私が今のように老いていず若々しい時の話だ。
一輪の花があった。それは少し力を込めて触ってしまえば砕けてしまうくらいに繊細で、でもガラス細工のように透き通っていて美しかった。
平和な時であったなら、両親に大切に育てられて幸福な人生を送っていたであろう。
しかし彼女がうまれたのは、運悪く戦争の時であった。人々が求めたのは、ただ脆くて美しい花ではなく、大地にしかと根付いて折れない花だった。
両親には、虐待のほどは行かないが、かなり罵られた。「役立たず」と。彼女は曲がりなりにも貴族であった。説教が終わるといつも彼女は屋敷を抜けだし下町の横角で泣いていた。
そこに私が通り過ぎた。私は最初見た時、綺麗な人だな、と思った。私は彼女に話しかけた。
初めは彼女も警戒していた。しかし話していくうちに打ち解けっていって私達は度々話をする友人になった。
けれどもある日を境に彼女は来なくなった。
三ヶ月が経とうとした時、ようやく彼女が姿を現した。少し文句を言おうと思ったが、彼女の顔を見るとその気は失せた。何故なら涙でくしゃくしゃになっていたからである。
彼女は結論から言うともう暫く会えないらしい。
魔王が誕生してそれを討伐する為に勇者パーティに無理矢理親に加入させられたそうだ。
その後何気ない雑談をして、別れた。
きっと無知な君は知らぬのだろう。この別れた岐路がやがて交差し片方が消え去ると言うことを。
転移魔法で、すぐ城に戻ると案の定四天王の1人のデュラハンから怒られてしまった。相変わらずの堅物だった。玉座に座り部下にお気に入りの赤ワインを注がせる。そう、私が魔王だったのだ。
これが昔話である。勇者一行は確かに来たが彼女の姿はなかった。勇者を即座に捻り潰し、私は魔王を引退した。
そして旅人の服に身を包み彼女を探して旅へと出かけた。だが3年が過ぎ久々にあの下町に赴くと、小さなお墓があった。まさかと思って埋葬者を見ると、そこには彼女の名前が彫られていた。
なんとも言えない悲しみに、襲われながら私は静かに手を合わせた。どうか彼女の来世に幸有らんことを。
お題繊細な花
ここまで読んでくださってありがとうございました。
後、一年です。
そう医者に宣告されたのは三十代をかけ出したばかりの話であった。その日、私はショックのあまり眠れなかった。
原因は古傷によって感染した天然痘によるものらしい。
10年前の頃になる。その時、我らが日本は、太平洋戦争をしていた。
日本男児は皆、例外なく戦場へと赴き敵と命を散らすまで戦った。
ほぼ生存は見込めない戦場でも私たちは狂信的に天皇を信じ込み、人を1人殺めることも、罪悪感ではなく、天皇に役に立てたという高揚感しか湧かなかった。
更に運悪く私は戦場に天賦の才があったらしい。
方や銃、方や刀で戦う私は当時の戦争に生き残った者たちは創作の中の坂本龍馬のようだと言った。
敵は私をみるたびに恐怖に顔を歪め、今だからわかるが日本語で天皇の獄卒め!と言っていたらしい。
しかし三月以上戦争にいると体にガタが出始め動きの精彩を欠くようになった。
だがそれでも祖国に帰るぐらいの戦果は上げたというのに私はそれでもひたむきに天皇のためにと敵兵を殺し続けた。だがガタが出始め早、一月私は敵兵のピストルを受けてしまった。
致命傷ではないものの継戦できるほどではなく、すぐに本部に送還された。
右腕は二発の銃弾により重いものは持てなくなってしまった。やがて日本はアメリカに降伏し、戦争は終わり栄誉は奪われて代わりに与えられたのは、社会不適合者の烙印だった。
余命宣告をされた次の日には、もうこんな自分いなくていいのか。と生きることを諦めるようになった。
こうして無駄に二月を過ごした。
いつもの如く行くあてもなく歩いていると、年端も行かない子供にぶつかってしまった。
