ゆかぽんたす

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11/2/2023, 8:50:42 AM

いつもの帰り道、いつもの交差点。
いつもの信号につかまる。隣を見ると夕陽に照らされたキミがいつものように穏やかな顔して立っている。

全て、いつも通りの日常。
なのに突然不安になった。
いつもと変わらずキミが隣りにいること。
果たしてそれはこの先も約束されてることなのだろうか。

信号はまだ変わらない。僕は隣のキミの肩を抱いた。歩行者は他にも沢山いるというのに。構うことなくキミの体を引き寄せた。
「わっ。どしたの」
「何でもないよ」
「何でもなきゃ、こんなこといきなりしないでしょ」
「……別に。何でもないんだ、ただちょっと考え事してて嫌になっちゃっただけ」
「どんな?」
「キミがこうして僕の隣にいることは、当たり前じゃないから」
「……なにそれ」
訝しげな顔をされた。彼女はしっかりと僕に向き直って、僕の額に手を当てる。別に熱なんかない。
「じゃ、変な宗教にでもつかまった?」
「そんなんじゃ、ないよ」
そんなんじゃないけど、不意に不安に襲われる時ってあるでしょ。そう言ったけど、彼女はいまいち分からないという反応を見せる。キミは生きてる上で悩むことがないのか。羨ましいな。
「この瞬間は、永遠じゃない。言い換えるならば、この幸せな時間は永遠に戻らない」
何を詩人みたいなことを言ってるんだと自分でも思った。けど彼女は笑わなかった。真剣な目で僕を見つめ返してくる。もうとっくに信号は青になっていて、立ち止まっているのは僕らだけだった。
「永遠じゃないから、幸せなのよ」
「……どういう意味?」
「楽しいことがずっとずっと続いたらそれは当たり前になるの。嬉しいことが突然起こったら幸せ。何回か連続したらラッキー。それ以上続いちゃったら、感動しなくなっちゃうでしょ?」
だからいーの、永遠に続かなくて。
彼女の持論を聞いたけど、僕はあまり納得できなかった。
「じゃあ、キミと一緒にいられることは幸せなことだから長く続かない、って言うの?」
「……あのさ、ほんとに何かあった?幸せって、あたしたちのこと、考えてたの?」
「そうだよ」
「なんで?なんか嫌な思いさせた?あたし」
「違うよそういうんじゃない。ただ不意に思っただけだよ、幸せなことっていつまで続くのかなぁって」
「ハアァァァーーー……。えいっ」
「んぐっ」
大きな大きな溜息を吐いたかと思うと、彼女は僕の首根っこに抱きついてきた。それはなかなかの勢いで首が締まるかと思った。
「もーそんなこと考えてたの?くだらない。そんなことに脳みそ使わないの。禿げるよ」
「くだらないなんて……そんなふうに思わないでよ」
「あたしはね、今が楽しければそれで良いの。いつまでも、とか永遠に、とか考えない。未来ばっか想像したってどうせ見えないんだから無駄でしょが。だったら今を楽しむのっ」
「あいだっ」
最後に強めのデコピンをお見舞いされる。彼女は僕から離れて1人で先に横断歩道を渡りだした。
「ほらっ、置いてっちゃうよー」
「待って――――」
信号は点滅しかけていた。僕は慌てて走り出す。彼女が向こうで両手を広げて待っている。人目も気にせず、その小さな体に抱きついた。

夕陽が綺麗だ。
いつもどおりの景色。
いつもどおりの彼女からする柔軟剤の匂い。
今日も1日が平和だった。
それは明日も約束されているのか。
明日も彼女は僕に笑ってくれるのか。
時々そうやって不安になるけど、そんなことを考えるのはもうやめた。

