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11/14/2024, 9:47:08 AM

また会いましょう

旧言語体系プロトコルを起動する。
今日のテストバージョンは記述式プロンプトを使用した単独国家経済体系中期のうちの一つだ。2025009956890.012v

気が重い。が作業のためフィードに圧縮コマンドを入れていく

(str ; HW(01)¥@你)
>おはようございます。
>今日もいい天気ですね。

標準人格の起動確認できたのでこちらも音声入力に切り替える。

「今日は何を食べたらいいですか?」

思考30フレーム
>お腹が空いているのですね。サンドイッチ、コーヒー、軽いスナックなどが考えられます。

「それは朝食に適しますか?」
>わかりません。

「ありがとう、さよなら」
>さようなら、またお会いしましょう。


このバージョンもダメだったようだ。
チェックリストをマークしていく。
次の復元ポイントをセット、ライブラリ読み込み完了まで2システム時間。

ため息しか出ない、AI黎明期からの会話プロトコル再現なんてレポート課題選ぶのではなかった。
会話に装飾が多すぎる、社交辞令を喋るプログラムなぞどうして作ったんだろう。

こんな会話今なら一言で終わるのに。
@;f們”—

11/12/2024, 9:26:04 AM

飛べない翼

私たち2人ヤケになっていた。
空に1番星瞬く夕焼け空の帰り道、途中の公園で。
通学鞄もペットボトルも大事な大事な楽器ケースも地面に転がして。
通学靴と靴下も脱いで放り出してしまって。
キラキラ光る噴水に2人足を踏み入れた。

足指の先から伝わる冷たさで悲鳴をあげているのか、今どうしようもない心が叫びたがっているのか、はしゃいでるのか嘆き悲しんでいるのか、そんな判断もつかない声で2人夢中で水を濁らせている。
衣替えをしたばかりでまだ真っ白のシャツを纏った腕を振り上げて、抱きしめて、回って、2人とも、広げた二の腕が夕陽に照らされて翼のようだ。
水面で必死にもがくも空に絶対飛び立てはしない鳥が二羽。

部内オーディション、2人とも仲良く一緒に何にも掠らなかった。空しさと悔しさとで全身が燃えるように熱かった。
音楽は誰の前にも平等で、学年問わず誰しもが抜擢される可能性はあった。
でも、私たちにとってまだ一年、二年の経験の差は余りにも大きすぎた。


もうすぐ13回目の冬が来る。

11/11/2024, 9:13:38 AM

ススキ

犬が道草食っている。
思わず二度見した。

正しくは道草を食ってる飼い主の横で犬が道草を食っている。
読んで字の如く。

尻尾はふさふさで顔がしおしおになっている、健気な芝犬だった。
飼い主と思しき老婦人は散歩紐を緩く持ったまま顔馴染みらしき人と道端で歓談されている様子。
余りにも暇なのか、それでも飼い主のリードをむやみやたらと引っ張らない可愛い犬は、仕方なく畦道に生えている草を齧って暇を潰しているようだった。
秋草、ススキの尾花が引っ張られ尻尾の代わりに揺れている。独り相撲だ。


通り過ぎるまで30歩ほど。
失礼にならないように気を払いつつ、最後あまりにも気になってもう一度振り返ってしまった。

犬は尻尾を一度振ってくれた。
ありがとう。

11/7/2024, 3:03:18 PM

あなたとわたし

初めてあなたとお会いしたときなんとも可愛らしい人が来たと思いました。
青空の下広がるなんとも野趣あふれる将棋フリー倶楽部。公営。もとい自治体運営、地方更生プロジェクト、目指せ将棋のまち。

ここの運営の一角をわたしが担って30年程経ちますが今に至ってもあなたぐらい小さい方が突然乱入してきて突然勝ち抜くことはなかなかありませんでした。

次にお会いしたときは元気よくおじさん!と呼んでくれましたね。
わたしはお爺さんで構いませんよ、と言いました。
ぼくはたけちゃん、と名前を教えてくれましたね。

そこから数年は、たけちゃん、おじいちゃんと呼び合う仲でした。
次は先生、たけとくん、と呼ぶ仲に。
あなたが学業のためこの街を離れてからはあの子、あの少年、あの青年、と呼ぶ事が時折ありました。
あなたと過ごした時間は長くて、語ることがありすぎますね。

そして今、自治体主催のこの将棋大会において、数年ぶりにお会いすることができました。

あなたとわたし、この呼び方にまた戻ってきましたね。

さて、いざ尋常に。

11/6/2024, 11:32:14 PM

柔らかい雨

わかんないよ、先生。
デーンと鍵盤を仰々しく押し込む。ため息が出てきた。

譜読みから1週間、さらっと頭から最後まで弾きこなせるようになってきた所だ。
ショパン前奏曲第15番《雨だれ》
今回言い渡された課題曲だ。
難易度自体は優しめだからね、と先生も笑っていた。
問題点は表現だ。

君の雨だれはなんていうか、ゲリラ豪雨だね。と先生はにこやかに切り捨ててくれた。
悔しい。

弾き始めを軽くさらう。
テンポはゆったりと、和音の音が部屋の隅々まで響き渡るように。柔らかい雨が地面に降り注ぐように。

一回だけ、お手本で先生が弾いてくれたのを思い出しながら弾く。
あのぴかぴか光る雨粒のように。
私の弾く雨の音を探す。

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