しまったと思った瞬間、私は子供の顔を見るともう既に泣いていた。
事情を聞くとどうやら迷ってしまったらしい。
私はその子供を連れて親元に引き渡した。
すると子供は私を見つめたと思ったら顔を緩ませて私に感謝を述べた。
その時、私は敵兵を殺す時よりも喜びを感じた。
こんな美しくも脆い笑顔を護りたいと感じた。
こうして私は警察官を目指して警察学校に行くようになった。
それから7年後、もう三十七になった私はようやく警察官になった。何故かあの後、天然痘という死神は私から手を引いてしまった。
もう戦場を自由に駆け抜けたあの頃には戻れないが、私がこの街の平穏の一風景となるようにいつまでも見守り続けたいと感じた。
お題一年後
ここまで読んでくださってありがとうございました。
更新が遅れてすみません。
桜が美しく生き生きと花を咲かせる春、私はここ星園学園の教師として赴任してきた。
学園の校長先生をはじめとした教師陣が快く私を出迎えてくれた。
入学式が終わり初めての授業で黒板を見ると、
私は一年前の記憶を蘇らせていた。
一年前私こと香月香苗は人生最大の危機が訪れていた。
当時大学3年生に進学した私を待っていたのは、残酷なテストの点と単位の数値によって落第への道へ突き落とされようとした。
教師に厳重注意をくらった帰り道、私はこんなことになった原因を探っていた。
やっぱり大学2年の時の夏休みの時間をゲームに極振りしたことかな、いや、もしかしたら2学期のテストの勉強をすっぽかして2月位沖縄で住み込みバイトをしたことかもしれない。
その全部だと突っ込んでくれる人もいなく終わりなき自問自答を繰り返していると前の同級生の女子とぶつかってしまった。お互いに尻餅をつき、その女子の手に持っていたプリントが散乱してしまった。
やってしまった。と思い即座に頭を全速力で下げると向こうも同じことを思ったのか再び頭を強打してしまった。
頭を抑えながら向こう方のプリントを拾う。
すると目に入って来たのは、難しそうな理論が書いてある数学のプリントとわかりやすくまとめられた物理のプリントだった。
それを目にした途端、厚かましいなどは考えずに向こう方の手を取って
「勉強を教えてください!」と叫んでいた。
これがぶつかった彼女、後の親友兼私の教師となる百華との出会いだった。
最初は急に手を取られて耳元で叫ばれた百華は呆然としていたがやがて正気を取り戻し、この厚かましい要求に答えてくれた。
百華が私の教師となると私の単位と成績はV字回復を遂げた。いや全盛期よりも尚高い成績を取った。
とても分かりやすく教えてくれる彼女につい何度も百華っていつもどれくらいの成績なの?と聞くと、百華は「気にしなくていいよ」と答えた。
そっかと思うともう百華に成績の話はしなくなった。
順調に卒業への道を私が切り拓き等々卒業日になりいつもの如く百華に会おうとすると百華はそこにはいなかった。唖然とするわたしをみて察した周りが事情を説明してくれた。
百華は私のせいで単位不足となり退学したのである。
こうして私は彼女の贖罪として教壇に立つことにした。
これからは私が生徒らに教える番だ。
お題一年前
ここまで読んでくださってありがとうございました。
本というのは世界への扉と鍵だ。
いつも自分が望む世界へ連れて行ってくれる。
だから本が好きだ。現実は酷く辛く苦しいけれどそれがより人を成長させ本の世界を一層深めてくれる。
怖くたって面白くたって綺麗だとしても本質は何も変わらずただ人々の根幹にある想いを呼び起こしてくれる。
世界は自由にできている。
どんなに人が私たちを縛りつけようが心は自由だ。
だから今この文を読んでいる人はやがて価値観を変えるような本に出会うかもしれない。
