ころ

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6/1/2024, 12:51:38 AM

急に友人から封筒が届くようになった。
前触れもなく関係者全員との連絡を断ち、行方もくらまし、もしかしたらあいつは死んだんじゃないかと仲間内でも騒然としていたのが、もう友の名前すら話題に上らなくなった頃のことだ。
封筒の中には写真が1枚だけ入っており、何処かの夕日に染まるビーチで海を背にした友が満面の笑みで写っていた。
ピースなんかしちゃって、予想に反して元気そうな姿を見て安心した。
心配かけやがってと文句の一つでも返したかったが、友の住所はどこにも書いていなかった。

それから不定期ではあるが、忘れた頃に友から写真が送られてくるようになった。
海外を渡り歩いているのか、見たこともない景色ばかりが写っていた。
雪山の頂上にいる時もあれば海の中でダイビング中に撮ったと思われるもの、テントを張った雪原でオーロラを指差してこっちを見て笑ってるものや地平線が見えるほどにだだっ広い花畑の中ではしゃぎ回ってる写真なんかもあった。
不思議なのは写真が届くたびに画像で検索をかけても何もヒットしない事だ。
お前は今どこにいるんだ……?


いなくなる前の友は仕事や金の悩み等が原因で常に疲れ果てた顔をしていた。慰めになればとしょっちゅう飯に連れて行ったり、自分の職場に来ないかと誘ってみたりしていたが、それらは友にとっては悩みの解決にはならなかったようだ。常にため息をつき暗く消え入りそうな声でボソボソと泣き言を言う姿を見て今にもいなくなってしまいそうだと思っていた矢先–––––––––

本当にいなくなってしまった。

近くにいるうちにもっと色んな方法で友を助けられたんじゃないかと何度も思ったし、写真が届くようになって数年経った今になってもそれを考える。だが写真に写る友の疲れや毒気が抜け切った子供の時のような無垢な笑顔を見ると、今が一番幸せならそれでいいかと思うのと同時にその側に自分がいないのが少し寂しかった。

写真は急に届かなくなる日が来るのかもしれないし、自分が死んだ後もずっと届き続けるのかもしれない。もしかしたら地球じゃない所にいるのかもしれない友が心から満足してくれるならそれにとことん付き合おうじゃないか。よく分からない遊園地のような場所で見たこともない着ぐるみのキャラクターと並んで笑う友の顔を指で小突いてグラスに入った酒を飲み干した。

5/30/2024, 11:48:56 AM






終わりなき旅
それは私の旅ではなくもっと大きな括りでの話
私はただその間を繋いでいるだけ
人類7937064582番と言ったところかな
…なぁんてことは全部冗談
ぜーんぶ適当(笑)

それでもいつか必ず来るだろう終わりを見届けられないのは
少し退屈かもね

5/30/2024, 9:11:33 AM

死んだ母は決して良い母親ではなかった。所謂「毒親」というやつだ。習い事や家のルールで私をがんじがらめにして、交友関係にまで口を出し、自分の思う通りに私が動かないとヒステリーを起こした。大事な物も何度も捨てられた。しかしながら、私には素質がなく頭もそこまで良い部類ではなかったようで母の努力も虚しく結局私は底辺を彷徨う弱者側の人間に成り下がってしまった。

母の期待の檻から逃れた後は気楽なものだった。家を出ても良かったのだが、私はそれをしなかった。抜け殻のように静かに穏やかになった母との距離感を心地よく思っていた。自分がこんな情けない状態でいる事で母に復讐してるつもりだったのかもしれない。母はたまに毒を吐くが、優しい部分も無い訳ではないので笑い合ったりする事もしょっちゅうあった。共依存のような状態にあったのだろうか。

それから数十年経ち高齢になった母はぼけて私のことなど何も分からなくなってしまった。日によって性格がきつくなったり、何もわからなくなったかと思えばしっかりと会話できる日もあった。昼寝をした事を忘れて夜眠れないと騒ぎ酒や睡眠薬を大量に摂取しようとしたり、足腰は丈夫なので外へ出歩いて近所のスーパーからパンを繰り返し買ってきて家中パンだらけにするのを止めるのに骨が折れた。恨みはあれど長年共に暮らした母親の老いを目の当たりにするのは結構きつかった。

そうしていくらか時が経った頃、不思議な事が起こった。母が健全だった時のように私の事を思い出したのだ。以前の鬼婆のような顔ではなく、見たこともない優しい顔をして私の頬に手を当て、私の名を呼んで一言「ごめんね」と。何がごめん?と聞くともう何も分からない母に戻ってしまっていた。それがなんだかとても悲しくて、私も、ごめんねぇ…と耐えられず声を上げてわんわん泣くと、目の前のお婆ちゃんは不思議そうな顔をして頭を撫でてくれた。

それから数日後に母は眠りながらそのまま安らかに息を引き取った。あの後の母は残念ながら私を思い出すことはなかったが、お互いに謝ってから私の心はいくらか軽くなっていた。私の謝罪が届いたかは定かではないが、これでよかった。私は母に謝りたかったし、母に謝って欲しかったのだ。許せない事ももちろんあるけどそれはきっとお互い様だろう。それに気づくのに何十年もかかった事が我ながら笑えてしまう。

母がもう何処にもいなくなってしまった事がとんでもなく寂しいと素直に思える事がほんの少しだけ嬉しかった。

5/29/2024, 12:03:36 AM

半袖を着る人が増えるこの時期になると思い出す。

学生時代、夏服を着た君の腕。

特に好みと言う訳ではなかったとは思うのだけど、何故か見つめてしまっていた。

当時の教室の香りや窓から差し込む光の記憶まで同時に蘇っては一瞬で消えて行く。

今年の夏も暑そうだ。

9/23/2023, 12:37:06 PM

子供の頃、幼なじみの君が一生懸命ぼくについて回るのがなんとなく嬉しかった。
君が高い所が苦手だとわかっていてわざとジャングルジムのてっぺんに登って、一生懸命ぼくのいる場所まで登ってくるのを見るのが好きだった。
今になって我ながら意地悪だったと思うし反省もしてる。
その後も相変わらず毎日遊んで、大人になってもずっと一緒だと思ってた。
何も僕を追い越してもっともっとうんと高い所に行くことはないのに。
今度は僕が君を目指して登る番なんだろうとなんとなく思った。
いつになるかは分からないけどきっとその時まで君は笑って待っていてくれる、そんな気がする。

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