やまめ

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 玄関の鍵が開く音に身を強張らせる。一挙一動、相手の都合のいいように振る舞う。声音や表情を窺って、自分の心と相手の機嫌を天秤にかける。
 そうやって気を張り続けることのない生活を求めるのは、全部ないものねだりなんでしょうか。
毎晩怯え続けなくてはならないことに、ほとほと疲れました。こわいなあと呟いてしまわないように、どこか遠くを見つめ続ける日々です。
 「上京」という言葉に、希望を見出して生きています。頑張って、頑張って、どうにかここまで漕ぎつけた。あと1週間で、2度とここで暮らさなくていい。ようやく本当の社会的自立へと、一歩踏み出せる。それがどれだけ安定剤となるのか。きっとわからないでしょう。
 平穏な暮らしをください。心の安寧をください。そう神様に祈る。求めてはいけないものだっただろうか。
 そんなはずはない。だから、あと少し。
 大丈夫。今の自分には、ないものだけれど、絶対に手にいれるから。

3/26/2024, 1:10:26 PM