柔らかい雨
わかんないよ、先生。
デーンと鍵盤を仰々しく押し込む。ため息が出てきた。
譜読みから1週間、さらっと頭から最後まで弾きこなせるようになってきた所だ。
ショパン前奏曲第15番《雨だれ》
今回言い渡された課題曲だ。
難易度自体は優しめだからね、と先生も笑っていた。
問題点は表現だ。
君の雨だれはなんていうか、ゲリラ豪雨だね。と先生はにこやかに切り捨ててくれた。
悔しい。
弾き始めを軽くさらう。
テンポはゆったりと、和音の音が部屋の隅々まで響き渡るように。柔らかい雨が地面に降り注ぐように。
一回だけ、お手本で先生が弾いてくれたのを思い出しながら弾く。
あのぴかぴか光る雨粒のように。
私の弾く雨の音を探す。
11/6/2024, 11:32:14 PM