「今の時期、1番近い星座って、何だと思う?」
ゴウくんが呟いた。私なんかよりもずっと頭のいいゴウくん。テストの点はいつもほとんど90点以上。飛び箱だって5段以上跳べる、何でもできる子。なのに私たちは今、2人で廊下に立たされている。
「えーなんだろ、ていうか何の星座が今見えるの?」
「今だと……アンドロメダ、カシオペヤ、ペルセウス、秋の星座で有名なのはこいつらかな」
「へぇ。聞いたことあるような名前」
「ギリシャ神話の神の名前だからな」
「ギリシャ神話……」
ゴウくんは私の知らないことをいっぱい知ってる。こういう人を“ハクシキ”と言うことを、こないだなんかのテレビ番組で知った。
「それらの星座にまつわる神話、知ってるか?」
「ううん」
「カシオペヤは古代エチオピアの王妃だったんだ。で、その娘がアンドロメダ。ある日カシオペヤが自分の娘は海の妖精より美しいって自慢したもんだから、海の神ポセイドンの怒りを買ってしまう。その怒りを沈めるためにアンドロメダはいけにえに捧げられるんだけど、そこにペガサスに乗ったペルセウスが現れてアンドロメダを助けたんだ」
「へー」
ほんとに、へー、しか出てこなかった。ゴウくんがペラペラ喋るけど、私の頭に入ったのは正直半分くらいだ。それでも、ゴウくんがすごいというのは良くわかった。頭がいい。ハクシキ。
「なぁ、今日の夜、星、見に行くか?」
「行く!見れる?あんろぼねだ」
「アンドロメダ」
「あ、それ」
ゴウくんが正した名前を頭の中で復唱する。楽しみだな、アンドロメダ。
「キミたちは、ちっとも反省してないのかな?」
「あ」「あ」
声がして、振り向くと、教室のドアから先生が顔を出して睨んでいた。そうだった、忘れてた。私たちはおしゃべりがひどすぎるっていう理由から廊下に立たされていたんだ。ゴウくんは、頭がいいけどよくこんな感じで先生に注意をされている。そのオマケで私も怒られることがしょっちゅう。
「ゴウくん、あんまりミオちゃんを巻き込んじゃ駄目よ。好きな子なら尚さらね」
「え……」
先生の言葉に、ゴウくんは何も答えなかった。ちょうど授業終わりのチャイムが鳴る。昼休みだ。わらわら教室からクラスメートが出てきてどこかへかけて行った。先生は私たち2人に、午後はちゃんと授業を聞きなさいね、と言ってから職員室に向かっていった。廊下に残されたのは私たちだけ。ちらりとゴウくんのほうを見る。いつも自信が溢れているその顔は、真っ赤だった。
「あの、ゴウくん」
「何でもない。夕方、ミオんちの前に集合な」
それだけ言って教室の中へ入ってしまった。もう話し掛けるなオーラを出していたので私は追いかけない。ゴウくんの真っ赤な顔の意味は分からないままだから気持ちがソワソワしてしまう。あとで聞いてみようかな、一緒にアンドロメダ見ながら。なんで赤くなったのって。そしたら教えてくれるかな?
10/6/2023, 8:41:21 AM