ゆかぽんたす

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3/23/2024, 8:28:26 AM

プレゼントをくれるし、おはようのメールも送ってくれるから自然と期待しちゃったの。ある日勇気を出してこっちからメールしてみた。“今度いつ会える?”って。そしたら、“君が会いたいと思った時”なんて返ってきたから飛び上がるほど嬉しくなったんだ。知らないうちに好きになってた。もうこの気持ちは止められない。あなたのこともっといっぱい知りたいなって心の底から思ったよ。

でも、待てど暮らせどあなたは私の前に姿を見せてくれない。あの日と同じように会いたい気持ちをメールしても、適当な返事が来る時もあれば既読スルーの日もあった。おかしいな、なんでかな。会いたいのって、もしかして私だけ?変な違和感を覚え始めつつ駅までの道を歩いてる。今日はバイトの日だから、向かうためにこれから電車に乗る。
いつもの、3番ホームで電車を待ってる時。向かい側のホームにあなたを見つけた。すごい偶然。私のことに気づくかな。ちょっと期待をしながら数十メートル先のあなたを見つめる。届け、私の思い。
でも、次の瞬間あれって思った。後ろから知らない女の子がやってきて、あなたの右腕に抱きついた。あなたは笑いかけながらその子の頭を撫でる。誰なんだろう。すごく仲が良さそうに見える。妹とかいうオチじゃないことくらいは分かる。妹でも姉でも従姉妹でもないのに腕を組める存在。答えは1つしかなかった。
「……なぁんだ」
私の独り言を呑み込むように電車が滑り込んでくる。あなたとその子は見えなくなった。それで良かったと思った。これ以上見ていたくなかった。
「バカみたい」
小さく呟く私の前で電車の扉が開く。暖房と人ごみのもわっとした嫌な熱気を感じた。どこまでも生温く、肌当たりは良くない。
今まであなたが私に向けた優しさも多分、こんな感じのものだったんだな。
尚更思った。バカみたい。

3/22/2024, 9:47:18 AM

「今日からここがあなたの部屋よ」
お母さんがそう言いながら僕を案内した。新しい家の新しい部屋。お母さんも新しい人。全てが今までのものとまるっきり違うから、僕だけが古い人間のような気がした。
案内された部屋はベッドと机と椅子以外は何もなかった。窓が1つ。カーテンもまだない。殺風景な部屋の隅に座り込む。真ん中に座らなかったのは、どうにも隅っこじゃないと落ち着かないからだ。
じっと、膝を抱えて俯いていた。何分何十分そうしていたか分からない。膝小僧に水がぽたぽた落ちてきて服の袖で拭った。僕の涙だった。
その時突然ドアのノックの音がする。この部屋のドアを外から叩いている誰かがいる。こんな時に誰だ。さっきの、新しいお母さんかな。できるなら今日はもう1人にしてほしかった。だけど僕は“聞き分けのいい子”を演じないとお父さんに叱られるから。深呼吸を軽くしたあと扉を開けた。立っていたのは1人の女の子だった。僕よりずっと歳下に見える。ひと回り以上違うかもしれない。誰だろうと思っていたら、
「だぁれ?」
向こうから質問をされた。僕は名前と歳を教えて、今日からここでお世話になる旨を伝えた。こんな小さな子に親の再婚の話をしても果たして通じるかどうか分からなかったからやめておいた。ついでに、“きみのお兄ちゃんになるんだよ”ということもひとまずは伝えなかった。だっていきなり現れた僕が兄になるだなんて、そんな重要なことを簡単に言っていいわけがない。こういうのは親が一緒にいる時じゃないと駄目だと思ったから。
「ふぅん」
その子は適当な返事をしてそのまま僕の部屋に入り込んできた。僕の存在をあんまり深くは考えていないらしい。かと思ったらワンピースのポケットをまさぐり、取り出した何かを僕に見せる。
「きれいでしょ」
「……これは、何?」
「なんかのホウセキのカケラだよ」
あげる、と言って僕に向かって差し出してくる。綺麗なエメラルド色の小石みたいなものが、その子の手の中できらきら光っていた。だがどうみても紛い物である。
「どうして僕に?大切なものなんじゃないの?」
「タイセツだけど、おにいちゃんにあげたら、きっとタイセツにしてくれるきがするから」
今彼女が言った“お兄ちゃん”は、そういう意味は持ち合わせていないのに、呼ばれた瞬間なんだか心がふわっとした。嬉しさなのか恥ずかしさなのか分からない不思議な感覚。くすぐったい、が1番近いかもしれない。
「あたしずっとひとりだったの。ヒトリボッチあきちゃった」
「そうなんだ」
「でもきょうからはフタリボッチだからうれしいな」
笑った顔がとても可愛らしかった。守ってあげたいと思った。親の都合で嫌々に受け入れた再婚だったけど、ずっと潜んでいたその呪いの気持ちのような感情が、この子の笑顔を見たらどこかへ消えてしまった。今日から僕は、この子の兄になるんだ。
「これからよろしくね」
「うん。どういたしまして」
「それを言うなら、“こちらこそ”だよ」
新たな生活は絶望ばかりじゃないかもしれない。根拠もないのにそう思えた。手のひらのエメラルドの石がきらりと光った気がした。

