元気でいて。って言ったって、
きっと君には届かないんだよね。
だって君の願いはこの世界から
いなくなることだもんね。
君はたまに体調を崩すけど、
向こうではそんなこと気にしなくてもいいのかな。
あれ?もしかして感情もないのかな。
あると信じたいよね。
だって君の嬉しそうな顔は
僕が知る世界ではダントツで可愛いんだから。
だから、そう信じて言うけどさ。
どうか、幸せでいてね。
幸せに満たされて笑っててね。
病は気からっていうしさ、
僕もその言葉信じて
どうにかここで踏ん張ってみるよ。
「馬鹿野郎」って言いたいよ?
「なんで置いてくんだよ」って。
だけど、言わないよ。
ずるいのはあくまで
「ごめん」って言った君だけだよ。
だから、かわりにさ。
…これくらいは許せよ?
幸せでいてね。
そんな普通に腹をつんつんって、
そんな普通に笑いかけちゃって、
そんな普通に僕の隣で「またね」なんて、
そんな普通に僕の手を握って、
そんな普通に僕の身体に肩ぶつけて、
そんな普通に連絡先交換して、
そんな普通に抱きしめさせてくれて、
なんで、そんな当たり前みたいに、僕に特別をくれるの?
君の何気ない日々の中で、何気なく僕は登場しちゃってんだね。
そうやってまた、過去の思い出へと溶けていく今日を歩きながら、僕も君に「またね」って手を振るんだよ。
またね。
涙が頬を伝った。泣くな。今は泣くな。そう言い聞かせても、もう遅い。
喉が、痛い。グッ、と、変な音が鳴った。唇をかみしめて、何もかもを堪える。
だって、君が見ているのだから。1番泣きたいのは、1番悲しくて悔しくて堪らないのは、君なのに。
「ありがとね。…私のおばあちゃんの為に泣いてくれて」
いつもより穏やかで優しくて温かい君の声が、僕をまたしっとりと濡らす。
腹に力を込めて、君を見つめた。君も、じっと僕を見つめていた。
君の真っ黒い瞳のその奥が、落ち着きはらって僕の瞳を見つめ返していた。
どれくらいの時間が経ったのだろう。君はおもむろに言った。
「私、泣かないから」
笑うから、と。
思わず泣き笑いのような声をあげる。
もうやめてくれよ。
君のその強い後ろ姿に、僕は涙が止まらないんだ。
あの景色が、音が、匂いが、温もりが、
あの場所で、あの時の中で得た愛と祈りが、
「私の心臓」。
私こそ命。
玄関の鍵が開く音に身を強張らせる。一挙一動、相手の都合のいいように振る舞う。声音や表情を窺って、自分の心と相手の機嫌を天秤にかける。
そうやって気を張り続けることのない生活を求めるのは、全部ないものねだりなんでしょうか。
毎晩怯え続けなくてはならないことに、ほとほと疲れました。こわいなあと呟いてしまわないように、どこか遠くを見つめ続ける日々です。
「上京」という言葉に、希望を見出して生きています。頑張って、頑張って、どうにかここまで漕ぎつけた。あと1週間で、2度とここで暮らさなくていい。ようやく本当の社会的自立へと、一歩踏み出せる。それがどれだけ安定剤となるのか。きっとわからないでしょう。
平穏な暮らしをください。心の安寧をください。そう神様に祈る。求めてはいけないものだっただろうか。
そんなはずはない。だから、あと少し。
大丈夫。今の自分には、ないものだけれど、絶対に手にいれるから。