ゆかぽんたす

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5/15/2024, 1:19:00 AM

「なら、今なんじゃない?」
彼女は言った。まるで息を吐くように、さも簡単に、当たり前のように。
正直、そんな軽々しく言うなよ、と思った。これはオレだけの問題じゃない。周りのこととか、他にも都合云々が関わってくると言うのに。
「そんなの言い訳だよ。始める、って決めたんなら、あとはなんにも考えずにやってみればいいんだよ」
ほらまた、そんなふうに。生憎オレはそんな楽観的に考えられる質じゃないんだ。物事を決める時は、慎重に、確実に。石橋を叩いて渡るような生き方のほうが良いんだから。
「でもそれだとあなたは、石橋を叩いて壊してるよ」
あれこれ余計なこと考えすぎて、せっかくの橋を自分で壊しちゃってるんだよ。これまた彼女はひょうひょうと言った。そんなこと初めて言われたから、何も返せなかった。同時に納得もしてしまう。時には大胆になりなよ。まるでオレの心にとどめを刺すかのようにそうつけ加えた。
「明日のことは明日の自分がなんとかしてくれるんだから。あれこれ考えたってしょうがないでしょ」
羽のように軽い声と笑顔だった。きっとオレは、この何百倍の頭の重さをしているんだろう。たしかにこんな鉛みたいな考え方じゃ、いつまでたっても変われないよな。
さっきから彼女の言葉はまるで魔法の呪文のようにオレの心に響いてくる。聞いてるうちに何でもできそうな気がしてくる。
そして、次の言葉がとうとうオレを突き動かした。
「たまには委ねてみなよ。風に身を任せたら、案外遠くに飛べちゃったりして」
風に任せる、か。うまく乗りこなせたら、予想外な場所へ連れて行ってくれるかもしれないな。だからもう文句を垂れるのはやめよう。オレは黙って頷いた。彼女はにっこり笑ってくれた。
有難うよ、オレよりずっと若い魔法使いさん。

5/14/2024, 9:08:22 AM

なんで。

こうなるの。




好きになんかならなきゃよかった。

5/13/2024, 9:28:31 AM

ずっと子どものままでいられたら、あの人のこと独占できるのにな。
だからあたしは大人になんかなりたくない。
子どものままなら、あの人が心配してくれるから。
あの人が、あたしの名前を呼んで毎日駅まで迎えにきてくれるから。
今日もほら。
あたしの分の傘まで持って改札の前で待っててくれる。

はずだったのに。
あの人は一人じゃなかった。
隣りに綺麗なお姉さんも立っている。
あんな綺麗な人見たことない。
私に気づくとにこりと笑って顔を傾けた。
同じアパートに引っ越して来たんだって。
それで、意気投合してお付き合いを始めたんだって。
“意気投合”って言葉ですべてを片付けられた気がした。
美鈴ちゃんもいつかきっと素敵な人に出会えるよ、って。
そんな無責任なことも言われた。
大人ってみんなこう。その場しのぎのことしか言わないの。
だからあたしは子どものままでいい。

あの人とお姉さんは、私を送り届けたあとまた駅に戻っていった。
これから電車に乗ってどっか行くのかな。
子どものあたしには分かんないけど、そう遠くないうちに2人は一緒になる気がする。

くやしい。

くやしいくやしいくやしいくやしいくやしいくやしいくやしい。

大人にならなきゃ勝てないじゃん。
子どものままでいたいのに、これじゃ最初からあたしの負けじゃん。
それを知ってから、あたしはもう子どものままでいたいなんて思わなくなった。
明日から、あたしは大人になる。
何をもってして大人に認定されるのか知らないけど、あの人の知らないところでこっそり大人になってやるんだから。

5/12/2024, 8:24:01 AM

あの頃のあたしって。
常に何かにイライラしてて、目に映るもの全部敵だと思ってた。
当然好きなものなんてないし、毎日に希望なんか欠片もない。何のために生きてんのかなーって、他人事のように思ってたわけ。もともと生きることに執着薄かったしね。
こんな人生いつ終わったっていーや、って思ってた。でもってそんな日は、誰にも気に掛けてもらうことなく静かに死んでくんだろうなって。
そんなふうに、ついこないだまで思ってたんだよ。自分は生きる価値ナシって。まるで呪文のように呟いてたの。
それがあなたと出会って全部ひっくり返った。夢とか希望とか、バカ過ぎて口に出すのもイヤだったものたちを考えるようになった。
そのことも物凄い成長だけど、何より1番の変化は、愛というものを知った。
大切な存在ができた。愛を叫びたい人がいる。それって私にとって革命って呼んでもいいくらい凄いこと。あの頃の私に見せてあげたいよ。人はここまで変われるんだってところをね。
愛はひとりじゃ見つけられないし作れないから、あなたには本当に感謝してる。こんなあたしのこと、見捨てずに助けてくれてありがとう。あなたはあたしの恩人。大切な人。愛してる人。
あなたがいなかったら今のあたしはなかった。だから、こうして生まれ変わった今だから、これからはあたしがあなたに目いっぱいの愛を与えたいと思う。愛は見えなくて分かりづらいものだけど、あなたに届くように、これからもずっと、叫び続ける。

5/11/2024, 1:02:03 AM

こうやって芝生の上に寝転ぶのは子供の頃以来だろう。たまには空を見上げるのもいいもんだと思った。そうすることで、自分のちっぽけさを感じられる。今抱えてる悩みとか不安が、この青に呑み込まれていくような不思議な感覚を味わうのだった。

時々、言葉が心に追いつかない時がある。あの人を失ったのもそれが原因だったのだろう。だから間違いなく僕のせいだ。それを思っては塞ぎ込む毎日だった。総て忘れて、あの日の僕らに戻れたなら。何度も何度も願ったけどそんなことは叶うはずがない。時間は巻き戻せない。人生はやり直せない。それを今、寝転んで見上げる青空に言われているような気がした。

不意に白いものが視界に入り込んでくる。ふよふよ浮遊する正体はモンシロチョウだった。壮大な青の中に白く小さなその生き物が映える。僕はたたじっと見つめていた。一定の決まりもないその動きは、自然と僕の興味をひくのだ。
その蝶が、何故かあの人と重なった。無軌道に動く様子も、小さくて白いところも、音もなくどこかへ飛んでいってしまうところも。似ているところが多すぎた。僕は咄嗟に手を伸ばすけど、所詮捕まるはずがなかった。容易く僕の手をすり抜けて、その白い小さな生き物は行ってしまった。こんなところまであの人と似ているのか。嫌だな。春が嫌いになりそうだ。

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