ゆかぽんたす

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「わー!」
今まで見たことないってくらい君は喜んで見せた。この場所に来るのははじめてだ。僕が、「美しい景色を見に行こう」と誘ったら君は二つ返事でうなづいてくれた。本当はね、もしかして断られたらどうしようって多少は不安を抱えてたんだよ。
でも君はついてきてくれた。そして、有難いことに天気も味方してくれた。今宵は雲ひとつない綺麗な夜空だ。月が煌々と輝いている。周りの星たちがどれも美しく瞬いている。あのどれにも、ちゃんと名前があって寿命もある。まるで僕たち人間みたいだろう?僕にも君にも、名前があり命の限界がある。人それぞれ違う名前、異なる寿命。そう思っていたけど、どうやら寿命はここで皆一定に終わるようだ。
「ね、あの星は何て言うの?」
「ペテルギウスかな」
「へー」
この美しい景色もやがて、終わる。今見せている君の笑顔もそのうち、恐怖に染まってしまうんだろうか。
明日で世界が終わるらしい。一番初めに聞いた時は何の冗談かと思っていたけど。科学者やその道に詳しい人々が気難しい顔をして毎日ニュース番組に出て、この世界の終わりを謳っていた。そうなるともう、一般人の僕らは信じるしかないじゃないか。なんでも、とびきり大きな彗星が明日中にこの星に衝突するらしい。科学的根拠もあるらしい。衝突を免れる可能性は、ゼロらしい。
「最後にこんな綺麗な景色見られてよかったな」
「僕も」
いつもの、穏やかなテンションで君が言うから、僕も隣に座って相槌を打つ。本当にそう思うよ。世界の終わりに君と、こんなに悠長に星を眺めてられるなんて思わなかったよ。今なら、消えてしまうのが怖くない。僕らもあの星のどれか一つになれたらいいな。そしてまた何億光年かして生まれ変われることができたなら、願わくば僕はまた君と――

6/8/2024, 9:29:50 AM