今が楽しい。今日が幸せ。
なら、明日だって絶対幸せに決まってるんだ。

11/1/2023, 2:16:17 AM

災害もなく動物と人が共存し自然に愛される。
花が咲き乱れ同じ刻を過ごし人々が手を取り合う。
皆平等に衣食住が与えられ戦も嘘も生まれない。


果たしてそんな世界は存在するのだろうか。
今息を吸って吐いたこの一瞬でさえ、きっと僕の知らないところで、誰かが泣いたり命を落としてるんだろうな。

理想郷は綺麗事の塊だ。 
考えるだけで気持ちが沈む。
そもそも“理想”ってなんだろうか。それは僕の?皆の?
僕だけのだったら、ただ好き勝手喋るだけで済む。聞きたい奴だけが耳を貸せば良い。
けれど基準が皆のための理想だったのなら。それはこの上なく難しいと思う。この世の人達全員が右向け右をするのは不可能だと思う。同じ理想を掲げるのは無理な話だと思う。だから、“皆が必要とする理想”の正解は無いと思う。

それを踏まえたらやっぱり、理想をあれこれ考えて述べる行為って意味ないのかな。
よく聞く言葉だけど、理想と現実は違うから。

だから僕は理想を追求しない。
今日の月を眺め、明日の朝日を浴びるだけ。
さて、そろそろ寝るか。

おやすみなさい。

10/30/2023, 1:42:35 PM

まだ、今みたいにこんなに家が立ち並ぶ前に。
近所にそれなりに大きい公園があったんだよね。
で、日が暮れるまでキミと遊んだ。
1番楽しかったの、何だった?
僕はシーソーかな。
だって1人じゃできない遊びだもん。
でもさ、キミがあまりに軽くて全然意味なかったんだよ。 
で、キミったら僕になんて言ったか覚えてる?
「もう少しダイエットしてよ」って言ったんだよ。
衝撃すぎてまだ覚えてるよ。
多分これはずっと忘れられないな。
キミとシーソーしたこと、これは僕の中でいつまでも残る思い出さ。
もちろんそれ以外にも沢山あるけどね。
でも、なんでだろうね、楽しい思い出もあるけど悲しい思い出も覚えてるんだ。
例えば、キミの引越しが決まって真っ先に僕に会いに来た日のこと。
離れたくないよ、って言ってた時のキミの涙。
そしてこの街から去った日のこと。
どれもこれも覚えてるよ。
思い出すたびに、キミの存在は僕にとって特別だったんだと思い知らされる。
あの頃が懐かしいな。
キミは今何してる?
幸せなら、それでいいけど。
僕みたいに、たまにはあの頃を思い出したりするのかな。
そうだったら、いいな。
いつかまた一緒に話せる日が来るといいな。
あの頃楽しかったね、懐かしいね、って。
そんな日が来るといいな。

10/30/2023, 6:17:47 AM

勇者は魔王を退治し、世界に再び平和が訪れたのでした。
めでたしめでたし。










しかし、本当は魔王は勇者を愛していたのです。
女戦士として、何度も自分の命を取りに向かってくる彼女の相手をしているうちに、いつの間にか恋い焦がれていたのでした。
何度も自分と彼女の地位身分を恨みました。自分が“魔王”でなかったら。彼女が“勇者”でなかったら。きっと違う未来が待っていたであろうに。お互いに敵対する関係に生まれてなければきっと、自分は彼女とひとつになれたかもしれないのに。
でもそんな思いは最後まで彼女に届くことはありませんでした。実際に愛していた気持ちを伝えることさえ阻まれたからです。彼女は魔王である自分を倒すことで、国王の第一子息と婚約することが約束されていました。それは彼女自身も望んでいたことでした。最初から自分のつけ入る隙なんか無かった。そのことを思い知った魔王は素直に彼女にトドメを刺されることを選びました。最期の一撃を喰らう直前、懐に入り込んできた彼女の頬に少しだけ触れました。数多の戦を経験しているとは思えないほど滑らかな白い肌でした。本当は、この身体を自分のものにしたかった。決して叶うことのない願いを抱えながら魔王は彼女の手によって滅ぼされたのでした。彼女が幸せになれるのなら自分が消えることを選ぼう。本当は心の優しい魔王でした。でも誰もそんなことを知る人はいませんでした。魔王は最期まで誰にも思われることなく、ひとり寂しく死んだのでした。

