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飛べない翼

私たち2人ヤケになっていた。
空に1番星瞬く夕焼け空の帰り道、途中の公園で。
通学鞄もペットボトルも大事な大事な楽器ケースも地面に転がして。
通学靴と靴下も脱いで放り出してしまって。
キラキラ光る噴水に2人足を踏み入れた。

足指の先から伝わる冷たさで悲鳴をあげているのか、今どうしようもない心が叫びたがっているのか、はしゃいでるのか嘆き悲しんでいるのか、そんな判断もつかない声で2人夢中で水を濁らせている。
衣替えをしたばかりでまだ真っ白のシャツを纏った腕を振り上げて、抱きしめて、回って、2人とも、広げた二の腕が夕陽に照らされて翼のようだ。
水面で必死にもがくも空に絶対飛び立てはしない鳥が二羽。

部内オーディション、2人とも仲良く一緒に何にも掠らなかった。空しさと悔しさとで全身が燃えるように熱かった。
音楽は誰の前にも平等で、学年問わず誰しもが抜擢される可能性はあった。
でも、私たちにとってまだ一年、二年の経験の差は余りにも大きすぎた。


もうすぐ13回目の冬が来る。

11/12/2024, 9:26:04 AM