Open App

月光が糸の如く僅かに届く裏路地で、少年が歩いていた。まっさらなキャンパスを想起させるような白髪に、血の色を思わせる澱んだ赤色の目をしていた。 
黒い襤褸を被ってどこか楽しそうにステップを踏みながら道を進む。
そんな少年の様子をならず者たちが眺めていた。
彼らは集団で行動し裏路地に迷い込んだ子供を誘拐し売ることを生業としていた。
気配を殺し、獲物にバレずに接近し一瞬のうちに攫う。彼らは自他共に認めるプロだった。
今日も哀れな少年が再び自分の懐の金へと変わるのだと確信していた。
そして手筈通り背後をとって全員で囲い布を少年に被せようとした。こうしていつもの如く鳥籠に捕まる哀れな鳥のようにジタバタと袋の中を暴れ回る光景が目に浮かんだ。
だが次に見たかれらの景色は酷く錆びついた赤茶けた剣だった。
「羊が一匹羊が二匹羊が三匹」
今まで何事もなかったように、少年はステップを踏み続ける。
ただ変わっているのは彼の後ろに打ち捨てられている流血の跡すら見えないならず者たちの死体であった。
彼は貧民の出だった。生まれた頃から両親のいない彼が知っていたことは奪わなければ奪われることだった。
だが子供である彼に生存競争を生き延びる術はなかった。
全てを失いのに打ち捨てられていたところを神に見そめられ死神となった。
彼の刃は誰もきずつけずただ冷酷に魂だけを刈り取った。
戦乱の世をたった1人で終わらせた。
ある日は戦乱の指導者を、ある日は無双の戦士を
星の数のような途方もない数を殺して来た。
裏路地を歩き切ると美しい噴水が目立つ広場へと繋がっていた。
そこには怪しい挙動をする異国の剣士がいた。
彼が今夜のターゲットであった。
少年は骸骨の面を被りあっさりと男の前に姿を現すと男は驚きもせずにただ無言で東国で刀と呼ばれる剣に手をかけた。
少年も自分の得物を抜く。赤錆びた鉄剣は今日も鈍い色を精一杯輝かせている。
お互い無言で闘いは始まった。
最初に仕掛けたのは男の方だった。
刀を抜きつつ間合いを詰めて少年を切り裂こうとするが、バックステップで躱される。
だが怯まずに再び間合いを詰め豪快な一太刀で少年を切り裂こうとした。
しかし男の豪剣は見えない何かに弾かれてしまった。
月に反射して見えたのは細長い糸だった。
糸の全てに少年の死の権能が込められていた。
攻撃をするだけでは行き詰まると察したのか男は後方へ逃げようとする。
だが少年は左手で糸を操り男の背を斬りつけた。
初めて男に苦悶の表情と焦りが見える。
男は流れる血を手で止血しながらも尚、刀を手放さなかった。
攻守が変わり少年が打って出る。
少年は主武器は使わずに糸だけで男を翻弄させた。
少年の糸は何千の剣を想起させ男を防戦一方へと押し込んだ。
男はひたすらに防ぐと思うと男の姿が消えた。
糸が虚空を切る。
男は少年の背後にいた。
滑るような一撃が少年の背後を襲う。
しかし少年は消えるように避け冷酷に男を捉える。
男はとうとう奥の手を使った。
剣先が開き銃口が出てくる。
男の刀は仕込み杖ならぬ仕込み剣だった。
目視できぬ高速の一撃が少年の心臓を打ち据える。
しかし何故か銃弾が当たったにも関わらず少年は平然としていた。
そして終わりを告げる。「死神流百閃」
男にあらゆる武術の技がぶつかり男はズタズタに切り裂かれた。
血溜まりに背を向けて少年は歩き出す。
少年を蝕むことができたのはちっぽけな罪悪感と殺人の愉悦だけだった。
お題街、岐路、誰にも言えない秘密
ここまで読んでくださってありがとうございました。
更新遅れてすみません

6/16/2024, 3:10:04 AM