10/29/2023, 5:28:37 AM

「わ、もうこんな時間だ」
「終電どう?間に合いそう?」
「うーんと、走れば、なんとか」
しかしそういう時に限ってエレベーターの到着が遅い。このフロアにいるのは私達の他には誰も居なかった。きっと、この建物の中にだってもう殆どの人間が残っていないだろう。なのにさっきから呼んでいるエレベーターはいつになっても来ない。
「……階段で降りようかな」
「20階以上あるけど、大丈夫?」
「ですよねぇ。あはは、やっぱ無理か」
冗談なのか本気なのか、言った自分でもよく分かっていなかった。とにかく急がないと帰る術が無くなってしまう。私も先輩も電車だけどお互いに乗る線が違う。私のほうが終電は30分以上も早い。これを逃したら間違いなく帰れない。それだけは絶対に避けたい。
「神崎さんさぁ」
ふいに先輩が私の名を呼んだ。つられて隣を見ると先輩は酷く真面目な顔をしていた。
「隣の部署の……なんて言ったっけ、こないだ中途で入ってきた男の」
「あぁ、瀬戸くん」
「そう、そんな名前。あの彼と付き合ってるの?」
「え?」
最近仕事の内容でわりと話すけど、そんな関係にてはない。何を突然先輩は言い出すのかと思った。
「付き合ってなんかいませんよ、ちょっと仕事でお世話になったりしてて」
「それだけ?」
「はい。そうですけど?」
「そっか」
良かった、という先輩の言葉と同時にポン、という音がフロアに響いた。ようやく来たエレベーターに2人乗り込む。さっきよりも視界が明るい。気になって、先輩の顔をもう一度見た。何故かホッとしたような顔をしている。まさか。もしかして、と思った。
「これで付き合ってます、って言われたらどうしようかと思ったよ」
「えと、あの」
「もしそうだったら、今日は君は家に帰れなかったかも」
にこりと。この小さな箱の中で先輩が笑っていた。いつものような優しい笑い方なのに私には不気味にしか映らなった。自分の心臓がびくんと跳ねたのが分かった。先輩から目がそらせない。この感情の名前は何だろうって考えながら早く1階に着くことを祈る。鼓動は物凄い速さになっていた。数秒前の、“もしかして”を思っていた私は何だったのか。ものすごく恥ずかしい。それよりも、今、怖くて仕方ない。
ようやく1階に着いた。けれど先輩はエレベーターを開けてはくれなかった。このままでは終電に乗りそこねてしまう。いや、その前にここから逃げ出したい。先輩の前から逃げ出したい。
「ねぇ、神崎さん」
先輩がボタンを押して扉を開けた。彼を超えたその先に暗がりの世界が広がっている。でも、そっちのほうがずっとマシだと思った。早くこの箱から出なくちゃ。でもこの人を押しのけて行くのは怖い。どうするべきか困惑する私に手が差し出された。
「俺を選んでよ。そしたらここから出ていいよ」
「……なんで」
そうなるの。意味が分からない。でも先輩の目は本気だった。命を握られているような気分になる。これでもし、彼の言う通りにしなかったら私はどうなっちゃうんだろう。もう終電に間に合うかどうかのレベルの話ではない。
「別に今は俺に興味なくてもいいよ。ゆっくり知ってもらえば。でも誰かにとられるのは嫌だから、一先ず俺のものになってよ。ね?」
ずい、と大きな手が私の鼻すれすれのところに伸びてきた。どうすれば。考えている時間なんてない。早くしないとまた扉が閉まってしまう。でも彼の話を両手広げて受け入れることなんてできない。だけどここにずっと居るのも無理だ。
どうしようどうしようどうしよう。泣きそうになりながら立ち尽くすしかなかった。やがて扉がゆっくりと閉まろうとする。外の世界から閉されてしまう。あぁ、神様、と咄嗟に思った。けれど何も起こることはなかった。完全に閉まる直前、彼の口元が怪しく歪んだのが見えた。


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