「前座ってもいいですか」
「どうぞ」
1度も話したことの無い同じクラスの男子に声をかけられた。なんとかかんとかレクリエーションの授業中だった気がする。眠過ぎて声かけられるまで半分寝てた。
「……字めっちゃ綺麗すね」
「……どーも」
会話は特に弾まないまま、淡々と言われた言葉に返す。たまに男子が話しかけてきて、一言返す。一言返したら一言返ってくる。レクリエーションも終わりを迎え、解散の言葉が教室に響いた。
「……すんません、名前聞いてもいいです?」
「…………𓏸𓏸です」
「よろしくな𓏸𓏸」
すっ、と差し出された手と、手を出してきた男子の顔をチラチラ交互に見る。握れよという圧に負けて少しだけ握り返した。
「ん、よろしくな!」
「……はぁ」
ふんす、と満足気に去っていく男子の姿を見て、わざわざ自分の向かい合わせに座ってきた理由が少し分かったような気がした。
『向かい合わせ』
8/25/2024, 11:29:05 AM