ゆかぽんたす

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9/23/2023, 8:12:21 AM

目を開けると天井だった。ここどこだ?なんか頭がじーんとする。しかもなんか嗅いだことある匂いもするし。
「良かったああ!」
「ぐえ」
いきなりの叫び声と同時に力が加わる。いつもの、幼なじみが思いっきり抱きついてきた。わりと強い。つーか、首が締まって、
「ぐ、るじ……」
「タケちゃん?ねぇ、大丈夫?しっかりしてっ」
離れたと思ったら今度はオレの頭をバシバシ叩きやがった。コイツはオレを殺す気か。
「大丈夫?どっか痛む?」
「……あぁ、大丈夫」
本当は叩かれまくったから頭が痛いけど言葉を呑み込んだ。半べそかいてオレの顔を覗き込んでるコイツを見たら言う気がなくなった。
「タケちゃん覚えてる?なんでここにいるのか分かる?」
「いや、あんまよく覚えてねーんだわ」
ようやく落ち着いて周りを見たらオレは保健室のベッドの上だった。
「ほんとに?覚えてないの?階段4段飛ばしでかっこつけて降りたら最後の最後に踏み外して転んだ上に受け身を取ろうとしたけどそれが失敗して顔面からいったんだよ」
「あ、そう……」
だっさ。目撃者があんまり居なかったことを願う。どうりで腕とかデコが痛いわけだ。よくよく見ると頬や指には絆創膏が貼られていた。
「つーかお前、さっきまで呼んでた?」
「え、呼んでないよ。タケちゃんさっきまで寝てたんだから。でもずっとここにいたよ」
「そーなんか」
「どしたの?……やっぱり、頭の打ち所悪い?」
「いや、そんなんじゃねーよ。でもずっとお前がオレを呼びまくってた気がしたんだよ。それで目が覚めたようなもんだからな」
「……もしかして、渡る寸前だったのかも」
「何を?」
「川」
「は?」
「だから、三途の川を渡るとこだったんだよタケちゃん。それで、私の声が聞こえた気がして引き返してきたんだよ!」
「おいおい……オレを殺そうとするなよ」
「だから死んでないでしょ。無事に戻ってこられたってこと。はぁー、良かった」
と言って、オレの目の前で胸を撫で下ろす。確かに聞こえた気がしたんだけどな。けど、万にひとつそうだったとしたら、オレはコイツに助けられたってことになるな。コイツのお陰で命拾いしたってことだ。
「タケちゃん?なに?まだどっか変なの?ここは保健室だよ。無事なんだよ、私の言ってることわかる?」
「分かるよ、へーき。サンキュ」
「……」
「なんだよ」
「なんか、タケちゃんがお礼言うとか珍しい。やっぱり頭のお医者さん行っとこうか」
「なんでだよっ」
そこは素直に喜べよな。本当に感謝してるんだからよ。