3/20/2024, 1:35:25 PM

きっとこれは夢なんだ。だってそうでしょう?土曜日は貴方は私に会いに来てくれるはずがないもの。土曜日の貴方は、あの子のもの。それをちゃんと分かってるから会いたいなんて言わないし、変に連絡送ったりしない。ちゃんと聞き分けいい女でいたいから。じゃなきゃ貴方にいつ捨てられちゃうか分からない。それだけは、絶対に嫌だから。
なのに今日、あり得ないのに貴方が私のアパートのドアの前にいる。インターフォンが鳴って、モニターで確認した時は心底びっくりした。本当は嬉しいはずなのに、なんでどうしてとか、きっとこれは夢なんだとか、否定的な気持ちが先走る。普段起こらない出来事が起こるとどういうわけか胸騒ぎがしてしまう。でも、このまま突っ立っていても仕方ないから私は扉の鍵とチェーンを外した。
「やぁ」
知ってる笑顔と声がそこにあった。
「どうしたの?」
「なんとなく、君に会いたくなって」
思いきり抱きつきたかった。だって私に会いに来てくれたんだから。もうこの際どういう経緯でここに来られるようになったかなんてどうでもいい。貴方が私に会うことを選んでくれただけでもの凄く嬉しい。そう思っても、それでも身を委ねようとしなかったのは1つだけ違うものを発見してしまったから。笑い方も落ち着いた声もいつもと変わらない。けれど纏う香りが違った。石鹸のようなその香りは私も彼も持っていない。こんなに清楚で無垢な香水を纏わない。
「今日はなんだか疲れたよ」
彼は言いながら私の家に上がりこむ。もう勝手を知りつくしたこの1LDKの間取りの、洗面所のほうへと足を進める。
「シャワー借りるね」
「……うん」
ここに来る前にあの子と居て、どんな理由か知らないけれど追い出されでもしたのだろう。だから私のもとへ来た。相変わらず都合のいい女にされていると思った。でも、そんなの今に始まったことじゃない。この人のことを好きになってしまった瞬間から、私はただの都合のいい女なんだ。辞められるものならとっくに辞めている。でもできない。あの日から私は、醒めない夢をずっと見続けている。
「お風呂、一緒に入る?」
シャツを脱ぎながら彼が私に微笑みかける。その顔を見るたび夢から醒めるのがまた遠のいてしまう。貴方がそうやって私に悪夢を与え続けるから、今日も私は貴方の望む女を演じてしまう。本当に、馬鹿だと思う。
「おいで」
差し出された手。何の躊躇も無く掴んだ。上体が裸になった彼に抱き締められて勝手に鼓動が高鳴ってゆく。これは夢だと分かっているのに。
でも分かっているからこそ、いい気分を味わっていたいの。いずれ醒める夢ならば尚更。そうなる前に、私のことをたっぷり甘やかしてほしいの。これが偽りの愛だなんて今はどうでもいいから。見せかけでいいから、夢が醒める前に私にたっぷりの愛と優しさと温もりをください。

