誰もが、なんにも迷わずに正解の道を選べるわけないから。
時には直感でいいと思うよ。
ていうか正解なんてないから。言うならば、君が選んだほうが正解だよ。
どっちをとっても間違いじゃないさ。
だから怖がらずに選んでみな?
誰も後ろ指ささないよ。
もしそんなやつがいたら、君にとってこの先必要性のない人間だよ。
全員を納得させることなんて無理だから。
時にはそういう、取捨選択も必要な時がある。
でも、どんな時だって、自分を1番に考えた選び方をしてね。
今、君は人生の岐路みたいなものに立っている。
誰もがいつかは越える坂道だから、必要以上に怖れたり悲観しないでほしい。
そしていつかは、ああそんな事もあったなくらいに。
笑って話せる日がくるはずだよ。
「わー!」
今まで見たことないってくらい君は喜んで見せた。この場所に来るのははじめてだ。僕が、「美しい景色を見に行こう」と誘ったら君は二つ返事でうなづいてくれた。本当はね、もしかして断られたらどうしようって多少は不安を抱えてたんだよ。
でも君はついてきてくれた。そして、有難いことに天気も味方してくれた。今宵は雲ひとつない綺麗な夜空だ。月が煌々と輝いている。周りの星たちがどれも美しく瞬いている。あのどれにも、ちゃんと名前があって寿命もある。まるで僕たち人間みたいだろう?僕にも君にも、名前があり命の限界がある。人それぞれ違う名前、異なる寿命。そう思っていたけど、どうやら寿命はここで皆一定に終わるようだ。
「ね、あの星は何て言うの?」
「ペテルギウスかな」
「へー」
この美しい景色もやがて、終わる。今見せている君の笑顔もそのうち、恐怖に染まってしまうんだろうか。
明日で世界が終わるらしい。一番初めに聞いた時は何の冗談かと思っていたけど。科学者やその道に詳しい人々が気難しい顔をして毎日ニュース番組に出て、この世界の終わりを謳っていた。そうなるともう、一般人の僕らは信じるしかないじゃないか。なんでも、とびきり大きな彗星が明日中にこの星に衝突するらしい。科学的根拠もあるらしい。衝突を免れる可能性は、ゼロらしい。
「最後にこんな綺麗な景色見られてよかったな」
「僕も」
いつもの、穏やかなテンションで君が言うから、僕も隣に座って相槌を打つ。本当にそう思うよ。世界の終わりに君と、こんなに悠長に星を眺めてられるなんて思わなかったよ。今なら、消えてしまうのが怖くない。僕らもあの星のどれか一つになれたらいいな。そしてまた何億光年かして生まれ変われることができたなら、願わくば僕はまた君と――
だから別に当てになんかしてないって。
うぬぼれないでくれ。
僕がお前なんかの力を借りると思うか?
逆だよ。
お前なんかにバラさなきゃ良かった。
話した僕が馬鹿だった。
ああもう最悪だ。
この展開も、お前も、僕自身にもえらく幻滅したよ。
お前はそうやって、同情してるフリをして腹の底じゃ笑ってるんだろ?
良かったな、お前のシナリオどおりに事が進んで。
さぞかし楽しいだろうね?
最悪の事態になった僕を見れて良かったじゃないか。
これでお前は満足か?
安心してくれ、金輪際お前とは会わない。
ああそれと。
お前は僕のことをさっさと忘れるだろうけど、
僕は死ぬまでお前のことを忘れないから。
これからもよろしくな?
言えるもんか。
だって、それを知ったら君は僕のこと避けるだろ。軽蔑するだろ。友達やめるだろ。
君との関係を壊すくらいなら、言わなくたっていい。そういう場合だってある。僕のためでもあるし、君のためでもある。だから分かってくれよ。これ以上追求しないでくれ。
でも本当のこと言うと。
それさえも、全部知ったうえで君には友達でいてほしい。僕の全部を受け入れてほしい。
決して言えないけどね。
これって一種の独り善がりってやつなのかな。
毎日毎日。頑張って、動き回って、無い頭をフル回転で使って、世の中の役に立ってるって思って頑張ってた。
そう思い込んでるだけだった。
結果的には私のせいで今回のプロジェクトは白紙になってしまった。物事の顛末に理由を付けたがる上の人達は私を名指しして牽制した。それをすることで、周りの人達にも示しが付くと思ったのだろう。
アホくさ、と思った。
会社は組織。団体行動。皆が右向きゃ自分だけ左は許されない。黒い羊なんて必要ない。
そんな集まりのなかで、何を期待されて頑張ってたんだろう。此度のことで、私の心は大きく傷ついた。自尊心なんて、そんもの初めからないと思ってたけど、私も人の子だ。信頼してた人から罵声を浴びせられたり、1人で抱えるべきでないものを押し付けられればそりゃメンタルも崩壊する。嫌になる。投げ出したくなる。自分を、辞めたくなった。
ここはもう私の居場所じゃないと思った。組織の人達と同じ色に染まれなかった。ならばこれ以上ここにいたって無意味だ。だから辞表を出して自ら去った。負け犬だとか、弱虫みたいなことを言われたかもわからないけど、もう誰の言葉も耳に入ってこなかった。
小さく溜め息を吐き、ドアノブをまわした。独り暮らしを始めた時は、毎日が無駄にわくわくしていたけれど。今はもう陰っている1LDKの部屋。確かにあの頃よりは物が増えたけれど、こんなに狭かっただろうか。薄暗い、陰湿さが漂う部屋で1人膝を抱えて泣いた。悔しい悔しい悔しい。あんな奴らのために涙を流すなんて。自分が非力で無能なんだと思い知らされてるかのよう。
当然、私の肩を抱く誰かなんて存在しない。泣いていいんだよ、と甘い言葉をかけてくれる人もいない。退職も泣くのもここにいるのも、決めたのは全て自分。なのにとてつもなくやるせなかった。
気の済むまで泣けば答えは出るだろうか。分からないけど、今はどうしても涙が止まらない。