9/21/2023, 11:29:38 PM

流石に。
休日返上で7連勤な上のフル残業はキツい。もはや今日が何曜日かも分からない。曜日どころか月も跨いでいた事にさっきようやく気づいた。どうりで最近帰りの道が肌寒いわけだ。
「はぁ……」
毎日家と職場の往復だけ。家にいる時間のほうが短い今日この頃。帰ったら寝るだけのひどい生活リズム。うっかりメイクを落とさず寝落ちした日なんて片手じゃ数え切れなくなってきた。今日もきっと、そうなるかもしれない。帰って靴脱いで座ったらものの数秒で堕ちそうな気がする。
「はぁ」
溜め息も、呼吸するみたいに普通に出ている。疲労とストレスとその他諸々。こんなにいろいろ詰まってくると流石に弱気になってくる。この仕事向いてないのかな、なんて思い始めたら終わりだ。負の無限ループから出られなくなりそう。だから、溜め息で全部外に吐き出すの。吐きまくって、私の中から弱虫が全部消えてしまえと思う。すぅーっと横隔膜が動くくらい大きく息を吸って、
「はああぁぁ〜……あ?」
ポケットに手を当てた。携帯が震えている。こんな時間に誰だろ。心当りは1人、あった。予想通り、光る画面には気心知れた地元にいる幼馴染みの名前が表示されていた。
「もしもし……」
『よぉー、おつかれさん。もしかして寝とった?』
「……仕事から帰ってる」
『うげぇ、まだ働いとったん?ホンマ、ようやるなぁ』
都会人は働き者やな、と呑気な声が聞こえた。何の相槌もうたなかった。うてなかった。それをするのもしんどいほど疲れてた。あと数十メートルで家だと言うのに。もう無理。
『もしもーし。聞いとる?』
「……も、しんどい」
『……もしもし?』
「つらい。くるしい」
暗い夜道のど真ん中で座り込んでしまった。途端に目から涙が溢れだす。泣くつもりなんてなかった。くるしいと口に出したら勝手に出てきた。1度出てきたらどんどん溢れてきてしまう。顔中ぐちゃぐちゃだ。何分経ったか分からないけど、一応気がすむまで泣いた。鼻をすすりながら電話の向こうにごめんね、と投げかける。
『あかんわ』
「な、にが」
『今、最高に苛ついてんねん、俺』
「え……」
『東京と大阪がこんな離れとることにイライラするわ』
「な、んやそれ……もう」
私のせいかと思ったじゃん。そんなことにイライラする人初めて見た。いや、見えてないけど。でも今、きっと彼は本当に不機嫌な顔をしてるんだろうな。それを想像したら不思議と涙は引っ込んだ。心が軽くなった気がする。軽くなったついでに、私も自然と関西弁に戻っている。普段は職場に合わせるべく直してるけど、やっぱりこのほうが落ち着く。
『秋は人肌恋しくなるからなぁ』
「もう。また変なこと言うてん」
『ほんなら、も1つ変なこと言ったろ』
「えーなに」
『俺、明日そっち行くんやで』
「え!東京来んの?なんで、急にどしたん」
『おーおー、嬉しそうな声やなあ。そんなに俺に会いたいか』
「うっさいわ。ねぇ、なんで?出張?普通に有休?」
『さて、どっちでしょう』
「そーいうのいらん。何、なんか用事でもあんの?」
『せやからさっき言うたやん。秋は人肌恋しくなるって』
「は?意味分からんわ」
笑いながらも再び家路につくため歩き出した。真夜中でひっそりとしている夜道なのに、通行人は自分しか居ないことを良いことに浮かれて大声で電話をしている。
『せやから』
我が家のアパート前についた。携帯を肩に挟みながらバッグの中から鍵を出す。
『もうお前に会いたくて我慢できひんからそっちに行くわ』
手にしたはずの鍵がするりと落ちる。言葉の意味の理解に時間がかかったのはきっと、仕事疲れのせい。
『ほんなら明日、東京駅着いたら連絡するわ。明日は死ぬ気で定時上がりせぇよ』
そして電話は切られた。自分の家のドアの前でなんで立ち尽くしてるんだろう。落とした鍵を拾って、なんとなく空に目を向ける。綺麗な三日月だった。「これって……」
明日、なんて答えればいいの。どんな顔して会えば良いの。秋の月を見あげながらこれが恋だと悟るのは容易いことだった。


(……After 9/18)

9/21/2023, 7:38:10 AM

良いんだか悪いんだかここまで親しい仲になるとさ、思ってること素直に言えなくなってくるわけ。
けど、肝心なことはちゃんと言葉にして伝えてほしい、って、アンタは言うだろ?
そーゆうの、オレ、得意じゃないって知ってるくせに。なんで女って好きとか言われないと不安がるかね?そんなにオレって信用できない?

……あーハイハイ分かりましたよ。ったく。
つーか、ただ言うだけじゃん、って何。そんな軽い感じで言ってほしいわけ?あのさ、いつも言い慣れてるわけじゃないんだからそんなおてがる感覚で強要してくんなっつうの。
言い慣れてねーよ、当たり前だろ。そんなの、誰彼かまわず言うもんじゃねぇし。つか、もしそうだったらアンタ傷つくっしょ?
じゃあ言うよ?

