ころ

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1/4/2025, 11:49:43 AM

幸せとは。何だろうね。言語化しちゃうとフワッと感じていた感情の全体がどこかしら削れる気がして難しい。

思い当たる事といえば、先に眠っている夫の隣に潜り込んで毎晩密かに手を繋いでいる。その瞬間は私にとって間違いなく幸せな瞬間だと思う。起きている間は言い合いもするし愚痴を吐いたりもするけど、その嫌な部分も全部含めてきっと幸せなのだろう。

もしも死後の世界があるのなら、永遠に真っ暗でも良いからそこでも夫と手を繋いで眠っていたい。

6/18/2024, 2:55:14 PM

アブダクションと言って、地球に旅行に来た者はなぜかUFOで牛を攫わなければならないらしい。よく分からないが、そういう伝統なのだそうだ。

攫う伝統ができているという事はきっと牛という生物は可愛いのだろう。キャトルミューティレーションと言って掻っ攫った家畜の内臓と血液を抜いて外側だけ地球に返すという行為もあるが何だその蛮行は。あまりに品がない。可愛い牛ちゃん(見た事はないが)が可哀想だろ。地球人から野蛮な生物だとか思われちゃうだろ。自分のような高尚な知的生命体はそんな下等生物のような愚かな真似はしない。

あ、ほら見えてきた。なんか白黒してる奴と茶色の奴がいるんだな。色にバリエーションがあるなんてその辺も可愛いじゃないか。1匹に目星をつけてUFOの内部まで吸い上げるための光線を出した。

ゆっくり浮かんで近づいてくる。予想に反して暴れない。意外と大人しいな。ペットにしてもいいかもしれない。何か地球の病気をもってるかもしれないから予防接種を受けさせないといけないのかな。躾は難しいだろうか。それよりも、ママ許してくれるかな。

どんどん近づいてくる。ん?意外と大きい?まぁ多少大きくとも問題は……。

完全に吸い込んだ。でけえ!!!え、大きい!!こんな大きいなんて聞いてない。怖い!!なんかモシャモシャ咀嚼してるの何!?草!?吸い上げられてる間ずっと噛んでたの!?

地球人(成体)の3分の1程度の大きさの我々にとって牛という生き物はとんでもなく大きかった。こんなのに暴れられたらひとたまりもない。抱っこしたかったのに。あ、でもつぶらな瞳は可愛いかもしれない。でもやっぱり怖い。

離れた所から少し観察するが、すごく大人しい。それにしても、攫ってどうするんだ。別に肉を食う訳でもなし。戦利品という事か?それ以上に牛の内臓やらを抜いた奴らは何を考えてるんだ。何がしたかったんだ。実物を目の前にしても先人の行動が理解できない。サイコパスか。地球への旅行が規制されたらどうするつもりだ愚か者どもめ。

誘拐までできなければアブダクションにはならないのだが、別に遂行できずとも罰則等はないので人間に発見されないギリギリの位置までUFOの高度を下げ、牛にパラシュートをつけてゆっくり落下させた。パラシュートをつける時にンモォ〜と鳴くもんだから恐ろしくてたまらなかった。あんなのんびりした生き物だ、のんびりしたあの鳴き声もきっと威嚇だったのかもしれない。

無事に地面に到着したらしい。何事もなかったかのように足元の草を食べ始めた。地球の草はそんなに美味いのか。

土産は無くなったがそろそろ帰ろう。次は押入れの奥で埃をかぶっている生物を小型化できる装置を持ってこようと思う。一応初めての星だし要るかなぁ?とは思ったが、荷物が多くなるのが嫌で結局置いてきたのが悔やまれる。

草を食み続ける牛にベスと名付け名残惜しそうにしばらく眺めた後、UFOは地球を後にした。

6/11/2024, 4:10:48 AM

やりたいこと

やりたいこと

皆のようにやりたいことはいつかは見つけられるのだろうと漠然と考えてきたのだが

ついぞ思いつくことはなかった

やりたいこと

やりたいこと

思い浮かぶのはあの時ああやればよかったこうすればよかったということばかり

愚鈍な自分にとって世界があまりにも早すぎて

気づくと置いていかれて過去に生きている

6/7/2024, 12:59:40 PM

今日で世界が終わる。

最後の日には普段は指を咥えて眺める事しかできない程の高級な焼肉を食べると決めていた。しかしお寿司も捨てがたい……ええい、最後なのだから奮発してしまえ!
最後の晩餐に思いつくメニューが俗っぽいと我ながら苦笑した。だがやはり値段相応の美味しさに驚いて感動した。こんなに美味しいなら普段から少し節約してたまの贅沢をしてもよかったのかもしれない。君を連れて来たら喜んだだろうか。

店を出てその足で君が景色が好きだと言った岬へと向かった。夕日が綺麗だ。暗くなる前に来られてよかった。前に来た時にあまりの崖の高さに足がすくむ僕を見て君が笑ったのを思い出す。柵があっても怖いものは怖かったのだ。

……もっと君を大事にすればよかったな。もっと色んな所に一緒に行って、話もたくさん聞いてあげればよかった。僕の世界の終わりに君と一緒にいられたらどれだけ幸せだっただろう。でもそれは叶わぬ夢だと知っている。僕は君をたくさん悲しませた。それで、きっと僕の事が嫌になっちゃったんだね。どうしていつも無くなってからじゃないと気づけないんだろう。僕のいない世界で、きっと君はこれからも幸せに生きるのだろう。その君の隣にいるのが僕じゃなく違う誰かなのだということも分かってる。でもその事実に耐えられる自信が全く無い。だから僕は君との幸せな記憶を抱いたまま終わりにするね。

目を閉じてしばらく深呼吸した後、僕は勢いよく柵を乗り越えた。

6/2/2024, 1:27:08 PM

俺、正直お前の事嫌いだから

同い年の幼馴染から唐突に言われた言葉だ。それも教室のど真ん中、ギャラリーもたくさんいる中で。私は鳩が豆鉄砲どころか豆ガトリングでも喰らったような顔をしていただろう。

そんな大口を叩いておきながら、卒業式の日に彼は真っ赤な顔をして私に告白をしてきたのだから笑える。思春期の強がりだったとの謝罪付きで。な〜にが俺、正直(キリッ)だ!バーカ!!!

「俺、正直お前の事嫌いだから」

たまにふと思い出したタイミングでぼそっと口に出してみる。そうするとベッドに横になり寝ようとしていた夫が耳まで赤くして枕に顔を埋めて変な唸り声を上げるのがおかしくて笑ってしまう。あの時は相当傷ついたのだから、これくらいの仕返しは可愛いものでしょう。そうだな、まだまだ向こう数十年は覚悟していてほしいかもね。

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