ゆかぽんたす

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10/9/2023, 7:33:39 AM

大丈夫。

ちょっと疲れただけ。

心配しないで。

ちょっと休んだらまた頑張れるから。

だから少し横になるけど気にしないでね。

またすぐ元気に笑うから、待っててね。

10/8/2023, 8:15:28 AM

「フラれちゃった」
あっさりと、まるで呼吸するかのようにそんなことを言った。続けて彼女は目の前のカップに手を伸ばす。甘い香りが辺りにほんのりと漂っている。
「そうか」
「うん」
会話はそれ以上続かなかった。フラれた理由も相手が誰なのかも今の彼女の心境も。そのどれにも俺は興味がなかった。ただ、折角時間を作って会っているというのに悲しげな表情で俺の相手をするのが許せなかった。本人は何とも無いふうに取り繕っているつもりだろうが、ちっとも平然としている様子には見えない。こんな簡単に見破られてしまっていると言うのに、それでも彼女は平気なフリを続ける。馬鹿馬鹿しい。こんな空気をこれ以上味わってられるか。
だから、思いっきりその華奢な肩を引き寄せ、力を込めて抱きしめた。
「……苦しいよ」
彼女の反抗する声はあまりにも小さかった。弱々しくて、かろうじて聞こえるレベルだった。だから俺は否定とは捉えない。腕の力を今以上に強くする。もっと強く、骨がきしむくらいに抱き締めたい。痛い苦しいと、本気で訴えてくるような、真正面から俺自身と向き合うほどの抱擁を与えたい。
「こんなことして、どういうつもり」
「当ててみろよ」
俺の気持ちを読んでみろ。本当はもう分かっているんだろう。じゃなきゃ心神耗弱している時に会う相手に俺を選ぶはずがない。本当は慰めてほしかったんだろう?だがな、“お前には俺が居る”だなんてセリフ、お前が欲しがっても言わねぇよ。お前自身が、自らの意思で俺を選ばない限り、両手広げて受け止める真似なんてしないさ。つっても今、既にお前を抱き締めてるんだが。これくらいは許せよ。だが次は無い。お前が、俺を選ばない限りは2度目の抱擁は与えない。別に、尻軽だとか変わり身が早いだなんて俺は思わない。だからさっさと俺に堕ちろ。その気持ちを込めて今一度強く抱いたら、震える手が恐る恐る俺の背にまわされた。彼女に気付かれないようにほくそ笑む。ここで甘い言葉を囁くのは、フェアじゃない。これ以上はお前の弱った心には付け込まない。あとはお前が選ぶだけ。さぁ、どうする?

10/7/2023, 8:05:33 AM

あの日。

僕がキミの手を掴まえていたら。
行かないでくれ、と引き止めていたなら未来は変わっていたのかな。 

何度も夢に出てくるんだ。
僕のせいだって、周りから責められ続ける悪夢を。

あの日をやり直すことはもうできない。
過去にはもう戻れない。
嘆いても、何も変わらない。

こんな僕を見たら、キミは何と言うだろうか。
呆れた顔をするだろうか。
一緒になって落ち込む優しさもあるから、もしかして涙を見せるかもしれない。

キミのことを思い出すのは決まって悲しい顔だ。
僕の思い出の中のキミは寂しそうな表情ばかりだよ。
これも僕のせいなんだろうな。
キミを幸せに出来なかった、僕の責任だ。
そんな僕は、辛いとか苦しいだなんて思っちゃいけないんだ。
過ぎたあの日を尊ぶことで赦されることじゃないけれど、
今日もキミの悲しげな顔を思い出しては自分を戒めるようにするよ。