アンタが好き。ずっと大事にしたいと思ってる。アンタの代わりは居ない。

これで分かってくれた?……って、何その顔。なんでそこで泣くわけ。言えってすごんできたくせになんでそうなるんだよ。
はーあ。やっぱオンナゴコロって分かんね。いや別に、言って損したなんて思っちゃいねーけど。だってホントのことだし。けどここは喜んで笑うとこだろが。オレが泣かせたみたいじゃんかよ。え?嬉し涙?分かりづらっ。
まーいーや。腹減ったからなんか食いに行こうぜ。泣かしたお侘びに好きなもん奢りますよ、おじょーさん。



9/19/2023, 12:51:19 PM

「ふぃ〜」
ようやく座れた。拍子に変な声が出た。オヤジくさいな、と自分でも思うけど今は1人だし気にしない。
「さて、と」
駅前のマック。学校帰りに寄り道して、そんなところに居るのには理由がある。本日は私の推し、“INFINITY MELODY”のボーカル、榊󠄀原リヒト様の誕生日なのだ。朝からSNSをくまなくチェックして、登校中はリヒト様の曲を聴き、一旦学校ではお祝いモードがお預けになった。授業早く終われとウズウズしながらようやく放課後になり、駅ビルの中にあるTSUTAYAで予約していたバースデー記念の写真集をゲットし、もうその時は居ても立ってもいられなくなってしまった。このままでは危うい。家に着くまでに一旦リヒト様を充電しなければ、と本能的に思ってマックに駆け込んだのである。
「うわぁ〜」
袋から半分ほど出して写真集をこそこそ眺める。まるでエロ本を初めて買った中学生みたい。でも、1番端のカウンター席だから左右を気にする必要はない。気をつけるとするならば、私の真後ろだけ。
「わー。俺だ」

え。





ょ。

人影が写真集にかかって。リヒト様の麗しい顔が見づらいじゃんいったい誰よこんな迷惑なことするやつは。って思って振り向いたら。
「リヒト……さま」
「うん。俺。写真集買ってくれたんだ。ありがとー」
待って私の頭おかしいの?後ろから声がして、リヒト様の写真集を死守しようとしたらなぜかホンモノが居て。なんてことなく私の右隣座ってるよ?なんで?
「ねぇ、これ食べないの?」
「あ、」
リヒト様は私の前にあるナゲットの箱を指差す。写真集眺めるのに食べてたら絶対汚すから、ひと通り拝み終わってから食べようとしていた。いや、ていうか待って、ほんとにホンモノ?本人?
「食べていい?」
「え、あ、はい、どーぞっ」
わけがわからないままなのに私は返事をしてる。リヒト様(仮)は、ありがとう、と言ってナゲットを食べ始める。俺バーベキューソース派だから嬉しい、と言いながら、幸せそうに、食べるその横顔は――
「リヒト様だぁ…………」
間違いない、ホンモノだ。ニット帽を被って伊達メガネをかけてるから一見分かりづらいけど、ちゃんとこめかみのホクロも口元のエクボもある。これはもう、正真正銘ご本人様です。眩しすぎる。やばすぎる。私、語彙力無さすぎる。
「ああああああの、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう」
「写真集、ステキでした」
「ほんと?良かった」
信じられないよ。リヒト様と会話してるじゃん私。目が合ってるじゃん。ナゲット、食べさせてもらってるじゃん。え?食べさせて、も、らっ……?!?!
「はむむ!?」
「キミも食べなよ。ていうかキミのナゲットなんだけどね」
リヒト様が私の口にナゲットを入れる。その瞬間にその細くて長い指が唇に触れた。あぁ、もう、だめかもしれない。もし、時間が止まる魔法が使えるならまさしくここだと思う。この瞬間を永遠にしたい。でも私の心臓もつかな。多分無理だと思う。貴方が好きすぎて、尊すぎて、
「死、ぬ……」
「え?何?」
「……はっ、いえ、何でもありません。あの、いつも応援してます。これからもがんばってください、ずっとずっと大好きです!」
「ありがとう」
死んでる場合じゃないのよ私。取りあえず、伝えたいことは言えた。力の限り伝えた私の言葉を聞いて、リヒト様はありがとう、ともう一度行って(ただし2度目はウインク付き)、マックを去っていった。こんなミラクルが起こるものでしょうか。私は暫く動けなかった。1個だけ残っていたナゲットを食べる。うん、美味しい。やっぱり夢じゃない。ナゲットで夢か現実かをはかるのもおかしな話だけど。

