明日、もし晴れたら
インドア派なので、天候に左右される予定を組むことがほぼない。
なんなら夏場は晴れることより涼しい事を所望したいまである。
そういえば 学生時代、良くしてくれていた叔父が突然の事で亡くなった。
とても楽しみにしていた修学旅行の前日だった。
数日前まで元気だった叔父がもういない事。
修学旅行に行けない事。
2つの理由で大泣きしてしまった。
当初は法要で修学旅行は行かないという母の方針に流れかけたが、
叔父にも修学旅行楽しんできてね と言われていた事もあり、
家族会議の結果、私は修学旅行に向かうことになった。
悲しい事に変わりないが、叔父の為にも全力で楽しもうと心に決め、雨の中出発した。
もし晴れたら、出来ることが変わってくる。雨天時はこうこう... という計画がある日程の中、
奇跡的に旅行先だけが晴れ(天気予報は全国的に雨だったと記憶している)
帰ってきた駅前はやっぱり雨だった。
叔父が晴らせてくれたと、都合よく解釈している。
あれからずっと未来の今、
叔父の大好きだった そして最終回を観ることなく旅立ってしまった水曜どうでしょうは今や伝説の番組となり、
私は叔父が飲んでいた山崎のウイスキーを帰省した際にちびちび戴いている。
それだけの時間が経過した。
もし晴れたらお墓参りに行くか というほど近場ではないけれど、
一緒にお酒を飲みたかったな と思ってみたり。
映画館に行くと、
一番大きなサイズのコカ・コーラとプレーンな味付けのポップコーンを買って、
後ろの人を気にしたくないので最上段の席へ
着席と同時に一心不乱に食べる。
だいたい予告編の終わる頃に完食。
エンドロールを観ながら映画を振り返り、
誰かの感想を耳に入れたくないので爆音で音楽を聴きながら、予告編で気になった映画を調べたり、
自分の意見を頭でまとめながら直帰する。
こうしないと私は映画を鑑賞した気になれないので
だから、映画館では一人でいたい。
澄んだ瞳
子どもを見ると皆澄み切った瞳をしている。
これが大人だとそうはいない。
どこかに思惑を感じる。
本人がいかに澄んだ瞳を持っていても、
そもそも私が濁りきった瞳をしているので、
見落としているのだろうとも思う。
そんな私でも澄み切った瞳を持った大人を見かけたことがある。
それは地元の回転寿司での事だった。
地元は海産が豊富で、回転寿司も美味しい店が多い。
よく行く寿司屋の、テーブル席からカウンター席が覗ける場所で寿司を堪能していたところ、その日はカウンター席が騒がしい。
座っていたのは彫りが深く、中年ではあるがスタイルも抜群。お洒落なカジュアルに身を包んだ恐らくイタリア系の1人の男性だった。
寿司をひとつまみするたびに全身で美味を表現している。その一挙手一投足に私だけではなく周囲の客もちらちら様子を見ているようだ。
男性は「えー...次はー... 大将!」
店内によく通るいい声で注文を始める。
「おぃしい おぃしいな.......Salmonをください!!」
注文をした瞬間の彼の瞳は
見たことない程澄み切った瞳をしていた。
なんてことはない話ではあるが、私はその瞬間をずっと記憶している。
私はこれから先、かつてないほど美味しい食べ物を期待し、料理を目の当たりにしたとして、
彼のように心から純粋な瞳を向ける事は出来るだろうか?
そんな事を考えている。
数年前の話。
外は吹き荒れる嵐。台風直撃である。
会社は時短終業となり、早々に帰宅する運びとなった。
台風の規模も相当で、
界隈から「槍が降っても休業することはない」と囁かれていた某商業施設すら休むほどであった。
帰りの電車は早い時間帯の為、それ程混み合っていなかった。
ふと大きなスーツケースを持った外国人の男性に声をかけられた。
英語は話せないのでスマホの翻訳アプリを介して、泊まっているホテル近辺までの道のりを尋ねられた事がわかった。
しかし、台風接近に伴っていくつかのルートが動かない。幸い帰宅ルートを少し遠回りすれば道案内出来るルートを見つけたので、少しの間同行することに。
男性は家族連れで、小さな2人の子が後ろで小躍りしているのが見えた。
今日はこの辺りに宿泊するが時間も早いので、オススメの施設を尋ねられた。
いやいや、小さい子を連れて嵐の中、外出を出来る天候じゃない。命の危険があるクラスなんだ! という文章を翻訳して、悔しいだろうけどホテルに戻ってくれと必死に説得した。
男性は、嵐が来ようとも折角の日本旅行。観光したい!
と、何往復も食い下がってきた。
しかし何度目かでとうとう男性はその日の観光を諦めてくれたようだ。
目的地へと続く改札口まで案内し、別れ際にどこかで食事しないか?ご馳走したいと提案してくれた。
とても迷った。
とはいえいつ交通網が麻痺してもおかしくないので固辞。後ろ髪を引かれながら一家と別れて急いで帰宅した。
旅行先で嵐に見舞われた時、どこにも行けないもどかしさを感じた出来事だった。
子どもの頃、夏休みは祖母の家に泊まる事が恒例だった。
小さな街で、町中は数軒の個人商店とスーパーが一軒、コンビニがひとつだけだった。
夏にはお祭りがあった。記憶を辿ってはみたが、子どもの頃の記憶は曖昧で、事実とは異なるのかもしれない。
記憶しているのは、子どもだけが参加できるイベントで、10m4方くらいの青いビニールシートの上に、凍ったニジマスが大量にぶち撒けられて、それを掴み取る催しがあった気がする。生臭いしなんか気持ち悪いので参加は断った。
夜になるとこじんまりとした花火大会があった。
終盤になると広い公園の脇に流れている川沿いに人が集まる。
おもむろに消防隊が辺りを囲む。
青々と生い茂った雑草の間近で、川沿いに設置された柵に括り付けられた花火が一斉に点火する。
勢いよく火花が散る。当然草木に引火する。
燃えているのが花火なのか雑草なのかよくわからないが手際よく消防隊が消化活動に勤しみ鎮火する。
煙った香りを嗅ぎながら帰った。
花火を見るとたまに思い出す。あれはどこまでが正しい記憶なのだろう。