10/6/2023, 8:41:21 AM

「今の時期、1番近い星座って、何だと思う?」
ゴウくんが呟いた。私なんかよりもずっと頭のいいゴウくん。テストの点はいつもほとんど90点以上。飛び箱だって5段以上跳べる、何でもできる子。なのに私たちは今、2人で廊下に立たされている。
「えーなんだろ、ていうか何の星座が今見えるの?」
「今だと……アンドロメダ、カシオペヤ、ペルセウス、秋の星座で有名なのはこいつらかな」
「へぇ。聞いたことあるような名前」
「ギリシャ神話の神の名前だからな」
「ギリシャ神話……」
ゴウくんは私の知らないことをいっぱい知ってる。こういう人を“ハクシキ”と言うことを、こないだなんかのテレビ番組で知った。
「それらの星座にまつわる神話、知ってるか?」
「ううん」
「カシオペヤは古代エチオピアの王妃だったんだ。で、その娘がアンドロメダ。ある日カシオペヤが自分の娘は海の妖精より美しいって自慢したもんだから、海の神ポセイドンの怒りを買ってしまう。その怒りを沈めるためにアンドロメダはいけにえに捧げられるんだけど、そこにペガサスに乗ったペルセウスが現れてアンドロメダを助けたんだ」
「へー」
ほんとに、へー、しか出てこなかった。ゴウくんがペラペラ喋るけど、私の頭に入ったのは正直半分くらいだ。それでも、ゴウくんがすごいというのは良くわかった。頭がいい。ハクシキ。
「なぁ、今日の夜、星、見に行くか?」
「行く!見れる?あんろぼねだ」
「アンドロメダ」
「あ、それ」
ゴウくんが正した名前を頭の中で復唱する。楽しみだな、アンドロメダ。
「キミたちは、ちっとも反省してないのかな?」
「あ」「あ」
声がして、振り向くと、教室のドアから先生が顔を出して睨んでいた。そうだった、忘れてた。私たちはおしゃべりがひどすぎるっていう理由から廊下に立たされていたんだ。ゴウくんは、頭がいいけどよくこんな感じで先生に注意をされている。そのオマケで私も怒られることがしょっちゅう。
「ゴウくん、あんまりミオちゃんを巻き込んじゃ駄目よ。好きな子なら尚さらね」
「え……」
先生の言葉に、ゴウくんは何も答えなかった。ちょうど授業終わりのチャイムが鳴る。昼休みだ。わらわら教室からクラスメートが出てきてどこかへかけて行った。先生は私たち2人に、午後はちゃんと授業を聞きなさいね、と言ってから職員室に向かっていった。廊下に残されたのは私たちだけ。ちらりとゴウくんのほうを見る。いつも自信が溢れているその顔は、真っ赤だった。
「あの、ゴウくん」
「何でもない。夕方、ミオんちの前に集合な」
それだけ言って教室の中へ入ってしまった。もう話し掛けるなオーラを出していたので私は追いかけない。ゴウくんの真っ赤な顔の意味は分からないままだから気持ちがソワソワしてしまう。あとで聞いてみようかな、一緒にアンドロメダ見ながら。なんで赤くなったのって。そしたら教えてくれるかな?

10/5/2023, 1:53:03 AM

「なんてツラしてんだ」
頭上から声が降ってきた。見上げると思った通りの人物。私の機嫌が悪いことにはとっくに気づいていたようで。いつまでも仏頂面をしてると周りが気を使うからやめろ、と言われた。
「……誰のせいよ」
「お前の親父さんも、本心はそういうつもりじゃないんだろうさ」
「でも、だからってひどい」 
今日は私の15歳の誕生日。それを祝うために父が、隣国の要人を呼んで盛大にパーティを催そうと言い出した。けれど蓋を開けてみれば目的は外交関係を深くするための集いにしかすぎなかった。証拠にケーキもプレゼントもない。とりあえず私は正面台座に座らされてるけど、お祝いムードなんてこれっぽっちもない。控えめに流れている音楽にのって踊っている人たちもいるけど、かたやホールの一角では気難しい顔した大人たちが肩を寄せて何やら話をしていた。
「私をだしに使ってまで、そんなに他のお国と仲良くなりたいのかしらね。これじゃ何のためにおめかししたのか分からない」
「まぁそう言うなよ。身分のある人には色々事情がある。仕方ないだろ」
「それは大層な事情ですこと」
皮肉を並べる私の頭に何かが乗った。彼の手だ。幼い頃からずっと私の用心棒をしてくれている。1日のうちで1番行動を共にするのは親でもなく彼だから、私が今どんな気持ちかなんてすぐに読まれてしまう。
「少なくとも、俺はお前の誕生日だと思って今ここにいる」
「ほんと?」
「あぁ。だが申し訳ないことに何も贈れるものがない。お姫様に、個人的なものを贈るのは許されていないからな」
彼は両手を広げて肩を竦める。
「別にいーよ。欲しいものなんて何もないから」
「品物は贈れないが、少しばかり楽しい時間を提供することはできる」
「……どうやって?」
ふ、と笑った後、彼は私の前に跪き手を差し伸べてきた。
「せっかくのダンスフロアーだ。こんなところでじっとしてるのも勿体ないと思わないか?」
ちょうど流れていた曲が終わった。次の曲はわりとゆったりしたテンポだった。わらわらと、男女のカップルがホール中心に集まりだす。
「Devrions-nous danser?」
「……Avec plaisir!」
右手で彼の手を、左手はドレスの裾を持ち立ち上がる。優雅なワルツは不思議と私を祝福してくれるように耳に響いてくる。彼の隙のないエスコートを受けながら私は体を揺らせた。はしゃぐ私を見て彼が目を細めていたことには気づかなかった。

「Bon anniversaire., mignonne」



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