私の運命を変えたのは「聖書」という一冊の本です。
お題好きな本
ここまで読んでくださってありがとうございました。
今回はストーリーではありません。
すみません
月光が糸の如く僅かに届く裏路地で、少年が歩いていた。まっさらなキャンパスを想起させるような白髪に、血の色を思わせる澱んだ赤色の目をしていた。
黒い襤褸を被ってどこか楽しそうにステップを踏みながら道を進む。
そんな少年の様子をならず者たちが眺めていた。
彼らは集団で行動し裏路地に迷い込んだ子供を誘拐し売ることを生業としていた。
気配を殺し、獲物にバレずに接近し一瞬のうちに攫う。彼らは自他共に認めるプロだった。
今日も哀れな少年が再び自分の懐の金へと変わるのだと確信していた。
そして手筈通り背後をとって全員で囲い布を少年に被せようとした。こうしていつもの如く鳥籠に捕まる哀れな鳥のようにジタバタと袋の中を暴れ回る光景が目に浮かんだ。
だが次に見たかれらの景色は酷く錆びついた赤茶けた剣だった。
「羊が一匹羊が二匹羊が三匹」
今まで何事もなかったように、少年はステップを踏み続ける。
ただ変わっているのは彼の後ろに打ち捨てられている流血の跡すら見えないならず者たちの死体であった。
彼は貧民の出だった。生まれた頃から両親のいない彼が知っていたことは奪わなければ奪われることだった。
だが子供である彼に生存競争を生き延びる術はなかった。
全てを失いのに打ち捨てられていたところを神に見そめられ死神となった。
彼の刃は誰もきずつけずただ冷酷に魂だけを刈り取った。
戦乱の世をたった1人で終わらせた。
ある日は戦乱の指導者を、ある日は無双の戦士を
星の数のような途方もない数を殺して来た。
裏路地を歩き切ると美しい噴水が目立つ広場へと繋がっていた。
そこには怪しい挙動をする異国の剣士がいた。
彼が今夜のターゲットであった。
少年は骸骨の面を被りあっさりと男の前に姿を現すと男は驚きもせずにただ無言で東国で刀と呼ばれる剣に手をかけた。
少年も自分の得物を抜く。赤錆びた鉄剣は今日も鈍い色を精一杯輝かせている。
お互い無言で闘いは始まった。
最初に仕掛けたのは男の方だった。
刀を抜きつつ間合いを詰めて少年を切り裂こうとするが、バックステップで躱される。
だが怯まずに再び間合いを詰め豪快な一太刀で少年を切り裂こうとした。
しかし男の豪剣は見えない何かに弾かれてしまった。
月に反射して見えたのは細長い糸だった。
糸の全てに少年の死の権能が込められていた。
攻撃をするだけでは行き詰まると察したのか男は後方へ逃げようとする。
だが少年は左手で糸を操り男の背を斬りつけた。
初めて男に苦悶の表情と焦りが見える。
男は流れる血を手で止血しながらも尚、刀を手放さなかった。
攻守が変わり少年が打って出る。
少年は主武器は使わずに糸だけで男を翻弄させた。
少年の糸は何千の剣を想起させ男を防戦一方へと押し込んだ。
男はひたすらに防いでいたかと思うと男の姿が消えた。
糸が虚空を切る。
男は少年の背後にいた。
滑るような一撃が少年の背後を襲う。
しかし少年は消えるように避け冷酷に男を捉える。
男はとうとう奥の手を使った。
剣先が開き銃口が出てくる。
男の刀は仕込み杖ならぬ仕込み剣だった。
目視できぬ高速の一撃が少年の心臓を打ち据える。
しかし何故か銃弾が当たったにも関わらず少年は平然としていた。
そして終わりを告げる。「死神流百閃」
男にあらゆる武術の技がぶつかり男はズタズタに切り裂かれた。
血溜まりに背を向けて少年は歩き出す。
少年を蝕むことができたのはちっぽけな罪悪感と殺人の愉悦だけだった。
お題街、岐路、誰にも言えない秘密
ここまで読んでくださってありがとうございました。
更新遅れてすみません