしても上手くいかなかった。
そんなまま幼稚園を卒園し小学校へ上がった。
教室の自席に座って辺りを見渡すと幼稚園時代の顔見知りもポツポツいた。
話す友達もいないので周りを見渡していると他の人から一際注目を集めている子がいた。
見るからに明るそうで容姿端麗できっと性格もいいのだろう。
こんな人が私たちの世代を引っぱっていく人になるんだろうなと思ってその子をずっと見続けていると流石に視線に気付いたのか、こちらを向いた。
慌てて視線を伏せても時既に遅し。
ああ、初日から私はクラスカースト最下位に転落するのか、まだ二週間は先だと思っていたのに。と心の中でつぶやいた。
しかし私の想像とは裏腹になんとその子は私に声をかけてくれた。
「そんなとこで何してるの?こっちおいでよ!」
そう笑顔で言ってくる君が天使か何かにその時は見えた。
その日から私の人生は一変した。
その子、私の友達第一号の名前は空野雲母と言った。
とにかく明るく面倒見が良くてまるで太陽に思えた。
雲母と一緒にいるとみんなが私に話しかけてくれる。
友達も沢山増えて、楽しい事を謳歌できた。
何よりも雲母と一緒にいると楽しかった。
そうして時を経て、私たちは社会人になった。
ある日、たまたま雲母が予定があったので家で1人、本を読んでいると平塚らいてうのこんな言葉が目に映った。
「昔、女性は太陽であった。」意味は全然違うけど、私の心をガッと掴んだ。
このまま雲母に頼っていていいのだろうか。
いつまで私は月なのか。
そう決心付くと近くにあったパスポートを取り、
雲母に電話した。
「もしもし」
「もしもしどうかしたの?」
「実わね、私海外に一年行こうと思うんだ。」
「えっ!そうなの!どうして?」
「私、コミュニケーション能力が全然ないからアメリカで鍛えてもらおうと思って。」
「そっか。じゃあ定期的に電話しようね。また来年会おう。」
そうして私はアメリカへ旅立った。
私が雲母のように誰かを照らせるような太陽になるために。
お題太陽
ここまで読んで頂きありがとうございます。

8/5/2024, 1:11:57 PM

チリーン、チリーンと鐘を鳴らす。
涼やかな音が心に染み渡ってくる。
私が鳴らしている鈴はとある恩人から譲り受けた物だった。
うっすら青みがかったガラスの表面に川を想起させるような水色の波線と金魚が描かれている。
それを鳴らしながら私は恩人との出会いと別れを思い返した。
あれはまだ私が小学生の頃、チョウにつられて歩いていると親とはぐれてしまったのだ。
チョウが手の届かぬところに行ってしまってふと後ろを振り返ると両親がいなかった時ほど心細かったことはなかっただろう。
道の真ん中で人目を気にせず大声をあげて泣いていた。
たくさん人はいるのに誰も自分を助けてくれないで、そそくさとその場を立ち去る中、恩人だけが、私を助けてくれた。
ちょっとどころか完全に時代錯誤の袴姿に大きな傘みたいな帽子に私が貰った鈴をつけてチリーンチリーンと鳴らしながら私に近づいてきた。
そして私を落ち着かせるように優しい声で
「ご両親のところまでお届けしよう」と言ってくれた。
そして私は恩人の手を握りながら、両親のところへ向かっていった。
両親のところへ辿り着くと恩人は帽子に付けていた鈴を外して私の前でチリーンと鈴を鳴らしながらこう言った。
「鈴にはね、不思議な力があるんだ。とても涼やかな音は心に響き渡って落ち着かせてくれるし私にとっては恩人とのあった証なんだ。」
と言って私に渡した。
そして恩人は名前も告げずに人混みの中へ消えていってしまった。
あれから随分と経ってしまってもう高校生だがその貰った鈴は今も私の学生鞄に自身の存在を主張するとともに私が恩人とであった確かな証にも思えた。
お題鐘
ここまで読んでいただきありがとうございます。
読者の皆様方にはこれ鐘じゃなくて鈴じゃないかと思われる方もいるとは思いますがその思いは心の内にしまっていただきたいと思います。

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