変カフ身

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数年前の話。
外は吹き荒れる嵐。台風直撃である。

会社は時短終業となり、早々に帰宅する運びとなった。
台風の規模も相当で、
界隈から「槍が降っても休業することはない」と囁かれていた某商業施設すら休むほどであった。
帰りの電車は早い時間帯の為、それ程混み合っていなかった。

ふと大きなスーツケースを持った外国人の男性に声をかけられた。
英語は話せないのでスマホの翻訳アプリを介して、泊まっているホテル近辺までの道のりを尋ねられた事がわかった。
しかし、台風接近に伴っていくつかのルートが動かない。幸い帰宅ルートを少し遠回りすれば道案内出来るルートを見つけたので、少しの間同行することに。

男性は家族連れで、小さな2人の子が後ろで小躍りしているのが見えた。
今日はこの辺りに宿泊するが時間も早いので、オススメの施設を尋ねられた。

いやいや、小さい子を連れて嵐の中、外出を出来る天候じゃない。命の危険があるクラスなんだ! という文章を翻訳して、悔しいだろうけどホテルに戻ってくれと必死に説得した。

男性は、嵐が来ようとも折角の日本旅行。観光したい!
と、何往復も食い下がってきた。
しかし何度目かでとうとう男性はその日の観光を諦めてくれたようだ。

目的地へと続く改札口まで案内し、別れ際にどこかで食事しないか?ご馳走したいと提案してくれた。
とても迷った。

とはいえいつ交通網が麻痺してもおかしくないので固辞。後ろ髪を引かれながら一家と別れて急いで帰宅した。

旅行先で嵐に見舞われた時、どこにも行けないもどかしさを感じた出来事だった。

7/29/2024, 11:38:38 AM