ゆかぽんたす

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1/19/2024, 12:49:29 PM

たとえば。
見えない敵と戦っている夜に、どうしても誰かにそばにいてほしくて。「大丈夫だよ」って言いながら私のこと抱きしめてくれるような、そんな優しさを求める時がある。その相手はいつだって君で、なのに、会いたくてたまらない時に限ってそれが叶わない。

君の人生の何パーセントが私で構成されているんだろう。2パーセントくらいは、私で埋めてほしいな。私はというと、君がいないと途端に駄目になるからあながち100パーセントなのかもしれない。重いかな。依存しすぎかな。でもやっぱり、君無しじゃ駄目で、今すぐにでも君に会いたくて。

泣きそうで、助けてほしくて。

今日ほど、夜が長いなあって思ったことはない。今日眠れるかな。明日はご飯食べれるかな。明日になったら笑えるかな。1人でいると余計なこと考えちゃう。きっとこんな悩みも、君に会ったら一気に消え失せちゃうんだと思うよ。

だから。
もう駄目、ってなる前に、早く君に会いたいよ。

1/18/2024, 2:00:52 PM

1月7日
明日から新しい学校だ。変な時期に転校だからとけ込めるか、不安。緊張するし憂うつ。でも、がんばるぞ。


1月8日
クラスの人たちは静かな人たちばかりだった。私がよろしくお願いします、と言ったら静かにお辞儀された。なんか冗談とか言いづらい雰囲気だった。今日は1人で帰ったけど、明日は誰か声かけてくれないかな


1月9日
移動教室とか、2人ひと組になって受ける授業が好きじゃない。だって誰も私に声かけてくれないから。今日の体育はとりあえず数が半端な男子と組んだけど、あんまおもしろくなかった。


1月12日
なんか新しい学校楽しくない
でもまだ1週間も経ってないんだから、そこまで落ち込むことじゃないよ。きっと、大丈夫だよね


1月17日
私のことをヒソヒソ喋ってる女子グループがいた。どこの学校にもそういうやつはいるんだな。やなかんじ


1月22日
つまんない。居場所がない。毎日朝になるとお腹痛くなる。ママにはほんとのこと、言えない





ここから先は白紙だった。
そういえばそうだったな。あの頃、転校先が嫌で嫌で仕方なかった。学校なんか無くなっちゃえって思ってた。
あの頃はきっと物凄く辛かったに違いない。でも、20年経った今はあの時のことなんか半分忘れかけてる。当時のことをこんなふうに冷静に考えられる。大人になったんだなと思う。あんなこともあったんだなあ、って、思えるようになれた自分を褒めたくなる。
そして、私は白紙のページをもう1枚捲ってペンを滑らせた。

 
2024年1月18日
昨日は、人生の一大イベントdayでした。彼から、プロポーズを受けました。ずっと一緒にいたいって心から思える人に巡り会えたことすごく嬉しい。
せっかく見つけた日記がこんなにも白紙が残っていたので、また今日から記したいと思います。あの頃の私も驚くくらい、楽しい出来事で埋め尽くせるといいな。


まるで、閉ざされてたものが20年ぶりに動き出した、そんな不思議な感じ。
明日はどんなことが起こるんだろう。
気持ち穏やかに、日記を閉じて引出しの中へしまい、「また明日」と呟いた。


1/18/2024, 2:50:49 AM

元気ですか?
こっちは昨日、木枯らしが吹きました。
そのせいで落ち葉が舞って、道路に沢山落ちてたよ。
掃除してくれるボランティアのおじさんは大変そうだったけど、私はその風景を見て綺麗だなあって思ったの。赤っぽいのや黄色いの、色んな色が地面に敷き詰められてるみたいで、まるで自然の芸術みたいだなって。
あれ、なんかちょっと夢見がち発言だった?でも、こんなふうに考えられるのは良いことだと思ったの。外の景色に目を向けられる余裕があるってことだから。それでもやっぱり、あなたと離れて寂しくないなんて思えることはないけどね。

そっちはどうですか?
日本みたいに四季がはっきりしてないんだよね。1年じゅう暑いって聞いたよ。日差しが強いんだってね。
次、あなたに会った時気づかないくらいに真っ黒に日焼けしてたらどうしよう。別に、そんなことで愛想尽かしたりしないから心配しないでよ。でも間違いなく、去年よりあなたは見た目が変わってると思う。こないだ送ってくれた写真見て思ったもん。私がそばにいないからって、甘いものばっかり食べちゃダメだからね。