3/20/2024, 9:20:29 AM

振られたのか、私の方から振ったのか曖昧な終わり方だった。けどそんなのどうだっていい。終わったことに変わりはないの。そしてそのことに意味も理由も求めちゃいない。始まりはいつも理由があるけど、終わりにはそれが必要ないから。来たるべき時に終焉を迎えるんだと、そう思ってる。
「じゃあ、とっとと忘れちゃえば?」
「え?」
カウンターの隅で1人で飲んでいたら突然降ってきた声。顔を上げると1人の女性が立っていた。歳は同じか少し上くらい。長い髪と赤いリップ、ほんのり漂ってくるオリエンタルノート。大人の雰囲気がすごい。何より整いすぎたその美貌は同性の私であっても息を呑むほどだった。
当然、こんな女性と知り合いなわけがない。というかさっきのは私に言った言葉なのだろうか。恋人と別れたことを誰にも言ってないし、そもそも今1人でいるのだから話す相手もいない。
「どうしてそんなこと言うのって顔してる」
「え、あ……まぁ」
「なんか捨てられた子猫みたいな顔してたんだよね。だからついほっとけなくて」
謎の彼女は私の隣に座って長い脚を組み、頬杖をついた姿勢で私のほうへ向くと、
「もう飲まないの?」
「あ、もう……いいかな」
「そ。じゃ行きましょ」
「え、あの、ちょっ」
彼女は私の腕を掴んだかと思うと店を出ようとする。
「ま、待って!会計――」
「もう済んでる」
いつの間にか、私らが座っていたカウンターテーブルには紙幣が置かれていた。彼女はぐいぐい私を引っ張ってゆく。店から出てエレベーターに乗り込むと『R』ボタンを押す。このバーは高層のテナントビルの中にある店だった。だが屋上に行ってどうすると言うのか。わけが分からないまま連れてこられて、扉の向こうに広がっていたのは美しい夜景だった。深夜の時刻になってもまだまだ眠ることがない大都会。
「綺麗……」
「落ちた時は美しいものを見るのが1番よ」
彼女はそう言って指をパチンと鳴らす。すると突然、消えていたオフィスビル群の灯りが一斉についたのだ。何棟というレベルではない。視界から見渡せる範囲だとおそらく何km四方の範囲で一斉に光がついたのだった。啞然としている私の隣で彼女はクスクス笑っている。驚きすぎて言葉が出ない。一種の大規模なマジックを見ているようだ。そうか、彼女はきっとマジシャンなんだ。だからさっき私の心の中も読めたんだ。だってそう思うしか説明がつかない。そんなことを考えていたらまたも彼女は私の心を見透かす。
「あたしのことなんていいの。嫌なことを忘れることに気持ちを使って」
ちょん、と綺麗な人差し指が私の鼻に触れてきた。不思議な感覚。このお姉さんのこと何一つ分からないけど出会えて良かった、一緒に夜景を見られて良かったと思ってしまう。そう感じたら振った振られたなんてもうちっとも気にならなくなっていた。彼女が微笑んで夜空に手をかざす。その仕草が上品で艶かしくて、次はどんな奇跡を見せてくれるんだろう。そんな期待をしてしまう。胸が高鳴る。心が踊る。真夜中の大都会を見下ろしながら、私は彼女の魔法にかけられている。

3/19/2024, 8:24:30 AM

こんなに愛しているのに、
好きと伝えることも許されないなんて。

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