やまめ

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 涙が頬を伝った。泣くな。今は泣くな。そう言い聞かせても、もう遅い。
 喉が、痛い。グッ、と、変な音が鳴った。唇をかみしめて、何もかもを堪える。
 だって、君が見ているのだから。1番泣きたいのは、1番悲しくて悔しくて堪らないのは、君なのに。
「ありがとね。…私のおばあちゃんの為に泣いてくれて」
 いつもより穏やかで優しくて温かい君の声が、僕をまたしっとりと濡らす。
 腹に力を込めて、君を見つめた。君も、じっと僕を見つめていた。
 君の真っ黒い瞳のその奥が、落ち着きはらって僕の瞳を見つめ返していた。
 どれくらいの時間が経ったのだろう。君はおもむろに言った。
「私、泣かないから」
 笑うから、と。
 思わず泣き笑いのような声をあげる。
 もうやめてくれよ。
 君のその強い後ろ姿に、僕は涙が止まらないんだ。

3/28/2024, 12:41:20 PM