耳を澄ますと
耳をよく澄ますと、聞こえてくるなき声。
海外の方が虫の声を、ただの雑音としか聞こえない話を思い出した。西洋人は虫の声を音楽脳で処理し、雑音と捉えることで意識しなくなるという。
対して日本人は言語脳で受けとめるため、日本人は虫の音を虫の声として聞いているのだとか。
なき声をただの雑音とするのではなく、ちゃんと声として聞きとることができるのは、とても素晴らしいことではないか。無意識の内に拒絶してしまうことなく、耳をすませばあちらこちらから聞こえてくる。気づくことができる。
しかしたまに思ってしまう。逆に存在を認識していても、無視してしまう人が多いのではないかと。ずっと聞こえていて、ずっと見えているからこそ、何もしない。その素晴らしい感性と、その素晴らしい観察力を無下にしているのではないだろうか。
もったいないなぁ。
だから僕は、なき声の主に話しかけた。
二人だけの秘密
私には好きな人がいた。
まだ小さくて、世の中全てが輝いて見えていたあの時。隣の家の君とよく遊んでいた。ずっと一緒にいたから、とても大きな存在に見えていたのだろう。
雨の日の公園で、誰もいない公園の遊具の中、二人きりで話したことを今でも思い出す。君は大きな夢を、私に熱く語ってくれた。
「僕は世界を救いたい!みんなが平和に過ごせるようにする、ヒーローになりたいんだ!」
そう話した君の瞳は、星のようにキラキラ輝いていた。その時の私は、君の言っていることがよく分からなかったけど、その熱意に感化されて大きく頷いた。
「なら私も!世界を平和にしてみせるよ!」
そんな私を見て、君は笑いながら言った。
「じゃあこれは二人だけの秘密だよ。」
「え、なんで?」
私は首を傾げた。
「だって、他の悪い人達が僕らの邪魔をするかもしれないじゃないか。」
「おぉ、なるほど。」
「だから、この想いは僕達だけの秘密。僕らの間には誰も入って来れないんだよ。」
「おぉ〜。」
意味なんて微塵も分からなかったけど、その時感じたキラキラ輝いた思いはずっと心に残っている。小学校の時に私が親の仕事の関係で引っ越してしまったから、それ以来会えていないけど、「世界を平和にする」気持ちだけは忘れなかった。それをモットーとして、今まで生きてきたのだ。
大人になって、やっと君の言った意味がわかったような気がする。だから今日も仕事の為に動き、久しぶりこの地元に足を運んでいるのだ。
ここに来ると沢山の君との出来事を思い出してしまう。ずっと感謝を伝えたかったから。…だからなのだろうか?
今目の前で死んでいる人物が、私が殺した人物が、
世の中を乱す悪人が、君に似ている気がする。
どれだけ好きだったんだよ、私。仕事終わりとかに君の家によってみようかな。少しだけ綺麗になった世の中を見て、君に少しでも喜んで貰えるように。私達の間には、誰も入って来れないから。誰も君の邪魔をする人物はいない。だって、
「これは二人だけの大切な秘密だから。」
優しくしないで
目の前の虚像が言い放った言葉
“優しくしないで”
その言葉が身に染みる
それはかつて私が言い放った言葉でもあり
同じように目の前にいた悪魔的な人物に対して
吐き捨てた言葉でもある
違う点といえば、その言葉の意味だろうか
私が吐き捨てた言葉の意味は
相手の優しさが眩しすぎたから
今言い放たれた言葉は
完全なる拒絶
しかしどちらも自分自身の為の言葉だ
それはこの言葉の本質的な部分の共通だろう
自己中心的な言葉
私がその言葉を吐き捨てた時
きっと相手を傷つけただろう
でも私は、今目の前にいる
鏡面に写る人物が言い放った言葉に対して
口角が上がってしまった
「そうだよ。辛いのは私だけでいいから。」
カラフル
沢山の道があって、沢山の人がいて、沢山の建物があって、沢山の想いがある。
沢山の店があって、沢山の結果があって、沢山の願いがあって、沢山の運がある。
沢山の命があって、沢山の生物がいて、沢山の知識があって、沢山の繋がりがある。
その全てが間違いなく、美しく鮮やかな色をもつ。
その全てが合わさると、カラフルであり
その全てが混ざりあうと、黒になる。
楽園
食べたい時に、食べたいものを沢山食べる!
話したい時に、話したい人と楽しく話せる!
のんびりしたい時に、好きなだけぐ〜たらできる!
見たい時に、見たい作品がみれる!
暖まりたい時に、涼しくなりたい時にちょうどいい温度になる!(?)
寝たい時に、思う存分いっぱい寝れる!
外に出たい時、勉強したい時、遊びたい時、歌いたい時、読みたい時、運動したい時、欲しいものがある時、お金持ちになりたい時、殺したい時、認められたい時、空を飛びたい時、行きたい場所がある時、その他諸々…。
もしも全てが叶えられるのなら、
好きなことができるのなら、
そこは楽園かもしれない。
それさえあれば、何も要らないかもしれない。
もしも全てが叶うなら、私はどうなるのだろうか。
やりたいことがなくなって、
幸せを実感することができなくなるのではないか。
やってみたいと思う願望は、
幸せだと思う気持ちは、
やがて消えてしまうのではないか。
「んー、別にもういいかな。よし、死ぬか!」
私の想像する楽園は、どうしても人が暮らすことのできない場所になってしまう。
楽園は、人が人で無くなる場所だろう。
…いずれにせよ、私は楽園に行けない人間だと思うのです。