ころ

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今日で世界が終わる。

最後の日には普段は指を咥えて眺める事しかできない程の高級な焼肉を食べると決めていた。しかしお寿司も捨てがたい……ええい、最後なのだから奮発してしまえ!
最後の晩餐に思いつくメニューが俗っぽいと我ながら苦笑した。だがやはり値段相応の美味しさに驚いて感動した。こんなに美味しいなら普段から少し節約してたまの贅沢をしてもよかったのかもしれない。君を連れて来たら喜んだだろうか。

店を出てその足で君が景色が好きだと言った岬へと向かった。夕日が綺麗だ。暗くなる前に来られてよかった。前に来た時にあまりの崖の高さに足がすくむ僕を見て君が笑ったのを思い出す。柵があっても怖いものは怖かったのだ。

……もっと君を大事にすればよかったな。もっと色んな所に一緒に行って、話もたくさん聞いてあげればよかった。僕の世界の終わりに君と一緒にいられたらどれだけ幸せだっただろう。でもそれは叶わぬ夢だと知っている。僕は君をたくさん悲しませた。それで、きっと僕の事が嫌になっちゃったんだね。どうしていつも無くなってからじゃないと気づけないんだろう。僕のいない世界で、きっと君はこれからも幸せに生きるのだろう。その君の隣にいるのが僕じゃなく違う誰かなのだということも分かってる。でもその事実に耐えられる自信が全く無い。だから僕は君との幸せな記憶を抱いたまま終わりにするね。

目を閉じてしばらく深呼吸した後、僕は勢いよく柵を乗り越えた。

6/7/2024, 12:59:40 PM