日本はまだまだ寒いです。
でもいつかは春が来るから、また桜が咲いて暖かくなるから。それが私は楽しみです。あなたに会えるの、もう少しかなってほんのり期待を持ちながらこの冬も過ごしてるよ。そう思ってるだけで風邪引く気がしないから不思議だよね。
あなたにまた会えるまで元気でいるつもりだから心配しないで。でも、時には私のこと恋しく思ってよね。
あなたも身体には充分気をつけてください。
また連絡します。
愛を込めて。

1/17/2024, 9:22:12 AM

音楽室のピアノの前に彼女はいた。座っているだけで弾く素振りはない。僕の立っているところからだと顔は見えないけど、きっと泣いてるんだろうな。
「おつかれさま」
僕の声にはっとした彼女は勢いよく顔を上げる。でもこっちを向こうとはしなかった。
「探したよ。帰ろう?」
「……うん」
返事はしたけど、彼女は立ち上がろうとしなかった。再び鍵盤を見るように俯く。
「ダメだった。選ばれなかった」
「そっか」
「でも、全力出し切ったから、いいの」
「なら、自分を褒めてあげようよ」
「でも……くやしい」
学内で1人しか選ばれないのだから、それはそれは狭き門だ。ピアノなんてさっぱりな僕でもそれくらいは分かる。課題曲なの、と言って今まで毎日僕に聞かせてくれたあの曲の難しさも、なんとなく分かる。でも、君が選ばれなかった理由は僕には分からない。技術的な点数配分なのか、審査した先生のフィーリングもあるのか、それは分からないけど。
「君の演奏は間違いなく素晴らしかった。僕の心が震えたもの」
彼女の背後にそっと立って肩を抱く。震える華奢な肩が愛おしくて。ゆっくりと彼女の顔を覗き込んだ。涙でぐしゃぐしゃの顔がこっちを向いた時、自然とキスをしていた。
「次は、負けない」
「うん。君なら絶対大丈夫」
僕の言葉に彼女はほんのり笑った。頬から流れるその涙がすごく美しいと思った。

1/16/2024, 3:20:26 AM

「トドメだ」
勇者は剣を振り上げた。眼の前に崩折れる魔王に向かって。
――これで終わりだ。コイツを倒せば、またこの世界に平和が訪れる。そして僕は英雄になり、この先も、未来永劫僕の名は語り継がれるんだ。
「……何故トドメを刺さん」
その声で勇者はハッとした。そうだ。僕は今からコイツを殺そうとしていた。なのにどうして身体が動かないのだろう。コイツを討てば全てが終わり、皆が喜ぶというのに。
――本当にそうなのか?魔王の命ひとつでこの世界は元通りになるのだろうか。そんな、簡単なエンドロールで良いのだろうか。
自分で自分に問いかけてみても、そんなことさっぱり分からない。けど、ここであっさりとこの魔王を倒すことを躊躇してる自分がいた。
「どうした。ここに来て躊躇うというのか。それとも、俺様に情けをかけるつもりか?」
「違う。でも、世界を平和に導く方法に、お前を殺す選択だけじゃない気がするだけだ」
「フン。全くもって意味が分からんな。俺様を生かしたままで世界を治めようとでもいうのか。そんな真似、他の連中が許すわけなかろう。混乱を招きたくないのならさっさと俺様を殺ることだな」
魔王はもう戦う意志がないらしく、無防備に勇者の前で寝そべっている。本当に、やるなら今だ。だが剣を握る手は鉛のように動かなかった。
――もう、嫌なんだ。これ以上はもう、重ねたくない。
自分の心がそう叫んでいた。魔王が可哀想でも許したわけでもない。はっきり言ってコイツは憎い。でも、それでも。もうこれ以上血を浴びるような行いをしたくないと心が叫んでいた。それに気付いてしまったと同時に、勇者は戦意喪失してしまう。
「僕は、」
勇者だ。勇者は悪を倒すのが宿命。けれどその前に僕は1人の人間だ。これ以上はもう、無駄な殺生をしたくはない。
カラン、と音がした。剣が手から滑り落ちたせいだ。武器を手放した勇者は魔王に一歩近づく。
「僕は戦いを放棄した」
「……何だと」
「でもこの世界を平和へ導く気持ちは変わらない。それを、お前の命が有っても無くても出来るということを証明する」
「ハッ。とんだ世迷言だな。そんなことできるわけがない」
「できるさ。願えば、どんなことでも叶うんだ」
「おめでたい頭の持ち主だ」
「何とでも言え。絶対に、証明してみせるさ。そして、お前は俺のおかげで命拾いしたことがいつか正解だったと思わせてやる」
願えばなんでも叶うと思うのは浅はかだと言う者もいるだろう。けれど僕は証明する。強い願いが希望になるのだと。この世界は、救えるのだと。今にも昇る朝日に向かって、勇者はそう誓った。

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