ぺらり、とページを捲る。そこにはノートの線すら書かれていない白紙の紙が出てくる。捲っても捲ってもページは真っ白のまま。
焦っている心情を現すように、ページを捲る手が早まっていく。捲っても捲っても白紙なのに、ページに終わりがない。無限にページが出てくる感覚。
焦りと不安から、シュッ、と紙で手を切ってしまった。ぽたぽた、ぽたぽた。白紙の紙が赤く染まっていく。
「…………っ、」
嫌だ、そう発声しようとした声は息の塊となって口から吐き出されるだけだ。まだ認めたくない、まだ認められない。まだ私にはしたい事が、
日記帳のページが終わりを迎える。閉じてしまえば戻ってこれる事は決してない。抗ってもその先には何も無いのに。
私の日記帳はもがき続けた跡だけが不気味に残っていた。
『私の日記帳』
「前座ってもいいですか」
「どうぞ」
1度も話したことの無い同じクラスの男子に声をかけられた。なんとかかんとかレクリエーションの授業中だった気がする。眠過ぎて声かけられるまで半分寝てた。
「……字めっちゃ綺麗すね」
「……どーも」
会話は特に弾まないまま、淡々と言われた言葉に返す。たまに男子が話しかけてきて、一言返す。一言返したら一言返ってくる。レクリエーションも終わりを迎え、解散の言葉が教室に響いた。
「……すんません、名前聞いてもいいです?」
「…………𓏸𓏸です」
「よろしくな𓏸𓏸」
すっ、と差し出された手と、手を出してきた男子の顔をチラチラ交互に見る。握れよという圧に負けて少しだけ握り返した。
「ん、よろしくな!」
「……はぁ」
ふんす、と満足気に去っていく男子の姿を見て、わざわざ自分の向かい合わせに座ってきた理由が少し分かったような気がした。
『向かい合わせ』
空が暗く滲む。曇り空は今にも雨が降り出しそうだ。
自分の心を映し出しているようで腹が立つ。
道に飛び出そうにも足が動かない、海に沈もうとももがいてしまう。思考は早くシャットダウンしたいのに心がそれを許してくれない。
雨が降ってくる。最近流行りのゲリラ豪雨。雷がなり始め、人々はそれぞれの文句を口に出す。
何もかもが上手くいかない。全て投げ出して居なくなろうとすることすら出来ない。
空が酷く滲んでいる。雨雲は今にもこの世界を覆ってしまいそうだ。
『やるせない気持ち』
何もかも捨ててきた。
言葉通りなにもかも。
自分の買った物も、お金も、友達も、信頼も、何もかも。もう今の自分には何も無い。
言葉通りなにもかも。
こんなにもシリアスな雰囲気でこの場所へ来たらする事はただ1つ。これは決して逃げじゃない。これは新しく生まれ変わる為の手段と言ってくれ。
さようなら。自分の全て。
『海へ』
「大好きだよ」
何回もそう囁かれた。大好きの裏返しには、寂しさと孤独を埋めて欲しいだけの道具でしかなくて。
誰からも愛される、好きが貰える、そんな人になりたくて。
洗脳してたつもりは、決してない……とも言いきれない。
洗脳にかかった方だって悪い……とも、言いきれない。
ずっとずっとごめんなさい。
ずっとずっと、大好きだよ。
『裏返し』