私の恋はバーベキュー味。
もうこの先、マックナゲットはバーベキュー1択。
そう心に誓ったのだった。

9/18/2023, 1:29:14 PM

ピピピ、と左腕のデジタル時計が音を鳴らす。ああもうこんな時間か。手早く荷物をまとめ、仕事場のフロアを後にした。
職場から最寄り駅まで歩いて10分足らず。だからというわけではないけど目いっぱい残業しても電車の時間を気にしてれば帰りに間に合う。ちなみにさっきの時計の音は日付が変わったことを知らせるもの。深夜0時を過ぎたら終電が間もないため、一応知らせるように設定してある。
外に出ても、まだまだ都会の夜はそこら中に灯りが灯っていた。わりとオフィス街のここも、他のビルたちの窓には電気が点いてるのが見える。みんな、遅くまでお疲れ様なんだなぁ、と思いながらホームで電車を待っていた。そこへちょうど携帯に着信が入る。こんな時間に誰なんだろう。画面に映っていたのはまさかの、地元の幼馴染みだった。
『お。起きとった起きとった。こんばんはァ』
「何言ってんの、もう。ていうかこんな時間に何」
彼とは、月に1度くらいは連絡を取り合っている。私がこうして上京してからも気にかけてくれる優しい人。つい先週に電話したばかりだったから、特に久しぶりとも思わなかった。
『……もしかして、覚えてへんとか?嘘やろ、かなしすぎ』
「だから何が。もう電車来ちゃうから早くして」
『え、まだ仕事しとったん』
「そうだよ、毎日残業。下っぱはこれが普通なの」
『その会社ブラックなんとちゃう』
「ちゃんと残業代出てるからまだマシよ。それより何よ、こんな時間に。あ、待って電車来ちゃった」
ホームのアナウンスと共に、遠くから光が近づいて来るのが見えた。
「今から乗るから切るね」
ちょい待ち、とか聞こえたけど、一方的に通話を切り上げる。滑り込んできた電車に乗る。平日の終電はとても閑散としている。もう、この時間に帰るのも慣れたから別に驚かない。端っこの席に座ったところでまたも携帯が震えた。今度は短いからメール。開くとまたアイツからだった。

“ハッピーバースデー”

「え……うそ」
今日って、そうか。日付はさっき変わったんだった。いやそれどころか自分の誕生日すら忘れていた。まさかアイツ、これを言うためにこんな時間に電話してきたっていうの。だったらなんで、肝心なところをさっきの電話で言わないのよ。
自分の降りる駅までまだまだあるのに、居ても立っても居られなくて私は次の駅で降りてしまった。つまりもう、これで帰れなくなる。そんなことはどうでも良かった。タクシーでも何でも、どうにか帰れる術はあるだろうから。
履歴から引っ張ってきたアイツの番号をすぐさまかけ直す。
『お。着いたん?』
「あんたさ!そーゆうことは言葉で言いなさいよ、せっかくかけてきたんだから」
『えぇぇ。けど、電話切ったのはそっちやん』
「それはそうだけど、電話繋がった瞬間に言ってくれれば全然間に合ってたわよっ」
電話の向こうで、なんで俺怒られとんの、とぼやいている。それもそうだ。彼には怒られる筋合いはない。せっかく誕生日に電話してくれたのに怒鳴る私がいけない。
「あー……ごめん。なんか疲れてたんだと思う、多分」
『そりゃそうやろな。こんな時間まで働かされてたら』
「けど、まぁ、覚えててくれてありがとね。無事に歳をとりました」
ふと、ホームのガラスに映った自分の姿を見る。それはそれは嬉しそうに顔を緩ませた自分が居た。そしてその向こうには、まだ眠らない東京の夜の景色が広がっている。
『お?なんや今、笑った?変な声聞こえたで』
「ううん、なんでもない。ていうか変な声って何よ」
適当なハッピーバースデーだったけど、今の私には間違いなく心に染み渡った。そしてこの夜景を見てたら、ああこんな誕生日の迎え方もいいなぁ、なんて思ってしまった。

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