「なんてツラしてんだ」
頭上から声が降ってきた。見上げると思った通りの人物。私の機嫌が悪いことにはとっくに気づいていたようで。いつまでも仏頂面をしてると周りが気を使うからやめろ、と言われた。
「……誰のせいよ」
「お前の親父さんも、本心はそういうつもりじゃないんだろうさ」
「でも、だからってひどい」
今日は私の15歳の誕生日。それを祝うために父が、隣国の要人を呼んで盛大にパーティを催そうと言い出した。けれど蓋を開けてみれば目的は外交関係を深くするための集いにしかすぎなかった。証拠にケーキもプレゼントもない。とりあえず私は正面台座に座らされてるけど、お祝いムードなんてこれっぽっちもない。控えめに流れている音楽にのって踊っている人たちもいるけど、かたやホールの一角では気難しい顔した大人たちが肩を寄せて何やら話をしていた。
「私をだしに使ってまで、そんなに他のお国と仲良くなりたいのかしらね。これじゃ何のためにおめかししたのか分からない」
「まぁそう言うなよ。身分のある人には色々事情がある。仕方ないだろ」
「それは大層な事情ですこと」
皮肉を並べる私の頭に何かが乗った。彼の手だ。幼い頃からずっと私の用心棒をしてくれている。1日のうちで1番行動を共にするのは親でもなく彼だから、私が今どんな気持ちかなんてすぐに読まれてしまう。
「少なくとも、俺はお前の誕生日だと思って今ここにいる」
「ほんと?」
「あぁ。だが申し訳ないことに何も贈れるものがない。お姫様に、個人的なものを贈るのは許されていないからな」
彼は両手を広げて肩を竦める。
「別にいーよ。欲しいものなんて何もないから」
「品物は贈れないが、少しばかり楽しい時間を提供することはできる」
「……どうやって?」
ふ、と笑った後、彼は私の前に跪き手を差し伸べてきた。
「せっかくのダンスフロアーだ。こんなところでじっとしてるのも勿体ないと思わないか?」
ちょうど流れていた曲が終わった。次の曲はわりとゆったりしたテンポだった。わらわらと、男女のカップルがホール中心に集まりだす。
「Devrions-nous danser?」
「……Avec plaisir!」
右手で彼の手を、左手はドレスの裾を持ち立ち上がる。優雅なワルツは不思議と私を祝福してくれるように耳に響いてくる。彼の隙のないエスコートを受けながら私は体を揺らせた。はしゃぐ私を見て彼が目を細めていたことには気づかなかった。
「Bon anniversaire., mignonne」
10/5/2023, 1:53:03 AM