こうやって芝生の上に寝転ぶのは子供の頃以来だろう。たまには空を見上げるのもいいもんだと思った。そうすることで、自分のちっぽけさを感じられる。今抱えてる悩みとか不安が、この青に呑み込まれていくような不思議な感覚を味わうのだった。
時々、言葉が心に追いつかない時がある。あの人を失ったのもそれが原因だったのだろう。だから間違いなく僕のせいだ。それを思っては塞ぎ込む毎日だった。総て忘れて、あの日の僕らに戻れたなら。何度も何度も願ったけどそんなことは叶うはずがない。時間は巻き戻せない。人生はやり直せない。それを今、寝転んで見上げる青空に言われているような気がした。
不意に白いものが視界に入り込んでくる。ふよふよ浮遊する正体はモンシロチョウだった。壮大な青の中に白く小さなその生き物が映える。僕はたたじっと見つめていた。一定の決まりもないその動きは、自然と僕の興味をひくのだ。
その蝶が、何故かあの人と重なった。無軌道に動く様子も、小さくて白いところも、音もなくどこかへ飛んでいってしまうところも。似ているところが多すぎた。僕は咄嗟に手を伸ばすけど、所詮捕まるはずがなかった。容易く僕の手をすり抜けて、その白い小さな生き物は行ってしまった。こんなところまであの人と似ているのか。嫌だな。春が嫌いになりそうだ。
5/11/2024, 1:02:03 AM